13.護衛という名の黒い糸。
カロリナが大公園に到着すると駆け出しの冒険者らが集まった。
「整列!」
影の声で皆が一列に並んだ。
「今日も一日張り切っていこう!」
「うお~」
「うお~」
「ぅぉ~」(小さい声)
突然やってくるカロリナにアザは気が滅入った。
しくしく、心の中で泣いていた。
侯爵令嬢を一人で山に行かせることはできない。
父に命じられて山を案内した。
案内したが一度で終わらなかった。
カロリナ、従者エル、影、アガの四人で薬草摘みに行った。
そこで駆け出しの冒険者の子供を見つけ、カロリナが二人を雇った。
護衛の代金が銀貨1枚。
子供達には大金であった。
別れ際に子供達は別れを惜しんだのだ。
「カロリナ様、また雇って下さい」
「判った。約束しよう」
「朝、ここでお待ちします」
「いつになるかは判らないわよ!」
「待っています」
ホント、いつになるか判らない。
カロリナは突然に町にやってくる。
ホント、来る日を先に教えてくれないかな?
ボルコ商会店主の娘アガの望みだった。
だが、その願いは叶わない。
当然である。
カロリナも知らない。
その日の気分だ。
行きたくなったら即行動だ。
あるいは教師達の都合で時間が空いた日も多い。
カロリナはいつだってマイペースだった。
◇◇◇
初代アール王は国の象徴である王城を建設した。
しかし、王もプライベートな空間が欲しい。
そこで王城の後ろに王宮を建てた。
さらに河を挟んで、引退した王や妃の為に後宮が造られた。
現国王は花を愛し、王宮の大庭園の世話をされている。
王宮の中心には宮殿があり、様々な式典がそこで行われる。
カロリナが赴いた王子のお披露目式もそこで行われた。
王はこの王宮の庭園に入り浸りであり、ほとんど王城に行かない。
王城の周りには各省の建物が建っており、一番立派な建物はやはり大蔵省であった。
その大蔵省の前に馬車が止まり、二人の貴族が訪れた。
大臣室を訪れたのはルブリン子爵とザクセン男爵であった。
「ラースロー様、お久しぶりです」
「ラースロー様、御無沙汰しておりました」
「おぉ、久しいな。立ち話もなんだ。さぁ、中に入れ!」
ルブリン子爵とザクセン男爵は共にラーコーツィ家の分家に当たる。
今年、ルブリン子爵家の次男はラーコーツィ家を代表して王子のご学友に選ばれた。
将来、重要なポストに着くかもしれない。
長男のレヴィンと巧くやって欲しいと望んでいる。
三人は年歳も近かったせいか、よく三人で悪さをした。
昔話をはじめると止まらなかった。
「さて、今日はお願いに参りました」
「願いとは何か? いつかの浮気の仲裁は断るぞ」
「その話ではございません」
「ラースロー様、その心配はございません。かの者とは別れておりますよ。今は新しい彼女に熱を上げております」
「若いのか?」
「まだ、卒業したばかりの!」
「おぃ、それを言うな!」
「その話をうちの妻の耳に入れるなよ。俺まで疑われる」
「ははは、大丈夫です」
「怪しいものだ」
「侯爵様もモテますからな!」
「今は控えておる。カロリナに知られたら口も聞いて貰えなくなりそうだからな」
「侯爵様は変わられた」
「あれは天使だ」
「そうですな。そのカロリナ様です。話を元に戻しましょう」
「お前が余計なことを言ったのであろう」
「最近、カロリナ様が町に行かれるとか」
「そうなのだ。控えるように言っているが、頼まれると断り辛くてな!」
「願いますれば、我が息子を護衛として付けさせて頂けませんか?」
「ご学友を?」
「問題ありますまい。王子から側仕えの申し出てきておりません」
「確かにそうだな」
カロリナはラーコーツィ家の長女であり、王妃候補だ。
いずれ護衛の騎士が必要になる。
今から立候補しておこうと言う訳だ。
7歳ではままごとに過ぎないが、ルブリン子爵とザクセン男爵なら文句もない。
ラースロー侯爵は引き受けた。
それを聞いたアドルフ子爵家も慌てて立候補した。
アドルフ子爵家はラーコーツィ家に世話になるプロイス王国の逃亡貴族だ。
今後の為にもラーコーツィ家に恩を売っておきたい。
「是非、我が息子カールも護衛騎士に!」
「断れませんな!」
「感謝致します」
西の諸国は複雑であり、アドルフ子爵家の本家の復権をありうる。
保険として優遇しておくのは悪くない。
イェネーとクリシュトーフが純粋にカロリナを崇めているのに対して、親達は権力争いの一環として画策していた。