第6話~非道、ラーニウス~
人の気配のしないさびれた街、緑梅。都市伝説の実態を調査するため、そしてその真実をその目で確かめるため、白羽チヨ子と横島隆太はその地を訪れていた。
今、彼らの手の中にあるのは二枚の紙切れと一台のビデオカメラ。・・・どれも緑梅にてサイエンスクリーチャーとマイクロアニマルの戦いがあったことを示す物であり。特にビデオカメラには・・・決定的な証拠が記されていた。
それはサイエンスクリーチャーのパワターシの肉声。
――これをWattubeに投稿すれば・・・真実が知れ渡って・・・
横島隆太の持つバッグ。先ほど拾ったビデオカメラの入っているそれを白羽チヨ子がちらりと見やる。
少しして、地面に落ちていた拳より一回り大きいくらいの大きさの石が突如宙に浮かんでクルリクルリと回ったのち・・・チヨ子たちに向かって凄まじい勢いで飛んできた。
「ポルターガイスト・・・っ!横島!」
「はい!」
石を避ける白羽チヨ子と横島隆太。・・・と、今度はあたりにけものの雄叫びが響き渡る。
「よほど未練があったんでしょうね・・・。」
「無実の罪で一方的に叩きのめされたんだからな・・・だけど・・・どうやって平和協定を・・・?」
「いくつかの説が立てられますね・・・。①自分の持っているビデオカメラのパワターシの様子は演技で、後に反省した ②サイエンスクリーチャーに虐げられていたっていうのは間違いで、それに気付いたマイクロアニマルが後に謝罪した そして三つ目。・・・サイエンスクリーチャーにでっち上げの罪を着せて好き放題に虐げ、何らかの脅し文句を使って強制的に平和協定を結ばせた。」
考え込む白羽チヨ子に三つの説を立てる横島隆太。・・・そんな彼に、白羽チヨ子が言葉を返した。
「もう一度、あのビデオカメラを見せて。」
「はい、わかりました。」
白羽チヨ子のその命にうなずき、横島隆太がバッグからビデオカメラを出しチヨ子に見せる。
リオルド・ディナスとパワターシのやり取りを一語一句聞き逃さないよう、白羽チヨ子が食い入るように見る・・・が。画面の中のパワターシは真剣そのもので。演技をしている風には全然見えなかった。
「どうでしたか?」
「いいや、真剣そのもの、である風な事しか見て取れなかった。・・・アレが演技だったっていうなら・・・ユニバ―シ賞物だよ。」
「ですよね。・・・って事は、①は無し。残るは・・・②か③ですね。」
「うん、行こう。・・・この奥にきっと。真実に近づくものがあるはずだ。」
頷きあい、チヨ子と隆太はさらなる探索を進める・・・と。今度はケースに入れられたSDカードがガラスのところどころ割られた電話ボックスの中に入っていた。
隆太が電話ボックスの中に入り、SDカードの入ったケースを手に取ると。ケースからSDカードを取り出しビデオカメラの中に入っていた物と取り換えた。その中に記録されていたのは、どこかの建物の会議室のような部屋で行われた研修会のような物の様子。
それには前髪を切りそろえた齢10代前半と思われる少年がはきはきとした様子でサイエンスクリーチャーが悪であり、マイクロアニマルがサイエンスクリーチャーの被害に遭っていていかに可愛そうであるかを話していることが映っていた
「もしかして。・・・こいつがラーニウス・・・?」
「・・・こいつの言葉をミスラウ軍の殆どがうのみにしている、という事ですね。・・・僕の言う三つ目の仮説が本当だというならば、の話ですが。」
隅々までSDカードの中のビデオを見ていくチヨ子と隆太。・・・最後に彼女たちは。緑梅で撮られたと思われる一つのビデオを再生した。
それには撮影者と思われる人物の前に、黄色い体の鳥のような姿の生き物が傷だらけで痛々しいさまの同じく黄色い体ではあるが腹部の一部が水色をしている生き物をかばうかのように立ち、威嚇しているという様子が記録されていた。
『中真くん。この生き物・・・。こちらを警戒しているけど・・・。』
『うん・・・。僕達が教えられた通りなら、悪意に満ちた表情でこっちにいきなり攻撃を仕掛けてくるはず。・・・とりあえず事情、聞いてみよう。』
『うん。』
少女の声の後、セミロングの幼さ残る顔をした少年が黄色い体の鳥のような姿の生き物に近づき。目線を合わせた。
『・・・君の事を、教えて。・・・大丈夫。僕達は君には危害を加えないよ。』
優しい声でそう話す少年。・・・すると、警戒心を解いたのか黄色い体の鳥のような姿の生き物が、言葉を発し始めた。
『わ、私とブイナームの事、襲ったり・・・しない?・・・それを約束してくれるなら・・・話すよ・・・。』
ぽつりぽつりと話し始める、黄色いからだの鳥のような姿をした生き物。・・・その言葉の中で、その生き物の名前がパロミットという名前であることもわかった。
そして。そのパロミットがマイクロアニマルがラーニウス、ミスラウ軍と手を組みサイエンスクリーチャーに危害を加えていることまで話していたそのさなか。
『おおっと、高円寺と中真、そこをどいてくれ。・・・優梨、バックスロアー。』
声がしたと同時に撮影者と中真と呼ばれた少年が後ろに下がり…直後薄黄色のレーザーのようなものが目の前を通り。パロミットを跡形もなく消し去った。
中真と呼ばれた少年が、声の主…前髪を切りそろえた齢代前半と思われる少年に抗議をする。・・・と、その少年はさも同然といった風な様子で、こう言い放った。
『中真健二。お前忘れたのか?サイエンスクリーチャーは俺達ミスラウ軍にとって排除すべき下等生物・・・。生きる価値すらない奴らなんだよ。だから俺らミスラウ軍がこうして・・・排除しているんだ。』
ビデオに記録された、少年の声。それをきっかけに、横島隆太と白羽チヨ子の中で一つの説が真実の物となった。