5.カロリナ、ときに病弱になる。
秋、森は葉の色を変え紅葉が広がった。
手紙を持った侍女が入ると、カロリナはダンスの練習をしていた。
ダンスは令嬢の嗜みだ。
基本的な型を覚えると、パートナーを呼んで実際に踊ってゆく。
お抱えの楽団が音楽を奏でて軽やかにダンスを踊る。
カロリナ一人の為に多くのの大人が付き合う。
一曲が終わるとカロリナは椅子に腰かけて休憩を入れた。
もう限界だ!
「エル、大丈夫?」
「すみません。お嬢様」
「もう少し休んでなさい」
「絶対に踊れるようになってお嬢様の練習相手になれるようになります」
「エルはそこでがんばらなくいいのよ」
「お嬢様、ありがとうございます」
「ホントにがんばらなくていいのよ」
エルが踊れるようになるとパートナーが増える。
それは練習時間が増えることを意味する。
しかも同じ年のエルが根を上げないと私だけが駄目な子に見えてしまうじゃない。
カロリナは身勝手なことを考えていた。
だが、従者エルは自分の至らなさを責めないカロリナに感動していた。
カロリナの為にもっとがんばらとう決意を新たにするエルであった。
ぱん、ぱん、ぱん、ダンスの教師が手を叩いた。
「さぁ、休憩は終わりです。再開しましょう」
「先生、もう少しだけ」
「いけません。疲れているからこそ無駄な力が抜けるのです」
教師は疲れてからが本当のダンスを提唱するダンスの達人であった。
でも、10曲も踊れば足が痛い。
膝もガクガクだ。
さて、今日はどんな言い訳をしてレッスンを終わろうかと思案していた。
お腹が痛いというのは前回やった。
今日は先に腹下しの薬を見せてくれた。
「カロリナ様、この薬はどんな腹痛も直してくれる特攻薬です。お腹が痛い時はいつでも言って下さい」
「ほほほ、今日は万全です」
「それはよかった」
あの異様な臭いを放つ黒い物体を飲みたくない。
腹痛は駄目だ。
カロリナはどんなものもおいしく食べる名人であったが、鼻を摘みたくなるような得体の知れない物質を飲む趣味はなかった。
足が痛いと断るのも駄目だ。
控え室に治療師を待機させいる。
治癒魔法師ではなく、直接に体を揉んで動けるようにしてくれる。
でも、治療中の痛みは泣きたくなる。
目眩がすると言うのも駄目だ。
光の魔法を得意とする牧師も待機している。
その手の不具合は治癒魔法で治るので言い訳にできない。
関節がおかしいと言えば、武闘家の師範がやってくる。
カロリナよりカロリナの体をよく知る師範だ。
幸い、カロリナは武闘の才能はなく、護身術しか習っていない。
下手な言い訳をすると、翌日に基礎体力を付ける特訓が待っている。
折角、エルが相手をしてくれているのだ。
関わりたくない。
気分が乗らないというのが一番駄目だ!
先生は音楽の素晴らしさを教える為に星が出るまで語り聞かされることになる。
食欲と睡眠欲を邪魔されたくない。
う~ん、さすがにいい言い訳が浮かばない。
「お嬢様、お手紙を持って参りました」
「ありがとう」
カロリナはその手紙を読むと目を輝かせた。
なんと、クリフ王子の手紙ではないか!
明日、訪ねるという連絡が掛かれている。
「先生、気分が優れません」
「判りました。すぐに治療師を!」
カロリナはその手紙を治療師に渡すと、治療師は首を横に振った。
治療師も侯爵から1つだけ頼まれていることがあった。
共犯のお願いだ。
「今日と明日、しばらくの安静が必要でございます」
「なんと治せないのですか?」
「お嬢様の不二の病を持たれております。大人になれば、自然と治りますが、今は直せません」
「仕方ありません。また、来週ということに致しましょう」
「オルガ、そういうことだからクリフ王子にお断りの旨を伝えて貰える。私も手紙を書いておくわ」
「畏まりました。すぐに使者を手配します」
春の式典に行って以来、私は病弱になった。
それも不定期に発作が起こる不二の病だ。
何故か、クリフ王子がご来訪すると連絡がくると発病する。
(エル、明日は暇になりました。いつも準備をしていて下さい)
(オルガさんが怒りますよ)
(私とオルガ、どちらの命令が大切なの?)
(お嬢様です)
(よろしい)
エルはカロリナが見つけた従者だ。
カロリナの友達であり、おもちゃであり、忠実な僕だった。