第5話~向日葵の蕾が開くとき~
マイクロアニマルによるサイエンスクリーチャーへの一方的な蹂躙劇があった、と言われる緑梅。かつて栄えていたという話がウソのように荒廃したその街を、二人の男女・・・白羽チヨ子と横島隆太が探索していた。
目的は蹂躙劇の真実を突き止めるため。白羽チヨ子はサイエンスクリーチャーが濡れ衣を着せられているのではないか、と踏んでいたのだが・・・証拠として集まった物にはマイクロアニマルがサイエンスクリーチャーに虐げられ、そこをミスラウ軍に助けられたかのような事しか書かれておらず・・・横島隆太と白羽チヨ子は、サイエンスクリーチャーの事を疑い始めていた。
・・・しかし、それは間違いであったことを、一つのカメラが証明する。・・・それは,あちらこちらに石ころの落ちているブロック舗装の施された歩道の上に無造作に置かれていた。
「これは・・・ビデオカメラ?」
「ミスラウ軍っていうところは現代とほぼ同じような文明を持つところだったのかもしれないな。・・・中身、見てみるか?」
「そうしましょう。何か、映っているかもしれません。」
横島がカメラの画面を操作し。その中に入っている映像の中から一つを選ぶ。・・・そこには。
カメラを撮っているモノに対して警戒心をあらわにし。それでいてどこか怯えているかのような胴体から翼を生やし、上半分が赤茶色の愛らしい姿の生き物が映っていて・・・同時に撮影者の物と思われる男性の声も記録されていた。
『俺はミスラウ軍所属の戦闘員、リオルド。ラーニウスが"マイクロアニマルがサイエンスクリーチャーに虐げられているので助けてあげよう"というので緑梅という場所に向かったところ、このような生き物と出会ったのはいいが、何やら様子がおかしい。そのため、映像でこの生き物の様子を記録しようかと思う。・・・ディナス、気を付けて触れ合ってくれ。』
『わかったよリオルドさん。』
撮影者、リオルドと名乗る男に名を呼ばれ、白地に紺色の縁の法衣を身に纏った紺色のミディアムヘアに少々幼さの残る顔立ちの少年が生き物の前でしゃがみ込み。左手を差し出す。
画面に映っている少年に対し上半分が赤茶色のその生き物は。差し出された少年の中指にかみついてきた。
しかし、紺色の髪の少年は表情を変えることなくその生き物をじっと見つめ続け。しばらくして・・・上半分が赤茶色をした生き物は警戒が解けたのかどこかリラックスした様子を見せ始める。
『よし、いい子だ。』
少年の手を甘んじて受け入れ、撫でられる生き物。・・・少しして、少年・・・ディナスが端末を取り出し。何かを調べ始め・・・しばしの後に、ディナスが撮影者であるリオルドに結果を知らせる。
『リオルドさん、この生き物・・・サイエンスクリーチャーのパワターシっていう生き物だよ。』
『サイエンスクリーチャー、だと?マスターバルータの話では・・・サイエンスクリーチャーはマイクロアニマルに危害を加えている悪い生き物だ、と聞かされていたが・・・。』
『さっきの怯え方からして、何か事情があるんだと思う。・・・パワターシ、・・・僕達に教えて。・・・事の顛末を。』
上半分が赤茶色をした生き物、パワターシを抱きかかえ、子供にでも言い聞かせるかのようなやさしい声でディナスが言葉を紡ぐと。その生き物はポツリ、ポツリと人の言葉を話し始めた。
『僕はパワターシ。サイエンスクリーチャーのノールミー種だよ。・・・僕はもともと黒龍って人の牧場で暮らしていたのだけど、突如ラーニウスと名乗る少年がやってきて黒龍の事を牧場から追い出し・・・牧場を乗っ取ったんだ。僕達は路頭に迷い、安住の地を求めあちこちをさまよった。・・・だけど行く先々でラーニウスとマイクロアニマルが僕達に攻撃をしてきて僕達はとても困っていた。届かない心の叫び、・・・僕達は、散々苦しめられた。・・・君達は、僕達の言う事・・・信じてくれる・・・?』
パワターシの言葉を記録したのち。映像は少々幼さの残る顔立ちの少年…ディナスが首を縦に振ったのを最後に途切れてしまう。
その映像を見終えた隆太とチヨ子は。どこか決心を決めた風な表情をしていた。
「・・・どっちか真実か、・・・これではっきりしたと思いますよ。・・・サイエンスクリーチャーがマイクロアニマルとラーニウス、そしてミスラウ軍に虐げられていた。・・・それが真実、です。」
「・・・ミスラウ軍に蹂躙されて弄ばれた。・・・その時の怨念が、此処に漂っているのだな・・・。」
しんみりとした空気が、二人の間に流れる。
サイエンスクリーチャーの事を思いつつも。隆太とチヨ子はさらなる真実を見つけるため、緑梅の町の中を進んでいくのだった。