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6.カロリナ、金色芋を掘りにゆく。

クリフ王子の手紙を受け取った翌日は体調が優れず寝ていることになっている。

ゆっくりお寝坊ができる。

お見舞いの手紙が返ってきて、その返礼を書き終えると暇になった。

カロリナはお昼ご飯を食べると、昼寝の時間にこっそりと屋敷を抜け出した。

従長のオルガは深い溜息を付いた。

御当主と長男はカロリナに甘い。

屋敷の中に閉じ込めては息も詰まるだろうと我儘を許している。

カロリナの自由奔放さに磨きが掛かっているように思えた。


「お嬢様、こちらです」

「大丈夫よ」


ラーコーツィ家の屋敷の周りは砦のような城壁造りになっている。

正面の門を入ると大庭園が広がり、その中に掘で囲まれた城のような小宮と舞踏会場があった。

小宮は来客用であり、普段は使われない。

カロリナが住む本邸はその奥にあった。

庭園の脇に屋敷に働く者や領兵の居住区と畑・果実園もあり、本邸から少し離れている。

本邸の脇に広場と厩舎があり、兵の訓練や乗馬ができるようになっていた。

本邸の奥は林になっており、森林浴を楽しむこともできる。

この広い砦の中がカロリナの遊び場だった。


昔は魔物の侵入を防ぐ大切な城壁だったが、今では周辺に多くの貴族の屋敷が建ったことで役目を終えた。

だから、あちらこちらに崩れたままで放置されていた。

その壁には子供が通れるくらいの崩れた穴があった。


「カロリナ様、これを着て下さい」

「また、随分と汚い服ね!」

「服ではなく、外套(がいとう)です。そのドレスは目立ちますから!」

「そう、仕方ないわね。では、金色芋を取りに行くわよ」

「畏まりました」


金色芋は庶民のおやつだ。

サツマイモになりそこねたような芋であり、野山に生えていた。

栄養価の少ない屑芋だ。

それをエルがおやつに食べたらしい。

それを聞いて、黙っているカロリナではない。


これはもう食べるしかありません。


どうしてそういう思考になるのかは不思議だが、カロリナはそういう令嬢であった。

ホント、貴族が庶民の食べ物を欲しがるのだろう?

普段から美食を食べているカロリナが食べるようなものではない。

エルの説得も空しく行くことが決まった。


「カロリナ様、そんなに美味しいものではなりませんよ」

「大丈夫よ。最高においしい食べ方を聞いてきたわ」


誰かがおいしいと言えば、食べてみたい。

カロリナは食い意地が張っていた。

おいしいものを食べる為にどんな障害も苦にならない。

森を抜けると小高い丘があり、それを登ってゆく。

丘の頂上に達すると、一面が黄金色に輝くススキが揺れていた。

キラキラと光っていた。


「カロリナ様、この蔦が金色芋の蔦です」

「そうでした。芋を食べにきたのだわ」

「これをひっぱれば、出てきます」

「では、一緒に引くわよ」


う~~~~ん、カロリナとエルが一緒に引くがビクとしない。

エルの親父は簡単に取っていたという。


困った。

予想外だ!

地面を掘る道具を持ってきていない。


ここまで来て諦めるのは嫌ですわ。


それでも二人でひっぱっては抜けない。

手を汚してまで掘る気も起きない。

こういう時のカロリナの勘は冴えわたる。


そうだ、二人では無理なのだ!

なら、三人目を呼びましょう。


「そこにいるのでしょう。出てきなさい。早くしないとお父様に言って解雇するわよ」

「参りました。いつ、お気づきになりました」

「気配が丸見えよ」

「そうですか! 私もまだまだ未熟でした」


ひゃぁ、カロリナは背後に突然現れた者にびっくりした。

気配とか言ったが、本当に気配を感じた訳じゃない。

檄甘のお父様とお兄様がカロリナとエルだけで外に出す訳がないとカマを掛けただけである。

森に隠れていると思ったのに、背後から現れてびっくりだ。


「カロリナ様?」


固まっていた。

でも、カロリナは意地っ張りでもあった。

びっくりしたことはなかったことにする。


「何でもないわ。呼ばれたら、私の前に出てきなさい」

「申し訳ございません」

「芋を掘るのを手伝って欲しいの?」

「私は護衛です」

「手伝えと言っています。それとも私に意見するの。貴方の雇い主に一言いえば、貴方なんて首よ」

「判りました」


よし、労働力を手に入れた。

でも、思っていたよりは幼い?

少しお姉さんの可愛い子だ。


カロリナは首を捻った。

耳が少しとんがっている。

妖精族と呼ばれる種族だった。


カロリナは少し年上と勘違いしたが、かなり年上であった。

純潔種は400年も生きる長寿種であり、成人するのに120年も掛かる。

人種の成人が15歳とすると、少女はまだ5歳(40歳)の幼子であった。

幼く見えるのも当然である。

でも、年月の分だけ鍛えられた精鋭の一人である。

でも、カロリナにとってそんなことはどうでもよかった。


「名前は何て言うの?」

「一族の掟で名前は言えません。(アンブラ)とお呼び下さい」

「アンブラね。判ったわ。では、この芋を引き抜きなさい」


小柄な少女のように見える(アンブラ)が片手で次々と芋を引き抜いてゆく。

大人顔負けであった。

それを小川まで持って行って芋を洗う。

そして、芋の上に落ち葉を集めた。


「ふふふ、これが侍女に聞いた最高においしく食べる秘訣なのよ」


カロリナは落ち葉の山に腰から取った杖を翳した。


『火の精霊よ。汝らの助力を求めん。神が定めし、法に従い、汝らの仮初めの主人であるカロリナが命ずる。イデアの片鱗をなす炎の神マルタによって造られし子よ。万物を焼き付く業火の炎よ。我、力を対価なし、ここの力となって具現せよ。すべてを焼き尽くせ、ファイラー!』


カロリナの杖の先に魔力が集まり、世界の隙間が開いた瞬間、落ち葉の上に炎が出現した。


ごごごごごぉぉぉぉと激しい炎がうずまった。


「ふふふ、どう、私の魔法は!」

「お嬢様、凄いです」

「そうでしょう。そうでしょう。私は凄い魔法使いなのよ」


カロリナは火の魔法が得意であった。

森を供とするラーコーツィ一族では火を得意とする者はめずらしい。

火は森を焼くので嫌われるのだ。

その中でもカロリナは群を抜く才能を持っていた。

もっと褒めなさい。

カロリナは火の魔法が成功して有頂天であった。


「お嬢様、芋が炭になってしまいました」


えぇぇぇ~~!

当然であった。

あの分厚い魔物の皮を突き破り、魔物を討伐する攻撃魔法である。

落ち葉と芋なら簡単に燃え尽きてしまう。


私のお芋が!


調理に攻撃魔法を使う馬鹿はないが、カロリナはちょっと馬鹿であった。


「お嬢様はそこに座っていて下さい」

「私のお芋は?」

「大丈夫です。まだ、沢山残っています。落ち葉を集め直して焼けばいいのですね」

「火はどうするの?」

「私は風使いですが、生活魔法くらいなら使えます」


そう言うと、(アンブラ)は落ち葉を集め直し、芋の上に乗せた。


『精霊よ。我が願いを聞いて欲しい。火よ。灯れ(イグルス)!』


指先に小さな火が灯り、落ち葉に着火した。

なんか悔しい。

カロリナは凄く悔しかった。

だから、(アンブラ)から生活魔法を教わった。


灯れ(イグルス)!』


ごごごぉ、カロリナが唱えると背丈くらいの火が灯った。

どうして?

才能があるのも問題だ。

魔力調整ができなければ、カロリナは生きた火炎放射機だった。


「やはり、カロリナ様は凄いです」

「凄くない。これじゃ、お芋が炭になる」

「お嬢様は凄いのです」

「私もそう思う」

「これじゃ、お芋が焼けないのよ」


どこまでもお芋中心の思考であった。

ぷんぷん、頬を膨らまして拗ねるカロリナも可愛い。

エルのとってどんなお嬢様も可愛い。


さて、できた芋を取り出す。

芋を二つに割ると、中から黄金の身が出てくる。

怒って歪んだ顔がすぐに笑顔に変わった。


「このほくほく感、ふわふわ感がおいしいわ」


カロリナは大量の金色芋をゲットして大満足でした。

この丘は宝も山だ。

芋の蔦がたくさんある。


「私はこの山を黄金山と名付けます。ここに宝(金色芋)があることは誰にも言ってはなりません。私達だけの秘密です」

「お嬢様、何故、秘密なのですか?」

「ここの宝(金色芋)があると知れれば、取られてしまうでしょう。いいですか、秘密ですよ?」

「はい」

「畏まりました」


エルと(アンブラ)は答えた。

答えたが、雑草のような芋をわざわざ誰も取りにくる者などいない。

ここは侯爵様の土地だった。

そんな危険な山に誰が入るのだろうか?


こんなおいしい宝(金色芋)が注目されないのか?

この芋は甘味が少なくからではない。

すぐに乾燥するからだ。

持ち帰って焼いて貰うとパサパサで砂を食べているような食感がした。


「何これ?」

「金色芋です」

「山で食べたのはおいしかったのに!」

「お嬢様、金色芋は取ってすぐに焼いて食べないとおいしくないのです」


現地でしかおいしく食べられない芋、それが金色芋だった。

普通においしい芋なら庶民の芋などと呼ばれない。

部屋に積まれた芋を見て、カロリナはどうしたものかと悩んだと言う。


「オルガ、いらない?」

「いりません」

「エルは手伝ってくれるのよね?」

「もちろんです。お嬢様は言われるなら、どんなこともやってみせます」

「ありがとう」


エルは仲間だ。

お芋好きでよかった。

エルに感謝だ。


でも、別にエルは芋好きではない。

カロリナの命だからだ。

どこまでも自分の都合でしか考えないカロリナであった。


「オルガも一緒に食べない?」

「遠慮します。責任はお嬢様が持って下さい。捨てるというならば、すぐに手配しましょう」

「それは駄目よ」


だって捨てるのも勿体ない。

どこまでも食い意地が張ったカロリナであった。


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