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おっさん、言葉を失う


「まずは礼を言わせて下さい。

 本当に――ありがとうございます」 


 屈託なく微笑み掛けてくれるS級の二人に俺は深々と頭を下げる。

 第六階層からの敗走後――

 俺が一番の最初にしたのは、ボロボロに憔悴した俺達の姿を見て駆け寄ってきたハイドラントに対し、人を呼ぶ手配をお願いする事だった。

 そう、残念ながら客観的に観て今の俺達では第六階層を突破できない。

 戦力が足りないのもあるが、一番は迷宮探索に秀でた仲間がいないからだ。

 罠や仕掛けで消耗し守護者と正面から殴り合ってはどんなパーティも壊滅する。

 かといって一朝一夕にパーティ構成と戦闘スタイルは変えられない。

 ならば――どうするか?

 答えは至ってシンプルだ。

 迷宮探索に秀でた者の力を借りればいい。

 たとえトップクラス罠難度を誇る初見ダンジョンでもまったく問題なく突破する様な凄腕の存在に。

 何も無いなら、ある所から持ってくる。

 最も初歩的な魔術理論だとリアは言っていたが。

 果たしてその人物は――いた。

 S級冒険者【隠形】のヴィヴィ。

 およそダンジョン探索系盗賊――密偵スカウトとしては最高峰の技量を持つ人。

 彼(彼女?)の力を借りる事が出来れば上手くいく公算がグッと高まる。

 そして可能ならもう一人のS級冒険者、ブルネッロの力も借り受けたかった。

 常々痛感しているが俺達のパーティは前線を支えてくれる盾役タンクがいない。

 今回連戦に次ぐ連戦で実感したのがその重要性だ。

 加速度的にペースアップしてしまう状況では、パーティにワンクッション猶予をもたらし一呼吸ついて態勢を整える事が何より大切だ。

 殺されるか殲滅かの短期決戦は連戦に向かないのである。

 タンク役がいる事で生まれるゆとりは、行動の端々で様々な余裕をもたらし――結果としてパーティ全体のパフォーマンスを底上げする。

 異名の【粉砕】しか知らないが、あの鍛え抜かれた巨躯は前衛最高峰といっても過言ではない。

 可能なら今回ばかりは彼の手も借りたい。

 まさに藁にも縋る想いでハイドラント経由の要請をお願いしたのだが――

 どうやら快く引き受けてくれたみたいだ。

 彼らの恩義を感じる心に付け込んだ形になってしまい心苦しいが、背に腹は変えられないし、冒険者の矜持なんてものより何が何でもこいつらを死なせたくない。

 その為なら俺が出来る事はどんな事でもするぐらいの覚悟はある。


「や~ね、ガリウスちゃん。

 これから臨時とはいえ、アタシ達パーティを組むのよ?

 そんな堅っ苦しい話し方はノンノン。

 いつも通り仲間に接する口調で構わないわよ♪」

「うむ。

 吾輩も同感である」

「そうか……なら遠慮なくそうさせてもらう。

 道中話は聞いてると思うが、実は――」

「ええ、案内してくれたハイドラントちゃんから聞いたわ。

 天空に浮かびし絶望をもたらす塔が墜ちるまであと三日しかないんでしょ?」

「ああ」

「それが本当なら困ったわね~」

「然り、だな」


 口調の割には二人の表情は明るい。

 俺もその意を汲んで敢えて聞いてみる。


「というと?」

「時間が余って仕方ないわね、って事よ。

 たまには先輩冒険者の胸を借りなさいな、後輩達。

 アタシとブルネッロが迷宮探索のイロハを教えて、あ・げ・る★」


 道化じみたウインクと共に探索の同行を快諾してくれる。

 黙って成り行きを窺っていたシアとリアが若干引き気味なのがアレだが。

 何にせよ、これで迷宮制覇に向けて望みうる有効牌は揃った。

 あとは取り組むのみである。


「聞いたな、レイナ。

 人数が増えるが問題はないな?」

「ふむ、勿論じゃ。

 新しく加入した二人に対しても報酬は出す。

 さらに今回、依頼期限を違えた不義理に関する違約金も上乗せしよう」

「うあ!

 そんなに出して大丈夫?」

「ん。さすが統治者、お金持ち。

 金はある所には腐る程ある」

「ボクも聞いた事があるよ、それ。

 あ、それはそうと改めてご挨拶しなきゃ。

 あの~ヴィヴィさんにブルネッロさん。

 これからよろしくお願いします」

「ん。ガリウス共々世話になる」

「あらあらまあまあ、可愛らしい事。

 アタシがオンナじゃなかったら放っておかないわね♪」

「お主は男だろう、ヴィヴィよ」

「嫌! ヴィーちゃんって呼んで!

 身体は男でも心はオンナなの!」

「あ~あははは(汗

 あの、よろしく――です?」

「疑問形は礼儀上宜しくない、シア。

 ここは先輩を立てて聞かない振りをするのが忖度」

「思っても口に出すなよ、リア」

「良く回る舌は術師の大事な資質の一つ、気にしない。

 でも疑問と言えば、これを機に二人に訊きたい事がある」

「あら、何かしら?

 可愛らしい賢者さん」

「ふむ。

 吾輩で答えられる事なら、気軽に聞いてくれ」

「謎多きS級――

 二人の職業【クラス】を知りたい」

「あ、それはボクも気になる!

 S級の皆さんってクラスチェンジを経た人が多いでしょ?

 異名は知れ渡ってるけど詳細は不明な人が多いんだよね!」

「確かに俺も気になるな」


 儀式を経て【勇者】になったシアの様に――

 S級と呼ばれる者の多くはクラスチェンジを受ける事が可能となる。

 通常クラスとは違い、破格の性能を誇る彼らの【職業】は唯一のもの。

 まさにオンリーギフトなクラスだ。

 謎多き彼らの詳細は、師匠を以てしても知らぬことが多い。

 期待に満ちた俺達の視線にヴィヴィは珍しく歯切れ悪そうに答える。


「う~ん……教えてあげたいのだけど、ね。

 一応、クラスチェンジの際に誓約したから喋れないの」

「誓約かぁ」

「ならば仕方ないな」

「残念」


 誓約は儀式魔術などの際に用いられる言霊の制約だ。

 自分が遵守出来る範囲で誓いを述べるのである。

 その誓いが難しければ難しいほど言霊には力が宿り己が威と化す。

 ちなみにシアは「苦しむ人を見かけたら絶対救います!」と誓約した。

 本当に愛すべき馬鹿だと思う。


「ホント、ごめんなさいね。

 でもブルネッロなら問題ないわよ?

 ほらほら、教えて上げなさいな。

 皆、絶対聞いて驚くから」

「ふむ。

 吾輩の職業、か」

「え~なんだろう?」

「あの体躯だからな……

 禿頭と併せて武僧モンク系か?」

「ん。ここは手堅く戦士職とみた」


 期待に満ちた俺達の視線にブルネッロは歯切れ悪そうに答える。


「学者だ」

「……はい?」

「吾輩は哲学する魔術師……【学者】なのだ」

「え”?」

「マジ?」


 彫像の様に固まった俺達の驚きの声が、宙に浮かんで消えていった。

 

 

 




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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど考古学者なのか、となると武器はムチやな(スットボケ
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