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11.カロリナ、『高貴な義務』を持つ貴族にされた。

カロリナは危ない足つきでエルに支えられて道に降りてきた。

下ではイェネーとクリシュトーフが膝を折っている。

イェネーは胸に手を当てると頭を下げた。


「カロリナ様、危ない所を助けて頂きありがとうございます」

「あら、どこかでお会いしたかしら?」

「俺はイェネー・ファン・ルブリン・ラーコーツィと申します。春の宮中でオリバー王子、クリフ王子のご学友としてラーコーツィ家を代表に選ばれました」

「あら、そうなの? ごめんなさい。全然、覚えていないわ」

「致し方ございません。改めて、ごあいさつさせて頂きます。イェネーと申します」

「クリシュトーフ・ファン・ザクセンと申します」

「ザクセン家はルブリン家から別れた分家、クリシュトーフは私の従兄弟でございます」

「イェネー様、クリシュトーフ様、カロリナでございます」


カロリナはドレスの裾を摘んであいさつする。

食べ物を頬張っていなければ、カロリナはふっくらとした可憐な少女であった。

二人はカロリナにうっとりする。


「こちらは従兄弟のクリシュトーフ…………」

「いけないわ。怪我をしているのね。アンブラ」

「はい」


クリシュトーフは腕をぶらりとさせていた。

赤いのは模様ではなく、血だとすぐに気が付かなかった。

(アンブラ)は「失礼します」と声を掛けて袖を破ると水を駆けて血を流し、布を巻いて簡単な治療をした。

残念ながら(アンブラ)は治療魔法が使えない。


ふり返ると商人達も膝を付いて最敬礼を取っていた。

右手を胸に左手を後ろに隠し、首が水平になるまで下げている。

首を切られても文句はいいません。

そう言う意味だ。


商人ツェザリは焦った。

助けて怪我を負ったがラーコーツィ家の分家筋の方、盗賊を退治したのが本家のご令嬢だ。

何も要求されても文句は言えない。


「貴方は誰かしら?」

「裁縫の商会をやっております。ボルコ商会のツェザリと申します。こちらはウチの手代です」

「カロリナ様、助けて頂き感謝致します」

「町の方ですか!」

「はい、店は町にあります」


町の人だ。

エルが言っていた大きな町ね!

町と言えば、珍しい食べ物よ。

行きたいと思っていたのよ。


カロリナは魔物退治のことをすでに忘れた。


「エル、町ですって!」

「お嬢様、旦那様から町に一人で行くなと言われております」

「一人ではないわ。エルとアンブラがいるじゃない」

「ですが…………」

「そこの者、町に帰るのよね?」

「はい、急ぎ帰らればなりません」

「エル、私は町に行きたいのではありません。この者の護衛をするのです。これは貴族の義務です」

「お嬢様!?」


カロリナは自分を言い聞かせた。

美味しいものを食べたいから町に行くのではない。

護衛で仕方なく行くのよ。

着いた頃はおやつの時間ね!

行った先でお茶とおかしを出して貰おう。


余程、町で買い食いをしたいのだろう。

カロリナが決めてしまったとエルは悟った。

言い出せば、もう止まらない。


「お嬢様の為に護衛をがんばります」

「期待するわ」


このやり取りと見ていたイェネーとクリシュトーフは感動を覚えた。

カロリナ様は『高貴な義務』を果たそうしておられる。

おない年の幼い令嬢は魔法の技法を鍛え、貴族の義務を果たす為に自ら律し、その誇り高い姿に涙を流した。

自分はどれほど貴族地位に胡坐をかいて何もやって来なかったのか!

何もできなかった自分とまるで違う。


「カロリナ様、どうか私もお連れ下さい。クリシュトーフ、それでよいな!」

「当然だ」

「そう言ってくれると思ったぞ」

「カロリナ様、我が主とするにふさわしいお方です。どうか家臣の列にお入れ下さい」

「狡いぞ。抜け駆けをする気か!」

「お前はオリバー王子、クリフ王子のご学友だからな。悪いが俺だけさせて頂く」

「こんなことなら選ばれない方がよかった」


ご学友というのは家臣候補だ。

王の前で宣言しているので簡単に撤回できない。

イェネーはマジで悔しがった。


イェネーは目鼻がすっきりしており、髪は透明感のあるイエローベージュ、目は黒かかったダークブルーの中々にいけている容姿だ。

クリシュトーフも髪がくすんだシルバーイエローに、目はブラウンと顔だちは悪くない。

二人ともイケメンになりそうな美少年だった。


ただ、カロリナは平常運転であった。

イケメンは見慣れていた。

父親のラースロー侯爵はすらっと均衡の取れた体格に金髪の髪を揺らす超イケメンさんだ。

兄の線の細さを感じる弱々しさを感じるが超美形だ。

カロリナの家族は美男と美女しかいない。


カロリナの従者エルも赤茶色のくせ毛が特徴で少し丸みの帯びた顔立ちが好きだった。

美形ではないが、好感が持てる好青年のなるのが間違いない。


護衛の(アンブラ)に至っては完全な美少女だ。

うっとりする顔立ちをして、黄金色の金髪に、透き通った青い瞳を持つ純血の妖精種である。

視覚阻害の魔法具を身に付けていなければ、大騒ぎになる。


つまり、イェネーとクリシュトーフのイケメン度がどんなに高くともカロリナは意に介さないのだ。


だから、『家臣にしてくれ!』と告白されてもドキドキしない。


どうでもよかった。


しかし、(アンブラ)は焦った。

果たして、子守が三人に増えて守りきれるか?

無理だ。

エルはカロリナの側を離れようしないのでいいが二人は違う。


「よろしければ、衛兵にこのことを伝えて下さい」

「我らにですか?」

「そうです。お二人です。カロリナ様、それでよろしいでしょうか!」

「うん。アンブラに従って!」

「畏まりました」

「衛兵にはなるべる詳しくお伝え下さい」

「判りました。では、我らが王宮に向かいます。カロリナ様も気を付けて下さい」

「よろしくお願いするわ」


こうして、イェネーとクリシュトーフを引き離すことに成功した。

(アンブラ)も一安心だ。


二人は王宮に向かった。

このイェネーとクリシュトーフの口からカロリナの勇気と高潔さが衛兵に語られる。

王宮の衛兵から『高貴な義務』を持つ本物の貴族と称えられる。


これが『救国の英雄カロリナ伝』の第1章のはじまりとは誰も思ってもいない。


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