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裏話.エリザベートも目を覚ます。

「エリザベート、おまえとの婚約を破棄する」


貴族学園の卒業式の前日に開かれるパーティーで、オリバー王子が派手に自爆した。

マリアへの嫌がらせの数々を告発すると、そのほとんどが誤解、そして陰謀の数々がカロリナ令嬢を信奉する取り巻きの陰謀と証明されて空振りに終わった。


催眠と暗示で仕掛けた罠だった。


正義感だけの馬鹿なオリバー王子は見事に嵌まって大恥をかいた。

ほほほ、エリザベートは笑ってオリバー王子の間違いを許す。

主人公のマリアはエリザベートを支持し、ライバルであるカロリナ令嬢は提携する商会が麻薬を撹拌していることを告発され、ラーコーツィ侯爵家の没落が決定した。

王子の意に介せず、エリザベートが婚約者であることを強く印象付けた。

完全勝利だ!

次期王妃、エリザベートの誕生であった。


「私はエリザベート・ファン・ヴォワザン伯爵令嬢を告発します」


生徒会長エンドレはエリザベートを裏切った。

一族の恨みを晴らす為に自ら奴隷魔術の契約を望んだ生徒会長エンドレの告発だ。

奴隷魔術で主人を裏切ると死を賜る。

そんな命懸けの告発だ。

絶対に裏切らないと信じていただけで驚きと憎しみがエリザベートに溢れた。


「そうだ、その顔が見たかった。常に完璧を目指し、高貴ですべてを見通す目を持つ貴方が、驚きと憎悪で顔が歪む瞬間を見たかったのだ。私の願いは叶った」


死より、エリザベートの歪む顔が見たいという歪んだ愛の末路だ。

人が苦しむのが快楽という心を病んだエンドレにとって、自らの死すら足枷にならなかったらしい。

聖女派のマリアの弁護も空しく、エリザベートの絞首刑が決定した。


「エリザベート様、天国(カエルム)でお待ちしております」


刑が執行される直前にマリアらは自らの心臓をナイフで刺して絶命した。

馬鹿な子。

エリザベートの小さな声は誰にも聞かれずに刑が執行された。

死んだエリザベートの死体は槍で串刺しにされた後に火炙りにされる。

死んでいるので痛みも苦しみもない。

ただ、復活の魔法が使えないように骨すら粉々する。


生きながら串刺しにされるカロリナ、死んでから串刺しと火炙りにされたエリザベート、どちらが幸せだったのだろうか?


その答えはどこにもない。


 ◇◇◇


死んだエリザベートの意識はゲーム『マリ×かのⅡ』のBADエンディングが流れ、続いてオープンニングが流れた。

そして、表紙が映るとどこからか声が聞こえてきた。


私の人生はゲームか!<怒>


「お嬢様、お嬢様」


重たいまぶたをゆっくり開けると侍女のメルルが叫んでいた。


「うるさい」

「旦那様、お嬢様が! 気がつかれました」

「エリザベート!」


エリザベートはオリバー王子に跳ね飛ばされて、額に5針も縫う傷を負って気を失っていたと聞かされた。


えっ…………嘘ぉ!

9年前に戻ってきた。

やり直しなの?


転生して悪役令嬢として9年間をがんばった。

エリザベートは死にそうな目にも何度もくぐり抜けた努力の9年間だった。

すべてが消えた。


脱力感!

エリザベートは2~3日も何も考えられず、ぼっと過ごした。

燃え尽きた症候群だ。

エリザベートは悩みに悩んだ。


最大の大失敗は生徒会長エンドレだ。

心が壊れた者は扱い辛い。

本物のエンドレは去年か、今年に入って死んでいる。

そして、まもなく弟のフェレプが身代わりになる。

継母がその秘密を知る者を消す。

そうだ、産みの母とその一族を殺害するのだ。

今なら間に合う。

もう一度やるの?


やる気が起きない。

でも、何もしなければ終わってしまう。

やるしかないのか!


仕方ない。

エンドレの心が壊れる前に産みの母とその一族を人質にしよう。

それで最大の障害がなくなる。


「メルル、紅茶を!」

「はい、お嬢様」


すべて無駄だったというのはキツいな!

何か、少しくらい特典があってもいいのに。


“鑑定”


なんてね!

ゲームではスキルと称号は残っていたのよね…………えっ、残っているの?


エリザベートのスキルと称号が残っていた。

もちろん、レベルとステータスは7歳に戻っている。

しかし、肉体強化や魔刃など使えば、7歳と思えないほどの力が発揮できる。

本当に2周目であった。

最後の方で手にいれた『鑑定』スキルが残っていたのが大きい。

これで隠し扉なども一目で判る。

エリザベートは紅茶を飲みながら笑みを浮かべた。


「さて、どうしようからし? このゲームはマリア贔屓が酷過ぎるのよね。ゲームの神様か何か知らないけど、私をここに閉じ込めて何をしたいのかしら?」


マリアのハッピーエンドはエリザベートのBADエンドだ。

絞首台も国外追放もまっぴらだった。

そもそも国外追放で穏やかに静かに暮らすなんてできない。


国外追放とは、国外での軟禁生活だ。

外国の貴族を自由に歩かせる他国など存在しない。

将来の保険。

自国に縁者や有力者がいれば、かなり生活は楽になるが、実家も没落するので期待できない。

仕送りのない生活はかなり困窮する。

冒険者になって自由にさせてくれる訳もない。

つまり、そんな楽な話じゃない。

エリザベートは最初から逃げるという選択がないのだ。

ならば、戦うしかない。


「私の為にマリアは自害した。つまり、マリア攻略は成功していたのよ」


そう考えると気が楽になった。

生徒会長エンドレさえ何とかすれば、今度こそ成功する。

しかし、同じことをするのを良しとは考えない。


「まず、既存のダンジョンで発見される『浄化の杖』と財宝をマリアから奪いましょう。その財宝を元手に新ダンジョンに眠る古代王家の墓の財宝で王国中にプランテーション(広大な農地化)を行って、王国中の貧困民を助けるのよ」


エリザベートは慈善事業が好きな訳ではない。

慈善事業を建前にすると教会がエリザベートを支持してくれる。

12歳の時に起きる大不作で民を助けるのは、貴族達への大きなアピールになる。


「ダンジョンの財宝はオリバー王子がそこそこと言ったくらいだから、かなりの額が期待できるハズよ。それを元手に新ダンジョンを発見し、古代王家の財宝も奪う。その財は王国の数年分の税収に匹敵する。大司教様を説得して、半分をプランテーションに使わせることを王に認めさせる。プランテーションで作る小麦・芋・米・ぶどうはすべて酒に醸造して、普段は食糧として使わない。それを大不作の備えにする。どうせやるなら派手にやりましょう。今度は我が家の財産を使わないから文句もないでしょう」


前回は財政的に制約があった。

だが、1周目の経験を無駄にしない。

マリアとオリバー王子が見つけた財宝を使えば解決する。

魔王対策のレベル上げも重要だ。

魔の森ダンジョンを利用すれば解決する。

逆に、マリアが助けたイレーザを使って香辛料を中心に町を発展させる。

これは同じだ。

エリザベートの目が輝いた。


「悪役令嬢のままで頂点を目指すわ。今度も麻薬が関係しそうなアルコ商会はカロリナに押し付けましょう。でも、魔薬が拡散するようなに工作はしないわ。同じく、カロリナは町を徘徊するから悪路(下町)のシャイロックを使って金山を発見させても誰も不思議に思わない。金山を巡ってラーコーツィ家とセーチェー家を争わせる。そこまでは同じでいいでしょう。でも、仲介役の妨害や抹殺は止めだ」


エリザベートは前回の失敗を反省した。

舞台を整えようと画策した結果が証拠を残すことになった。

ならば、画策せずに俳優のアドリブを見守ればいい。


「悪女はなしだ! 告発されても証拠がなければ、どうしようもない。私は種を蒔くだけにする。高速の詰めで学園に入る前にすべて終わらせてみせるわよ」


エリザベートの頭の中に新しい設計図が描かれた。


「メルル、家令のヴァルテルを呼んできて!」

「はい、お嬢様」


まず、生徒会長エンドレ(フェレプ)の母親の生存の確認だ。

村が襲われた日に村人と盗賊が相打ちですべて死んだことにして、東の隠れ村に移住させて人質にする。

これは家令ヴァルテルのお抱え冒険者に依頼だ。


その間にエリザベートはダンジョンに潜って隠れ財宝を確保する。

相当な額だから準備費用になる。

そして、準備費用を持ってイレーザの漂着を予言してマリアを光の巫女にする。

イレーザは香辛料を運んで富を運んで来てくれる。

南方の発展によって、マリアの『聖女』の称号を算段し、『赤毛の聖女』として入れ替わるのが前回と同じだ。

秋には新ダンジョン攻略し、その膨大な財源を元に大司教を唆して王国の大変革を進める。


“完璧だ!”


自己顕示欲の強いエリザベートは自分の完璧さに陶酔した。


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