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おっさん、悶え眠れず


「ガリウス様……

 少し、よろしいでしょうか?」


 深夜。

 明日からの探索に備え、バーベキューの片付けを終えて眠りにつく予定だった俺だが――部屋のドアを叩く音に強制的に起こされる。

 ドアを開けるとそこにいたのはフィーだった。

 下着が透けて見えるほど薄いネグリジェを身に纏い、どこか憂いを帯びつつも濡れた瞳で俺を見上げる眼差しは艶やかを通り越し扇情的ですらある。

 決して聖女と呼ばれる女性がするような恰好ではないだろう。

 だがフィーの大人びた容貌と相まってインモラルさが浮き出ている。

 聖と淫は相反するが故に互いを際立たせるのか。

 清楚でありながら蠱惑的。

 こんな魅力的な女性が夜間、自分の寝床を訪れてきたら――どんな高潔な者でも理性を失ってしまうに違いない。

 しかし――俺はまったく心揺れる事無く、むしろ悟った様に尋ねた。


「で……何の用だ、フィー?」

「えっ……そのぅ、今日は何だか人恋しいのです。

 ガリウス様さえ良ければ、ご一緒に温もりを感じたいと……」

「ああ、いいぞ」

「勿論、駄目ですよね。

 でもホンの少しでも――って、あら?

 珍しい……よろしいのですか? 

 いつものパターンなら、ここからが駆け引きのしどころですのに」


 不思議そうに小首をかしげるフィー。

 俺は深々と溜息をもらすと解説してやる。


「あのな、フィー」

「はい、なんででしょう?」

「お前ら以外の総勢が俺のベッドに来てる状況で何を言ってるんだ!

 っていうか、お前ら寝るなら自分のベッドで寝ろ!」

「やっほ~フィー」

「ん。やっぱりフィーが一番遅かった。

 支度に時間掛け過ぎ」


 俺のベッドに陣取ったシアとリアが陽気に手を振る。

 その服装はフィーほどでないがセクシーで眼のやり場に困る。

 シアは健康的なタンクトップに際どいショートパンツ。

 リアはおへそ丸出しの半袖半ズボンのパジャマだ。

 そしてベッドの足元に敷かれた毛布の上には、心地よさそうに横たわるルゥと、何故か一緒に上がり込んできたスピキオが仲良く並んでいる。

 最初シアがノックと共に訪ねて来た時は何事かと驚いた。

 好色英雄譚でいう節目イベントフラグかと警戒したがそうではなかったらしい。

 挙動不審になりながら応じる俺に対し艶やかな笑みで背後を示すシア。

 その後ろでは無表情なリアが何故かセクシーポーズを取っておりルゥとスピキオが共に鳴き声を上げていた。

 こんな事が続けばさすがに俺も慣れる。

 単純な俺をからかいに来たのだろう。

 だが詳しく話を聞いてみれば純粋に一緒に寝たいだけらしい。

 最近は探索続きで肌を突き合わせる時間が無かったから、と。

 まあ婚前交渉は問題だが、婚約もした事だし一緒に寝るくらいはいいだろう。

 呆れ返りつつも俺は許可するのだった。

 三人の瞳に邪な輝きが燈ったのが気になったが。

 しかし男用で若干大きめとはいえ、個人用ベッドに4人はさすがに狭い。

 現にちょっと身動きしただけでも――


「ちょっとおっさん……

 少し、当たってるよ?」

「ん。ガリウス――

 そこはまだ早い、から……駄目」

「あっ……今のはいけませんわ。

 そんな風にされたらわたくし、はしたない娘になってしまいます」


 ああ、村の男共の言う通りだ。

 俺は確かに幸せ者だよ、くそっ。

 耳元で悪戯交じりに囁かれる声。

 愛らしくも小憎たらしい可憐な小悪魔たちの手招き。

 鬩ぎ合う理性と煩悩の狭間。

 俺も男なんだぞ、お前達。

 結婚までは我慢だ、我慢するのだ俺――そう煩悶をしながらも、俺は三者三様に魅力的な三人と、幸福と不幸に満ちた眠れない夜を共に過ごすのだった。

 


























 この時はまだこんな時間が永遠に続くと――

 そう、思っていた。

 



ゆるふわパートは今回まで。

次回から物語が大きく動きます。

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