おっさん、狩猟する
「おお、今日は大漁だな!
先程仕留めた猪と合わせて随分お裾分け出来そうだ」
川縁に設置した罠に鮎が多量にハマってるのを見て俺は歓声を上げる。
友釣りと呼ばれる手法に近いこの罠は単純な仕掛けの割に釣果が得やすい。
最近畑を荒らす猪を仕留めたついでに寄ってみたが……効果は抜群だ。
以前同行した先輩冒険者から教わった技術だったが、しっかり身になっているのが嬉しい。
罠ごと網を引き揚げると猪と合わせて手早く血抜きを行う。
どんな生き物もそうだが死後時間が経てば経つほど臭みが出る。
こうやって出来るだけ早い内に血抜きを済ませるのが美味い肉を食べる為に必要な処置だ。
消化器官を傷つけないよう細心の注意を払いながら手早く解体。
川の水で洗い流しながら内臓を含む不要な部分を除去していく。
粗方綺麗になったところで仕上げに入る。
「こんな事もあろうかと」
それは自分で定めたスキル発動のコマンドワード。
次の瞬間、亜空間より出現する塩と香辛料の瓶。
手中のそれらを俺は万遍なく猪と鮎に振りかけていく。
器用貧乏を自称する俺だが……
ただ一つだけ他者に誇れるユニークスキルがある。
それがこれ【自由に閉まって出し入れ便利】だ。
通常に呼ぶと長いので略してシマダと名付けたこのスキル。
これはいわゆる収納系スキルの亜種といえる。
掌サイズの物品を99種類まで自由に収納でき、かつ念じるだけで自在に取り出せるのだ。
このスキルは突発的な危機に的確な対処を迫られる事の多い冒険者稼業にとって計り知れないアドバンテージを生み出してくれる。
倉庫並の大きさを誇る【アイテムボックス】や【虚空庫】などに比べ収納量が少ない為、ギルドからは大した評価は得られなかったが……両手が塞がった状態で自由に物品を扱える事の有用性は記述するまでもない。
遠距離での照明弾や属性石による攻撃。
接近戦をこなしながらポーション回復など。
戦術の幅が大いに広がるからだ。
まあ今は収納スロットのほとんどをこういった日用品に変えているが。
「あれから一月、か……」
俺がこの開拓村に住み着いて、もうそんな月日が流れた。
上手く馴染めるか心配だったが……
スコットの言う通りそれは杞憂だった。
村人達は以前に来たとき同様気さくな人達で、俺を村の一員としてあっさりと受け入れてくれた。
今ではこうしてハンター兼村の何でも屋として重宝されている。
朝起きて畑を耕し、山での恵みを得ながら夜を迎える。
こんな風に贅沢な時間の使い方は初めてだ。
まるで細胞の一つ一つが生まれ変わった様である。
スローライフ、侮り難し。
機会があればあいつらにも教えてやりたいもんだ。
戦いばかりでこういった事に触れ合う機会がなかったからな。
今頃は何をしてるんだか。
しっかりしているようでどこか抜けているあいつらを思い出し俺は苦笑する。
まったく困ったものだ。
さあ、俺の帰りを待ってる人達がいる。
多量の収獲を喜んでくれるであろう村人達の笑顔。
素朴な恩義に報いる為、俺は仕留めた獲物を背に山を下りるのだった。
そ、総合ランキング入りしました(日間252位)。
これも全て皆様のお陰です。
順調すぎて正直怖いですけど……
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