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おっさん、接待される


「もう~おっさんってば人が悪いなぁ~。

 まさかルゥが幼女に化身してたなんてさ。

 誤解なら誤解って早く言ってくれればいいのに~」


 湯上り後に狼形態へと戻ったルゥの背を撫でながらシアは誤魔化す様に笑う。

 生まれて初めての入浴を充分堪能したのか、ルゥはされるがままだ。

 大人しく身を委ねるルゥとは相対的に挙動不審な動きをするのはシアである。

 何気なさを装っているつもりだろうが……さっきから目が泳いでるぞ。

 ガウン代わりに用意されていた東方地域の民族衣装――作務衣を着込んだ俺は、溜息を堪えながらジト目でシアを見返し突っ込みを入れる。


「最初から徹底して誤解だと主張してたと思うんだが?

 誰かさんがそれを聞かなかっただけで」

「う”っ……

 お、おっさんが……おっさんがボクに冷たいよぉ~」

「仕方ない。

 ガリウスを信じ切れなかったシアが悪い」

「ええ、まったくです。

 ガリウス様の身の潔白は明白でしたのに」

「いやいや、ちょっと待てフィー。

 お前さ……

 俺が罪を犯したのなら、わたくし達が身を以て正すとか言ってなかったか?」

「さあ? 記憶にございませんわ」

「随分と都合の良い記憶だな、おい。

 まあ……俺も誤解を招きかねない状況だったのは認めるよ。

 婚約早々に浮気っぽい事をしてたら冷静じゃいられないのは確かだ。

 心配かけてすまなかったな、お前ら」

「をを!

 さすがおっさん、懐が広い!」

「ん。度量が大きいのは好感度アップ」

「寛大な御心に感謝致しますの」

「調子がいいな、まったく(苦笑)。

 ただシア――実際に手を出したお前だけは別だぞ」

「え? 何々!?

 何をされちゃうの、ボク!?」

「屋根を含む建物の修繕はリアとフィーの術で何とかなったからな。

 お前には身体で支払ってもらうとするか」

「――うえ!?」

「? どうした?

 何故、クネクネと身を捩る?」

「んも~おっさんてば!

 真面目な顔してエッチなんだから……」

「――はっ?」

「ボクが欲しいのならさ……

 いつでも言ってくれればいいのに。

 ボク、おっさんにならいつでもOKだよ? はい、チュ~」

「阿呆」

「んごっ!

 な、なんでチョップするのさ!

 眼を閉じてる時に攻撃を受けるのは凄く怖いんだよ!?」

「誰が脱げと言った。

 まったく……最後まで話を聞かないのはお前の悪い癖だぞ、シア。

 お前に頼むのはレイナに頼んでいたアレの運搬だ」

「――ああ、アレね。

 もう出来るの?」

「お抱えの職人に作らせているらしい。

 突貫で作業してるので今晩中には完成、明朝には届くとの事だ」

「わあ~なら第二階層攻略も間近だね♪」

「そうだな。

 あとそれだけだと楽過ぎるから、先程消耗した分の魔術を補充させて貰おう」

「え~どのくらい?」

「各属性最低20。

 気力が続くならもっとだ」

「うあ~アレって辛いのにぃ~。

 おっさんの鬼! 悪魔!」

「ほほぅ~口答えしたな?

 ならば各属性30に増加」

「うう……横暴だよ、DVだよ。

 ボクってば尽くす系の奥さんになるのにぃ~」

「ん。勇者ならそれぐらいの苦境を乗り越えるべき」

「これも試練ですわ」

「嫌だよ、そんな試練!

 ああ――分かった。

 こうなるのが予想出来たからレイナは足早に去ったのか。くそぅ」

「ボヤかないボヤかない。

 せっかく夕飯を用意してくれている。

 冷めない内にまずは美味しいご飯を頂くのが先決。

 はい、ガリウス――」

「口を開けて下さいね、ガリウス様。

 あ~んですわ」

「こらこら。

 見え見えのご機嫌取りは止めろ、お前ら」


 入浴騒動の合間――

 宴のおつまみとは別に、客室の居間に用意されていた夕食の御膳。

 そこには寿司や天ぷらといった、聞き慣れない調理の過程を経て旬の食材を活用した品々が並んでいる。

 器用に箸で寿司を摘まみ、俺へと差し出すリアとフィー。

 あまりにも露骨なよいしょを示す二人に苦笑を禁じ得ない。

 まあ、ここは素直に応じるとするか。

 俺は懸命な二人の勧めを受けて小粒の寿司を頬張る。

 口内に広がる具材と酢飯のシンフォニー。

 隠し味はピリッと舌を刺激するワサビという香辛料。

 なるほど、これが寿司か。

 グルメ好きとしては一度は食べてみたかった料理の一つだ。

 本当の寿司ネタとやらは海の魚を主に使うらしいが――

 生憎、精霊都市は内陸部に存在している。

 しかし川魚や山の幸、肉や卵などを上手く絡めてまとめたらしく、ビガー風味のライスボールによく合う。

 焼かないで生魚をそのまま食べるという習慣に対し最初は衛生面を疑ったが……しっかり下処理をしているという説明を聞き安心した。

 魔導具を使用して食材を氷結、解凍や熱処理をして酢漬けなどもしてるらしい。

 それなら寄生虫の心配もあるまい。

 何よりまだ残っている、この吟醸酒に合いそうな感じがたまらない。

 この場にはいないが夕飯を手配してくれたハイドラントには感謝しかないな。

 落ち込むシアを励ましながら俺達は至福の一時を過ごすのだった。

 

 





誤字報告ありがとうございました。

しっかり直させて頂きましたので、これからもよろしくお願いします。

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