おっさん、組み立てる
「海だぁ!」
水着に着替えたシアが跳ねる。
胸も跳ねる。
「海ですわ!」
水着に着替えたフィーが跳ねる。
胸も跳ねる。
「わん!」
水着に着替えたルゥが跳ねる。
尻尾も跳ねる。
「海……嫌い」
水着に着替えたリアが跳ねない。
胸も跳ねない。
三者三様の有様を見せる三人と一匹。
初めて見る海に感動している(一部例外在り)らしい。
ノービス伯爵から海底ダンジョン攻略の依頼を受けた俺達は、パーティ後に休息らしい休息も取らず伯爵が本来治めている領地へと駆け付けた。
そこは大陸西部有数のリゾート地である【グエム】である。
太陽の楽園とも呼ばれるここは東部の【ハアエ】に並ぶ一大リゾート地だ。
観光娯楽で栄えただけあって街並みも綺麗で賑わっていた。
そんな中――俺達は依頼主の伯爵の好意でプライベートビーチ付きの別荘を借り受ける事になった。
これが派手さはないが物凄い内装と設備で――何と執事とメイド付き。
詳しくは後で述べるが、貴族御用達だけあって来客対応レベルは超ハイレベル。
感嘆の溜息が出る程だ。
取り急ぎ荷物を置いてゆっくりしようかと思った俺達に執事が勧めてくれたのが海水浴なのである。
各種レジャー物品だけでなく保温の魔術が付与された水着も各サイズ準備済みというのだから恐れ入る。
内陸部を活動拠点とする俺達は沿岸近辺に近寄る事すら稀だ。
かくいう俺も海に来るのはまだ三回目。
お上りさん状態はこいつらと変わらない。
目につくもの、食べる物全てが珍しくて――勉強になる。
元々この海水浴という行事自体がここ数十年で広まったという背景もある。
沿岸で人を襲う妖魔を遠ざけ安全を確保できる結界が完成したのが大きい。
つまり海中はまだしも沿岸部は人族の支配領域になったのだ。
そこに庶民でも楽しめるリゾートを持ってきたのが大当たりした。
ここは前任者から領地を受け継いだ伯爵の先見の明と手腕の確かさだな。
かくしてうらびれた漁村しかなかった【グエム】は温泉観光地【アタモ】に双肩する娯楽の殿堂スポットになった。
そんな事を思い浮かべながら俺は海岸にベストポジションを見つけると大きめのシートを設置し固定。手早く抱えてきたパラソルを組み立てる。
さっそく波打ち際で水を掛け合い騒いでいる皆(文句を言ってたリアも笑顔だ)の様子に微笑みを浮かべつつ、冷却の効果があるクーラーボックスからキンキンに冷えたビールを取り出しながらも一応忠告する。
「お~い、貸し切りとはいえあんまり奥深いとこへは行くなよ~。
この時期の波は比較的穏やかとはいえ、離岸流は怖いぞ」
「は~い!」
「わんわん!」
「分かってますわ~」
「ガリウスは心配性。
もう子供じゃないから平気」
「それは勿論理解してるさ。
だが――今日は完全にオフだ。
フィーの法術があるとはいえ、つまらない事で怪我をしたらケチがつくからな。
こないだのパーティは接待ばっかで疲れたのもある。
トラブルがない様に注意しながら――今日は目一杯楽しむぞ!」
「「「おお(わん)!」」」
誰も邪魔する者がいない上に最高のロケーション。
灼熱の陽光が注ぐ中、俺達の歓声が高らかに響き渡るのだった。
お待たせしました、第四部開始です。
ですが……しばらくはバカンスを楽しむガリウス達をお送りしますw




