おっさん、手を借りる
「手酷くやられたようじゃのう」
上座に鎮座しながらレイナが痛まし気に声を掛けてくる。
レイナの指摘通り、確かに今の俺達は満身創痍だ。
可能な限りフィーの法術で回復をさせたかったが、彼女はルゥを救う為に死力を尽くしている最中だ。
邪魔をする気はないし邪魔をさせる気もない。
なので謁見を申し込んできたレイナに対し俺達は探索を終えた姿のままである。
拙い俺の治癒術では傷は塞げても失った活力の回復までは手が及ばない。
焦燥と消耗で頬はこけ、愛用の硬革鎧は腐食と爪痕でズタボロ。
まるで幽鬼のような佇まいで、随分とみすぼらしい姿に違いない。
それはシアやリアも同様だ。
ポニーテールの髪は振り解かれザンバラになってるし、学院の威容を示す賢者のローブは汗で湿り埃塗れだ。
だが――それがどうした?
油断した。
備えを怠った。
窮地に陥った。
けど――俺達は生きている。
誰一人、心折れてはいない。
苦い敗北感は確かに胸中にある。
でも今感じてるのはそれを凌駕する雪辱の炎。
リベンジ。
次は絶対に負けないという確固たる信念の下、俺達は威風堂々と謁見していた。
「ふむ……
ハイドラントから簡易報告は受けておったが……
アレだけの目に遭いながらも心は負けておらぬな。
さすがはハイドラントが見い出した者達――頼もしき事よ。
じゃが……汝らに悪い報せがある」
「どういう事だ?」
「疲れている所を集まって貰ったのは他でもない、その事よ。
妾の予想より――都市結界の限界が近い。
あと半月あった猶予が狭まったのじゃ」
「そうか……どのくらいだ?」
「以て三日。
急な話で申し訳ないが、あと三日の内に何とかせねばならぬ」
悲壮に満ちたレイナの声が謁見の間に響く。
俺達が死力を尽くしても及ばず撤退した第六階層。
そこが最上層、最後だからといってそこをあと三日の内に攻略する、だと?
そんなこと――
「至極簡単だな」
「――はっ?
ガリウス、そなた何と?」
「簡単だ、と言った。
任せろレイナ、あと三日で攻略して見せるさ」
「じゃ、じゃが――
今のお前達では……」
「ああ、確かに今の俺達では及ばない。
だからこそ――手を借りる。
自らが至らぬなら、先達の力を借りればいい」
「だ、誰のじゃ?」
「それは勿論――」
「失礼します」
縋る様なレイナの声を遮り――ハイドラントが入室してくる。
その背後に、二人の人影を伴って。
来てくれたか。
本人達から声を掛けて貰っていたとはいえ、若干不安だった。
けど義理堅い性格は知っていたので分の悪い賭けではなかったのだ。
その二人とは俺と同年代――
白い髪に紫のメッシュが入った痩身の柔和そうな優男。
筋骨隆々でありながら均整の取れた身体を誇る禿頭の巨漢。
俺の知り得る限り、この精霊都市で最も頼りになる二人――
「やっほ~ガリウスちゃん。
お久しぶりね、会いたかったわぁ♪」
「来て……要請に応じてくれたんですね。
すみません、心から感謝します」
「水臭いのである。
吾輩らが貴君らに受けた恩義は言葉では語れぬほど。
こうして返せるなら是非もなし、だ」
「そーよ。
遠慮なんかしてると、アタシ怒っちゃうんだからね☆」
大陸最高峰。
S級冒険者――【隠形】のヴィヴィと【粉砕】のブルネッロは冗談交じりにそう言うと、俺達の緊張を解く様に朗らかに笑い掛けてくれるのだった。




