15.カロリナ、木の実を食べて楽しむ。
カロリナはご令嬢様だ。
自分で料理を作ろうとか、作物を植えて育てようとか、馬の世話をしようなどとは言わない。
黄金芋を掘った時のようにエルしかいないなら手段を選ばずに手を汚して仕事もするが、小間使い(駆け出し冒険者)が要れば自分ですべてをやろうとはしない。
良くも悪しくも貴族であった。
「ジク、その薬草を取りなさい」
「はい、カロリナ様」
「ニナ、あの木の実は食べられるのかしら?」
「判りません」
「アザはどう思います」
「食べられますが、おいしくありません。苦いだけです」
「ニナ、1つ取って下さい」
「はい、判りました」
偶然出会った駆け出し冒険者の子供を影の進めで雇ったカロリナは雇った。
カロリナは薬草摘みをしないのではない。
まだ見ぬ茶葉を探しにきたのだ。
こんな近場で見つかる訳もないのだが…………。
ニナが取ってきた木の実を口に放り込む。
むわぁ~と口一杯の広がる異様な味にカロリナは顔を歪めた。
「何ですか、これは?」
「ですから、苦いだけだと」
「アザは食べたことはあるの?」
「ありますが美味しくないので余り取りません」
「俺はよく食べる」
「ジクはこれが好きと?」
「そんな訳あるか! お腹が空いているときだよ。誰も取らないからすぐに手に入るんだよ」
何も食べないよりマシらしい。
まだ、口の中が変な感じする。
食いしん坊のカロリナも流石に続けて食べる気はない。
「ジクはもう1つ取って下さい」
「カロリナ様はこれがおいしいのですか?」
「まさか!?」
「はい」
「ありがとう」
そう言って、木の実をエルに渡した。
「さぁ、エルも食しなさい」
「食べろと!」
「そうよ」
エルは嫌々だが口に入れると変な顔をした。
ははは、エルの変な顔にカロリナが笑った。
「笑うなんて酷いです」
「だって、私一人だけが変な顔をするのが嫌ですもの」
「僕じゃなくていいでしょう」
「そうね、アザにも上げて!」
「私は全力で遠慮します」
「食べなさい」
「カロリナ様は意地悪です」
「口を開けて!」
「嫌です…………あぐぅ!」
カロリナは素早くアザに近づいた。
アガは抵抗したが無駄な足掻きだ。
カロリナを突き飛ばすほどの勇気はない。
抵抗するアガの口に木の実を放り込まれた。
うぅぅぅ~~~~!
口の中に嫌な感触が広がり、くさい臭いが鼻に通る。
アザは迷った。
吐き出すべきか、流石にそれは拙い。
耐えるのよ。
呑みこむのよ。
破顔したアザの百面相を見て、カロリナが腹を抱えて笑った。
「やっぱり、アザは楽しいわ」
「カロリナ様、余り虐めると嫌われますよ」
「それは拙いわね。何か、口直しのモノはないかしら?」
「カロリナ様、肉串はどうですか?」
「その話を詳しく」
もうアザのことは忘れた。
ニナらは薬草や狩った獲物を冒険ギルドに売ると帰りの屋台で焼き肉串を買って食べる。
黒パン1個が銅貨1枚とすると、銅貨3枚もする肉串は贅沢らしい。
肉串をみんなで食べると、その日の薬草や獲物の買い取り金がすべて消えてしまう。
そんな贅沢はできない。
でも、カロリナから銀貨1枚(銅貨100枚分)を貰っていた特別な日は別だ。
「カロリナ様に会える日は肉串が食べられるから幸せです!」
ニナの話を聞いてカロリナの目が輝いた。
エルと影は祈る。
どうか変なことを言い出しませんようにと。
「いますぐ肉串を食べに行きましょう」
やっぱり!
一度決めたカロリナを止められる者はこの世にいない。
「カロリナ様、一度戻ってからにしませんか?」
「レフ、いい意見です。みんなで食べる方がおいしそうね。ですが、私は待てません。口直しで今すぐ食べたいのです」
「カロリナ様、下町は危険です」
「アザ、大丈夫よ。アンブラがいれば問題なしよ」
「ですが!」
「あっ、そうだわ! 冒険ギルドも行ったことがないわね。一緒に行ってみましょう」
「カロリナ様、まだ獲物がありません」
レフの言う通りだ。
河に行く途中であり、狩りをしていない。
「確かに獲物はないわね」
「大公園に戻って、皆さんの獲物を貰ってから行くのはどうでしょうか?」
影にしては大人しい意見だった。
すぐに狩ってきますと言わないのがおかしい。
影は忘れていた。
カロリナは食欲に関係すると、急に頭が回り出すのだ。
影は行くにして時間が欲しかった。
大勢で行きたい。
だが、その願いは叶わない。
「おい、そこの者。すぐに姿を現わせ!」
林の方をびしっと指を差して、カロリナはそう言った。
カロリナは影を見て、すぐに呼び出せと顎を振る。
仕方なく、呼んだ。
「風でございます。お初にお目に掛かります」
「木葉です」
「花って呼んで下さ~い!」
痩せ型、丸みのある顔、ロリ巨乳と特徴は違うが、皆が影と同じ黄金の髪と青い瞳を持つ美少女達だ。
子供達が思わず、「綺麗ぇ~!」と叫んでいる。
以前まで影は町に入ると異常なまでも緊張して周囲を警戒していた。
ところが最近はそういうことがない。
おそらく、代わりに警戒してくれる部下がついたと思っていた。
まかさ、三人もいるとは思っていなかった。
実際は三人ではない。
領兵長になった影は部下300人の内、30人ほどを冒険者の格好で網を張って待機している。
町に行くとなると配置替えが必要になる。
それ以前に下町(悪路)に行くのに30人で足りるか?
そう疑問が脳裏に走った。
阻止したい。
だが、無理だろうと何となく判ってしまう。
「出しなさい。あるのでしょう」
「何を、でしょうか?」
「獲物が取れないときの為に用意しているのでしょう」
「そういうことですか! 判りました。フロス」
「は~い、は~い」
花は腰の魔法袋に手を入れる。
「一番いい奴を3つほど出せ!」
「一番にいい奴ですね」
角一角兎を2頭と牙きつね一匹、高級な薬草一袋を出した。
これは獲物ではなく、魔物であった。
薬草も魔法を帯びた魔法薬に使える奴だ。
ジクとニナに兎を持たせ、リーダーのレフがきつねを担いだ。
薬草袋はエルに持たせた。
「これでいいでしょう。さぁ、行きましょう!」
準備万端とカロリナは下町(悪路)に続く道を降りはじめ出した。