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おっさん、大船に乗る


「もう大丈夫なのか、ルゥ!?」

「わんわん!」


 翌朝。

 俺達の前に姿を見せたルゥは昨日の消耗ぶりが嘘の様に元気に尻尾を振る。

 まだ本調子ではないだろうに、これ以上心配を掛けたくないと健気に振る舞う姿はいじましく、俺はその頭を撫でる。

 今日から復帰できるかは微妙なラインだったがどうにか間に合った様だ。

 フィーの献身的な回復が功を奏したのもあるが――やはり一番は急上昇しているルゥ自身のレベルも大きい。

 氷雪魔狼フェンリルと呼ばれるのに相応しい力を徐々に身に着けて来ている。

 腹を見せてゴロゴロしてる様子からはそんな風格は窺えないのだがな。


「あら、この子が噂のルゥちゃん?

 随分と可愛らしいわね」

「うむ。

 眼福なのである」

「わん!」

「フフ……愛らしいわ。

 でも――その身に蓄えた力は並の魔獣の比じゃないわね。

 この子って、もしかして階層主だったの?」

「さすが鋭いな。

 ルゥは元々は降魔の塔、第一層を守っていた魔狼フェンリルだ。

 撃破の折り――従魔の腕輪の力で、偶々テイミングに成功したんだ」

「あら、それは幸運を通り越して豪運ね。

 従魔の腕輪でテイミングすると種族レベルは1に戻っちゃうのよ。

 普通なら鍛えるのに多大な苦労が掛かるのに」

「ヴィヴィの言う通りだ。

 即戦力になるテイミング妖魔、魔獣は存在しない。

 しかし――何事にも例外はある。

 この魔狼の幼体は階層主だった。

 階層主は迷宮を為すダンジョンのバックアップを受けれる。

 その比率は強固なダンジョン程大きい。

 故にダンジョン内部で育成する限り、通常以上の成長を遂げているのだろう」

「へえ~そうだったんだ、ルゥ。

 だから君は強くなったんだね」

「わん!」

「初耳。

 けれどそう考えれば納得」

「何にせよ、ルゥちゃんが無事で良かったですわ。

 昨日は撤退のタイミングがあと少し遅ければ致命的でしたでしょうし」

「ああ、そうだな。

 だが――今日はそんなことは無いさ。

 ヴィヴィにブルネッロの助力もあるが……

 何より【スキル覚醒】について教えてもらったしな。

 これだけでも昨日の俺達とは別人だ」

「ああ、あれは大きいよね!」

「不思議な感覚。

 スキルそのものは大きく変容した訳ではないのに」

「う~ん……

 きっとそれは多面性というかスキルの多様性を知ったからではないでしょうか?

 固定観念からの脱却というか」

「貴重な時間を割いてでも、各自特訓に取り組んだ甲斐はあったな」

「はい、お喋りはそこまでよ貴方達。

 準備は万全ね?

 なら、そろそろダンジョンへ行きましょう。

 露払いの為、基本アタシが先導するけど――

 ガリウスちゃんも昨日の特訓の成果を見せてもらうわよ?」

「いいのか、あと二日しかないのに?」

「馬鹿ね、あと二日もあるのよ。

 美味しいお酒が半分コップに残っていたら「あと半分しかない」と考えるのか「あと半分もある」と捉えるは主観次第。

 昨日散々教えたでしょう?

 それにアタシ達が手を貸すのよ。

 ならば大船に乗った気でいなさい」

「頼もしいな」


 俺は苦笑しながら転移用の魔導鈴を出し起動させる。

 依頼達成期限――都市結界崩壊まであと二日。

 でも――ヴィヴィの言う通りそこに悲観的な想いはない。

 むしろ気負いなく足を運ぶ、ピクニック程度のプレッシャーしか抱いていない。

 気兼ねの無いそんな自分が不思議にすら思える。

 これは決して現実逃避している訳ではない。

 きっと俺達のレベルが名実共に――

 そこまで思い至った瞬間、俺達は転移する。

 天空ダンジョン降魔の塔――その最上層部へと。





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