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おっさん、焼き上げる


「こっちは用意出来たよ~おっさん」

「ん。火勢は上々。

 炭にも程良く火が熾きている」


 浜辺から少し離れた内陸寄りの沿岸部。

 プライベートビーチに設置されている野外用の竈前でシアとリアが声を上げる。

 魔術や魔導具に頼らず一からの火起こしは久々だったのか、若干手こずる様子が見られていたがどうにかなった様だ。

 種火を基に組まれた炭がパチパチと爆ぜる音が小気味よい。

 最初は面倒な作業にブウブウ文句を言っていた二人だったが――作業に取り組む内に楽しくなっていったみたいなので何より。

 根が素直で単純な二人だからこういう作業には向いている。

 これでこれからやるバーベキューの環境は整ったな。

 何故わざわざ原始的な手段で面倒な火起こしを二人にさせていたかというと、嫌がらせなどではなくこれは純粋に訓練である。

 安易さと利便性は違う。

 学んだだけの知識と体得した知恵も違う。

 そして如何なる技術も使わねば錆びついていく。

 なので時間がある時はこうやって個人の生存スキルを磨くのも俺達の日常だ。


「ありがとう、二人とも。

 こっちもあと少しで完成だ。

 ルゥもお腹が空いたろうけど――もうちょっと待っててくれ」

「わん!」

「偉いな、ルゥは。

 ……そっちの方は大丈夫か、フィー?」

「ええ、順調ですわ。

 わたくしにお任せ下さい」


 竈に隣接した簡易調理場で海老のワタを抜く作業を続けながら二人に応じた俺は行儀よく待機してるルゥを褒める。

 お腹が空いてるのにちゃんと待て、が出来るルゥは本当にお利口さんだ。

 少し離れた洗い場では俺が下処理した食材にフィーが鉄串を通している。

 脂の乗った各種の肉に新鮮な魚介類。

 旬の野菜に豊潤な香りの茸とチーズ。

 伯爵の手配してくれた素材はどれもが一級品だ。

 何も考えずただ焼くだけでポテンシャルを活かした美味い料理に化けるだろう。

 だが――それではつまらない。

 食道楽を自認する身としてはここからやる事が多いのだ。

 串を通し終わった食材に塩と胡椒を薄く振り……収納スキルを起動。


「こんなこともあろうかと」


 キーワードを基軸に発動する収納スキル。

 俺は指先から零れ出たタレを皿に満たすと食材を手に取り順次浸していく。

 このタレは俺特製の秘伝のタレである。

 スパイス系調味料を基に果汁などを程良くブレンドした一品だ。

 以前開拓村で披露したものより更に味が深まっている。

 このひと手間を加える事で一級品が超一級品に化けるのだ。


「――待たせたな。

 よし、焼くぞ!」

「待ってました~!

 ボク、もうお腹ペコペコだよ」

「わんわん!」

「空腹ゲージがマックス」

「うふふ、香りが凄く良いですね。

 出来上がりが楽しみですわ」


 竈の上に乗せた金網に油をそっと這わせて用意した食材を次々と乗せていく。

 牛肉と玉ねぎ。

 鶏肉と香葱。

 豚肉とピーマン。

 茸とチーズ。

 海老とカニ、バターを乗せたホタテなど各種海産物。

 傍から見ればドン引きされる量の食材だが――俺達に掛かれば問題なしである。

 むしろ食べ盛りがいるのでこれでも足りないくらいだ。

 よだれを垂らさんばかりの勢いで凝視する一同に苦笑しながら出来上がった順に鉄串を渡していく。

 人型とはいえルゥは扱いにくそうなので、串を外し葱抜きで皿に盛ってやる。


「お、美味しい~~~~~~~!」

「きゃうん♪」

「これは言語化出来ない美味さ。

 何というか――脳に来るレベル」

「運動の後だから尚更美味しく感じますわね」


 年頃の娘達が恥じらうのを忘れ、口元を汚しながら美味しく食べている。

 料理人としては「勝った!」と思う至福の一時。

 気を良くした俺は身を剥いた蟹の殻を回収。

 鍋に放り込むと余った適当な食材を投入。

 締めに飲む出汁を充分に取った濃厚魚介スープの作成に取り掛かる。

 ああ、海老の残りも有効活用しなくては。

 下味を軽く施し小麦を塗してフライパンにIN。

 同じ加工をした烏賊や蛸と共にカリカリに焼き上げ檸檬汁を数滴垂らしていく。

 ちょっと焦がし気味なのが美味さの秘訣である。

 見栄えの為のパセリも散らしてと……よし、完成。

 お手軽で酒にも良く合う、おつまみフリッター風味の出来上がりだ。

 

「こいつも食べてみてくれ」

「これも美味しいよ~~~~~!」

「わうん♪」

「手際の良さが半端ないです。

 さすがはガリウス様」

「ん。確かに。

 素人枠を超えた卓越した料理スキルに何でもそつなくこなす家事スキル。

 一家に一台はガリウスが欲しい」

「お一人様専属でもいいかも」

「ん~賛成」

「異議なし、ですわ!」

「おいおい、お前ら(苦笑)

 それより――それだけで足りるのか?

 まだまだ食材はあるぞ」

「あ、ボクお替り!」

「ん。同じく」

「わたくしもお願いしま~す」

「わん!」


 冗談を交えながらも盛り上がる一同。

 食べ終えた傍からお替りに追加注文が乱れ飛ぶ。

 俺は鍋奉行ならぬ焼き奉行と化しながら、ビールを片手にこいつらの腹を満たす作業に取り掛かるのだった。

 





誤字報告ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ「おっさん」から呼び方変えないんだろうか? 一応婚姻関係に有るわけだし
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