おっさん、分らされる
「う~ん……軽く実力を見せてもらうつもりだったのだけど……
貴方達、今迄よく無事だったわね」
呆れたように俺達の方を見ながらヴィヴィは大きく溜息をついた。
ルゥの治療を無事終えたフィーと合流した俺達は今――精霊都市の地下に広がるダンジョンへとやって来ていた。
これから短い間とはいえ共にパーティを組む仲である。
チームとしての連携を図る為、互いの実力(主に俺達の)推し量り把握する事は必要な行為だと思ったからだ。
ただ――いきなり降魔の塔に挑戦して壊滅しては元もこうも無い。
なので、まずは比較的難度の低い地下ダンジョン(とはいえ、最深部)で俺達が先行してパーティの流儀を見せたのだが……様子を見届けたヴィヴィから開口一番ダメ出しを頂く。
「え~っと、ボク達のどこが駄目ですか?」
「ああ、そんなにしょげないでね。
貴女達の戦闘能力に関しては疑ってないの。
開始から終わりまで見届けたけど――
素晴らしい対処と速度だったわ。
阿吽の呼吸で相互補完し合う様は十分S級に叙されるだけの力があるわね」
「では――何が問題だ?」
「それは貴方が一番よく分かってるでしょう、ガリウスちゃん?
今のままじゃ遅かれ早かれ致命的な事態を招きかねないわ。
ダンジョンに限らずパーティの危機を未然に防ぐスカウトの存在は――そのまま生存率に直結する。
これまでは騙し騙しで貴方が兼務してきたのでしょう?
本職でもないのに鍛え抜かれた腕前はその丁寧さを見れば理解できる。
でも――ダメね。
キツい言い方になるけど、凡人が努力しても到達出来ない頂があるわ。
そしてこれから先――S級としての立ち振る舞いを求められた際にそれは大きな障害として貴方達に圧し掛かる」
「やはりそうか……」
以前から薄々感じてはいた。
パーティ構成の編成上、かなり歪になっていると。
なまじっかゴリ押しで突破出来る実力があったばかりに、都合の悪い事には目を瞑って来た結果がこれだ。
ヴィヴィの指摘通り、付け焼き刃ではこれから先は通用しないのだろう。
パーティの露払いとなるべき情報収集能力と罠類の発見と解除。
臨時にヴィヴィの力を借りれる今回はともかく、これから先考えていかなければならない課題の一つだ。
「まあアタシが同行するから今回は問題ないのだけどね。
余計なお節介かもしれないけど、有望な後輩が苦労するのは見たくないのよ」
「いや、最もな指摘だ。
痛感してた部分もあるし、実際助かるよ」
「ほら、アンタからも何か言いなさいよブルネッロ。
このままだとアタシが口うるさい小姑みたいじゃない」
「うむ、吾輩か。
そうだな……各々自分の役割を心得ておるので問題はなかろう。
強いて言うならガリウス、問題はお主にある」
「俺が?」
「うむ。
多分無意識だとは思うが――
行動の端々に仲間を庇う傾向が見受けられた。
それは年長者としては素晴らしいがパーティの一員としてはあまり推奨できん。
もっと仲間を信頼しろ。
多分彼女らはお主が思ってるよりも強いし、頼りになるぞ」
「それは……」
「ああ!
それ、ボクも常々思ってた!」
「大事にしてくれるのは有難い。
けど――頼られないのは哀しい」
「ええ、リアの言う通りですわ。
もっとわたくし達を信頼して下さいな。
雛鳥だっていつかは自分の手で飛び立つものです。
もうガリウス様の庇護を抜け出ても良い頃合いでしょう?」
責めるわけではない三者三様の言葉。
その言葉に衝撃を受けるよりも――どこか肩の重荷を下す様な安堵感が広がる。
意識しない内に何でも自分一人でやろうと俺は抱え込み過ぎていたのだろう。
それがブルネッロの指摘と追随するこいつらの言葉で払拭された。
俺が成長してるようにこいつらも共に成長している。
ならばその成果を俺が信用し信頼できないでどうする?
深々と息を吐き出すと俺は皆に頭を下げる。
驚く三人に改めて言葉を紡ぐ。
「大切にするあまり、上辺の言葉ばっかりでお前達を信頼してなかったな。
パーティの頭目としてあるまじき行為だ……すまない」
「謝る事じゃないよ、おっさん」
「ん。ガリウスに頼りきりだった自分達も悪い」
「致命的な事になる前にご指導頂けたんですもの。
これを機に色々と見直していきましょう」
「そうだな……ん、そうだ」
新人だった頃の面影はもうそこにはない。
こいつらは真の意味で冒険者になっていた。
俺だけがいつまでも昔に引き摺られているだけだ。
より良い関係構築の為にこれからは意識して変わっていこう。
俺達は変わる事を許される――成長する生き物なのだから。
「あらあら、御馳走様?」
「すまなかったな、ヴィヴィ。
探索だけでなく色々迷惑を掛けて」
「あら、いいのよ。
恩義もあるしこれも依頼の内と考えましょう。
さっきはああ言ったけど、付け焼き刃でも無いよりはマシよ。
ガリウスちゃんさえ良ければアタシから少し教授してあげるわ。
迷宮探索におけるレクチャーってやつを」
「それは是非お願いしたいな」
「うふふ、いい返事ね。
ただ――アタシは生温くないわよ。
ビシバシいくからきっちり付いてきなさい!」
「怖いな。
ただ、ここはしっかり学ばせてもらう」
冗談交じりにウインクするヴィヴィに俺は苦笑する。
そしてヴィヴィに教えを乞いてから数時間――
俺はその言葉が嘘や誇張でなく真実だと身体の隅々まで分らされるのだった。
とほほ。




