第一話~廃れた街の幽霊~
十六王女第一高校。その高校は何十年か前に野球部が無双ともいうべき強さで甲子園を連破した、名門中の名門校。プロからのスカウトも多数来ており、その名は全国に知れ渡っていた。
その十六王女高校の校門へ戦車もかくやという勢いで走っているのはセミロングの髪の日本的な顔をした少女。名を白羽 チヨ子、という。
なぜ彼女が走っているか。それは現在時刻を見ればわかるだろう。朝の8時40分。そう、彼女は遅刻したがゆえに走っているのだ。
その校門の前にたどり着くと、今度は車のスキール音が聞こえそうなほどの急制動をかけ。チヨ子が高校の中へと駆けていく。
彼女が教室の中にたどり着くと。もうすでに先生の話が始まろうとしていた。
「ま、ま、間に合わなかったぁーっ!!!」
「白羽、またか。・・・これで何度目だ。」
「す、すみませーんっ!」
「まったく・・・今じゃお前が遅刻しなかった日にゃ私の息子がカードゲームで一番のレアを誇るカードを当てる、というほどになってるんだぞ。」
「うぐぐっ・・・。」
七三分けの真面目そうな雰囲気を漂わせる30代前半ほどの男性教師・・・真壁 信夫に注意をされ。チヨ子がシュン、とうなだれながら、席に向かう。
その隣にはほんわかとした人当たりのよさそうな雰囲気を漂わせる少年・・・横島 隆太が座っていた。
「白羽さん、また夜更かしですか?」
「し、仕方ないだろう!?"トロイアの災厄"が面白くて気づいたらあんな時間だったんだ!」
夜の10時ごろから始まるロボットパンデミックドラマの題名を出し横島に反論をするチヨ子。
そんなこんなで時間も過ぎていき。時刻は午後の4時50分。部活帰りに白羽チヨ子と横島隆太が横に並んで帰っていく。
彼女たちは帰り道に、世間話をしながら帰る、というのが日課であった。・・・この日も、いつもと同じ。そのはず。
しかしその日は違った。
「白羽さん、"緑梅の摩天楼の怪奇"・・・って知ってます?」
「緑梅の摩天楼の、怪奇?何だい、それは。」
「十六王女高等学校が甲子園で初優勝を成し遂げる何年か前。西の方に緑梅という町があったんです。その町は都心と離れていながらもかなり活気があって、第二の都心なんじゃないかとまで言われていたのですが。ある時その街で、サイエンスクリーチャーとマイクロアニマル、そしてその生き物を擁護する戦い…いや、"マイクロアニマルとその擁護派の一方的な蹂躙劇"があったんです。」
「蹂躙劇・・・?ってことは、一方的に・・・。」
「そうなります。・・・僕も最初は信じられなかったのですけどね。・・・その"都市伝説"を調べていったときに、知ったんです。・・・その戦いの後、緑梅という町を訪れた人たちが謎の襲撃を受ける、という事件がありました。」
「・・・緑梅はそのあと、どうなったんだ?」
「事件の風評被害で訪れる人がいなくなり。・・・さらには住民も激減していきました。・・・その末、緑梅は・・・不気味なゴーストタウン、いや、"ゴーストシティ"と化したんです。」
横島からの話を聞いて、どこか苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるチヨ子。少しして彼女が、言葉を放つ。
「横島、ウチもその都市伝説、もっともっと掘り下げてみる!・・・貴方に協力するよ!」
チヨ子から帰ってきた言葉が想像できなかったのか、横島隆太は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしていたが。少ししてにこやかな顔を浮かべた。
「ありがとうございます。・・・話の上では悪し様にしか書かれてなかったサイエンスクリーチャー、その実態を・・・明らかにしましょう。」
お互いに首を縦に振り、それぞれの帰路につくチヨ子と隆太。・・・その数日後の休日。
「遅れてごめん横島!」
「大丈夫ですよ、白羽さん。・・・さあ、行きましょう。」
木立之川駅。少摩モノレールの通る其処に、二人の姿があり。彼らは緑梅線にのっていったのであった。
・・・しかしこの時、彼女たちは知らなかった。その都市伝説が彼らに牙をむくことを。