おっさん、迷宮に挑む⑲
「それじゃ――昨日のおさらいよ、ガリウスちゃん。
まずは【調律】からやっていくわ。
無理のない範囲で追随してみてくれる?」
「分かった」
転移するなり地面に指を這わせたヴィヴィが俺を振り返り尋ねる。
俺も同様に膝をつくと指を迷宮の床に触れさせ意識を整える。
「じゃあ行くわね――【迷宮探査】」
「くっ――【迷宮探査】」
微動だにせずスキルを展開していくヴィヴィ。
隙の無いその構成力の凄まじさに圧倒されつつも――俺は必至に喰らい付く。
まだ探索は始まったばかりだ。
こんな所で後れを取る訳にはいかない。
懸命にスキルを維持する俺の姿を横目で確認するヴィヴィ。
茶目っ気たっぷりにウインクをすると構成式に干渉し補助をしてくれる。
お陰で展開したスキルの構成が安定し順調に伸びていく。
他者を労われるその余裕が凄いし――尊敬に値すると思う。
「――随分と上手くなったじゃない。
本職と比べても遜色のない速さになってきたわ」
「教官がいいんだろう、きっと」
「嬉しい事を言ってくれるわね。
でも――気を抜いちゃ駄目よ?
スキル覚醒に伴う【調律】は非常にデリケートで難しいわ。
才能のあるお嬢さん達でも手こずるほど。
なので無理はせず、回数でこなしなさい」
「ああ、了解した」
よく状態を把握してるヴィヴィの的確な指導に俺は感嘆する。
覚え立てだからこそ適切な助言が有難い。
それほどの難度なのだろう、この【スキル覚醒】というものは。
スキル覚醒――
それは個々の持つスキルの新たな一面を引き出す技だ。
俺達冒険者に限らずこの世界の住人は個々でスキルを持つ。
シアの【魔法剣】、リアの【高速詠唱】、フィーの【祝祷】など。
その効果は多岐に渡り、各々が務めるクラスを手助けしてくれる。
俺も前衛として戦士系だけでなく盗賊系を含むコモンスキルを多数習得してる。
スキルは本当に便利で、意識すればすぐ発動し鍛えればレベルも上がっていく。
使い勝手の良い便利なもの――ヴィヴィらに指摘を受けるまで、俺はスキルに対しそんなイメージしか抱いてなかった。
スキルレベルや得たその内容こそが重要である、と。
しかしヴィヴィは語った。
どんなスキルにも多面性と多様性があり――それは扱う者の認識次第だと。
例えば俺が良く使う感知系スキルの中に【敵意感知】というものがある。
これは脳内に描かれた自分を中心とする固有円内の敵を把握するものだ。
俺は今まで漠然とこのスキルを使ってたしそれで良いと思った。
敵意を持つモノのもっと具体的な姿や装備、詳細を知りたい――とか、接敵するまで分からなければならない事が多くあるのに。
リアや魔術やフィーの法術を頼りに、都合の悪い事に目を瞑っていた。
だが、それこそがただ優秀なA級と規格外――S級を分ける境目なのだ。
S級に到る者は考える――
自分の持ち札だけでは足りない。
ならばスキルを組み合わせる事で相互の補完をすればいい。
それは別に強力な新スキルを覚えるとかそういう事ではない。
ただスキルを漫然と習得しただけの者と、自在に扱える者の違いの差。
己が意をスキルに反映させる事――
それこそが基礎にして発展形なのだ。
習得難度の高いスキルを身に着けるだけが重要ではない、と。
話を戻そう。
俺は【敵意感知】に不満を持っていた。
ここで併せて【忍び足】と【魔力放出】を組み合わせ――【調律】する。
術師でない俺の魔力放出など戦闘には何の役にも立たない。
たまに微弱な魔力放出で敵の攻撃をホンの僅か先読み出来るくらいである。
でも――それは使い方次第なのだと教わった。
密度の無い微弱な魔力。
ならより低く――より薄く広げていけばいいと。
魔力波は不可視――目視では確認できない。
でも術者に及ばず魔力を扱う者にはバレバレだ。
すぐに察知され対策を取られてしまうだろう。
そこでヴィヴィから伺った助言が文字通り世界を変えた。
ならば【魔力放出】スキルを【忍び足】させればいいでしょう、と。
驚天動地。
自身や他者ならいざ知らずスキルを対象にしたスキルの使用。
だが――賢者であるリアがいたからすぐに不可能ではないと気付かされた。
何より目の前で実例を示すS級がいた。
ならばここはもう受け入れるしかない。
そうして俺が新しく得た【敵意感知】は、魔力波の反響を受け敵意を抱く者の姿形を脳裏へと立体的に描く事に成功した。
そう、凡庸な感知スキルがレアな【反響定位】級に跳ね上がった瞬間である。
しかもこれは戦闘に限らずありとあらゆるスキルに反映させられるのだ。
つまりこれこそがスキルの【覚醒】――真の意味でスキルを体得する事。
昨日ヴィヴィたちに解説されてから、俺達は比喩抜きに一歩抜き出たレベルに到ったと実感していた。
これを踏まえて――今ヴィヴィと取り組んでいるのは、複合型スキル展開の奥義とでもいうべき代物だ。
探知探索系スキルを複数組み合わせ【調律】し、迷宮構造そのものを読み取ろうとするものである。
ダンジョンの敵、罠――どこに何があってどんな脅威が待ち受けているか。
事前にそれが分かったダンジョンは難度がグッと下がるし安全性が増す。
無論、警戒を怠って良い事にはならないが――
パーティのスカウト不在の中、当座を凌ぐ技術を授けてくれたヴィヴィに対しては幾ら礼を言っても足りない。
「あら、いいのよ。
今度でも一晩付き合ってくれれば♪」
耳元で囁かれる、笑えない冗談を別にすれば――だが。
なので時折臀部に注がれる熱い視線には気付かない振りをするのだった。
――必死に(トホホ
あんまり他の方の紹介とかしたらいけないんでしょうが、
これはインパクトが完璧すぎてw お勧めです。
大根ですが、おでんパーティから追放されました。
パーティの野菜成分を俺が一手に担っていたんだが、大丈夫かな
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