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閑話.ラファウの裏仕事。

ラファウ・ファン・ウッチは薄暗い路地を歩き、古びた商館に入った。

少しガラの悪い受付がラファウの顔を見ると応接室に通し、しばらくすると主人が慌ててやって来た。


「これは、これは、ウッチ子爵様」

「久しいな、1年ぶりか」

「はい、本当にお世話になりました」

「息災で何よりだ」


アンデ・アルコはアルコ商会の会頭で本業は高利貸し、副業に交易業を行っていた。

金の為なら悪事も厭わない。

手もみをして終始作り笑顔で媚び諂う。

少し小太りな悪人顔の男であった。

サポヤイ伯爵の依頼で金山の指揮を取らねば、知り合うこともなかっただろう。


「サポヤイ領では、貧乏くじを引かせて済まなかった」

「いいえ、ミクル商会のご指南を頂き、大儲けさせて頂いております」

「表通りに店を移さんのか?」

「本業で恨みを買っておりますから、目立つことはしたくありません」

「程々にしておけ! カロリナ様の耳に入れば、庇い立てはできんぞ」

「承知しております。王都では控えております」

「そういう意味ではない」


にかぁと口を開いて悪い笑みを浮かべる。

どうしようもない奴だ。

昔のラファウなら絶対に付き合わない。

高利貸しというだけで見下していた。


金を貸して払えなくなった者を追い立てる。

時には暴力に訴える。

抵当に娘を攫って娼館(しょうかん)に売る。

どうしようもない連中だ。


今では下町(元悪路)の黒虎会(ニグルム・ティグリス)の頭目シャイロックと組んで手広くやっている。

悪党シャイロックは娼館などもやっており、アンデ・アルコは身売りのお得意様だ。

王都町の区画整理では手配業などもやっており、娘だけなく男も攫って働き手としてこき使う。

どうして?

こんな下らない連中を密かにカロリナが助けるのか、ラファウには謎であった。


だが、付き合ってみると納得する。

世の中にはどうしようもない、屑のような連中より屑な人間がいる。

酒の為に幼い子供に暴力を奮う父親。

娘に売春を斡旋する母親。

その子供は恐怖に怯え、考える力もない。

そういう屑ほど金を借りる。

そして、破滅する。

その子供達を救い出し、娼館や労働奴隷になった方が幸せなのだ。


カロリナが町の大改革を行った為に、娼館や奴隷所も大きく変わった。

彼ら・彼女らは食事を貰え、作法と教育を受けさせる義務を課した。

10年くらい働けば、奴隷や娼婦から解放もされる。

意志のない人形から人になれるかどうかは、その子次第だ。


可哀想の一言ですべて子供を救うことなどできないし、ラーコーツィ家も慈善事業ばかりやっていられない。

そして、その屑な親達にラーコーツィ家の権威も届かない。

底辺には底辺のルールがある。

アンデ・アルコやシャイロックは必要悪なのだろう。

首ともさえ押さえておけば、悪さもできまい。

この悪党らが底を漁って町を綺麗にしてくれる。

よく、こんな策を考えつくと、カロリナ様の聡明さは私の比ではないと思いふけった。

ただ、ラファウも積極的に関わりたいと思わない。


「今日はどういう御用で!」

「急ぎ、ミクル商会と連絡を取って頂きたい。カロリナ様が南方の発展に興味を持たれ、明日にでも視察に行きたいと急に言われた。クレタ港まで行きたい。正式なルートを通っていては手間だ」

「あぁ、なるほど。海の道ですな!」

「そうだ。手配できる船があるか?」

「それは丁度よろしゅうございました。新たに買い上げました帆船の慣熟航行がございます。多少早くなっても問題ありません。カロリナ様の為なら否とはいいません」

「頼めるか」

「直ちに!」


ミルク商会は南方領で領主に代わって小麦を栽培している。

ミルク商会のある場所は湾の奥にある寂れた港であり、昔は他国との貿易で栄えた貿易港であった。

しかし、50年前にアール王国に併合されると、国交を断絶されて、栄えた影もない漁港になってしまった。

多くの商館が潰れ、あるいは農地開拓に活路を見出した。

その商会の1つがミルク商会であった。


交易港は戦争で破壊され、金銀財宝を奪われて残ったのは船のみであった。

しかし、その船も出航する先がない。

残りカスのような領地を貰ったのは、戦功を上げた貧乏貴族であった。


金も持たない領主は農地のない領地を貰って途方に暮れた。

開拓費も出せない小領主に代わって農地の開拓を引き受けたのが地元の商会だった。

船を売って奴隷を買い、奴隷に農地を開拓させた。

この領地には農奴はいても農民はいない。


カロリナはシャイロックにミルク商会を調べるように指示を出した。


調べても何も出て来ない。

シャイロックはアンデ・アルコに相談し、アンデ・アルコは金山で世話になっていたラファウに知恵を借りた。


ラファウはその資料からミルク商会には元イースラ商人がいるのに気付いた。


南方が急激に発展していた。

エリザベート・ファン・ヴォワザン伯爵令嬢が南方交易所を開設し、聖ミレス王国とオリテラ帝国の交易休憩港にした事にはじまる。

聖ミレス王国の商人はクレタ港で魔石を積んで、オリテラ帝国の香辛料と交換して持ち帰っている。


そうだ、国交がなくとも交易は可能だった。

交易をしているのは聖ミレス商人であって、アール王国の商人ではない。

何の問題もない。

港で水を売るように、魔石を売って香辛料で支払って貰う。


そんな詭弁が通るのは、エリザベート・ファン・ヴォワザン伯爵令嬢が聖ミレス王国の亡命王女の子孫だからだ。

聖ミレス王国ではアール王国の民は魔族の亜種とされ、魔族と同じく討伐されるべき存在であった。

唯一の例外が、亡命王女を受け入れた南方諸国の王族だ。

クレタ王家の血を継ぐ娘を嫁に貰っているヴォワザン家の令嬢だからできる裏技であった。


そして、ミルク商会も裏技が使える元イースラ商人がいた。


イースラ商人ならば、オリテラ帝国、聖ミレス王国、リル王国、イースラ諸王国連合と取引ができる。

オリテラ帝国、聖ミレス王国は南方交易所が独占しているので旨みがない。

しかし、リル王国、イースラ諸王国連合は手付かずであった。

元イースラ商人に船を貸し出し、商人に復帰して貰う。

そして、湾港に中継地を作る。


こうして始まったリル王国との交易は莫大な利益を産んだ。

リル王国は薬草の国であった。

その薬草から作られる安価ポーションは冒険者に馬鹿売れした。

南方交易所が魔石を高値で買い取ってくれるので、冒険者の数が増え、それに比例して安価ポーションの需要も伸びてゆく。


金山から手を引かされたアンデ・アルコは安価ポーションでそれ以上に儲けた。


アルコ商会とミクル商会はラーコーツィ家のお抱え商人。

ラーコーツィ家のお墨付きを貰っている。

南方大臣の貴下に財務長官がいるが大蔵省から出向であり、ラーコーツィ家の子飼いの貴族だ。

だから、南領でも好き勝手ができる。

カロリナは金の女神、ラファウは恩人であった。


「しかし、カロリナ様は不思議な方ですな。どうやって知ったのでしょうか?」

「アンデ、探れば命がなくなるぞ」

「ははは、そうでした。調べるつもりなどありません」


そう言いながら、ラファウも不思議だった。

ただ、路地に入っただけで妖精王と知り合いになる稀有な方だ。

聖獣、精霊、悪霊の類いと知り合いがいても不思議ではない。

もしかすると、カロリナの中に女神が居られ、カロリナ様の体を使って指示されているのかもしれない。

カロリナ様の聡明さは人智の及ばぬ所にあるとラファウは思うようになっていた。


さぁ、次はレヴィン様(カロリナの兄)に報告し、人選だ。


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