ウソツキ
処女作です、ご了承ください。
僕の斜め隣の席の関和さんは自らが二重人格だと言っている。それを知ったのはつい昨日、ラインで雑談をしていた最中の告白だった。別に彼女が二重人格だろうと僕には関係ない、そう思っていた。だが、彼女の次の言葉に僕は更に吃驚した。
「私ね、中学校の時にね散々虐められててさ。口を出そうにも私に勇気がなくって、どんどんエスカレートしていった。その時はね、『死んじゃおう』って思った。けど勇気なしの私には到底できなかった。そんな自分への戒めとして私は自傷行為に走ったの。右腕に残ってるこの傷は、生涯代償として共生していく。消したくても消せない過去。」
あの関和さんがイジメられていたなんて知る由もなく、その時は口が開きっぱなしだった。
次の日、再び彼女と雑談をしようと話題提起としてラインにメッセージを送った僕、しかし返信相手は彼女ではなかった。
「ダレ?」
昨日まで話していた彼女がまるで別人かのように疑問をぶつけてきたのである。
「あぁ、言ってなかったっけ。ウチ二重人格なんさ。アイツと話したの?」
アイツ---------きっと昨日の彼女であろう。僕は頭が混乱して何が何だかよくわからなかったが、取り敢えず返信は送っておいた。
学校にて、関和さんは通常通りだった。普通に話しかけても「どした?」といつもの口調で返してくれる。アイツは一体誰なんだ、関和さんが二人いるなんて、信じられぬ思いが心の奥底に芽生えた。
僕はいつまでたっても忘れられなかった。「どうして?」「何で?」という疑問の数々が頭を埋めていたのだ。だが、気持ちとは裏腹に心のどこかで何かを止める声がする。その日は気持ちが晴れぬまま授業が終わった。
家に着きふと自分のスマートフォンを覗くと、関和さんからメッセージが届いていた。珍しいな、そう思う。
「今日の音楽の授業が終わって廊下出ようとしたとき町田がぶつかってきて、その衝撃で私倒れて。手ついたら指がグキリ、突き指しちゃった。彼女嘲笑うかのように私を見てきたよw」
何とも信じ難い話、そんなことがあるのだろうか。町田さんこと「町田 朱理」はクラスの学級委員長で成績も優秀、誰に対しても優しくて色々手助けしてくれる。関和さんはこんなことも言っていた、
「町田さんね、中学生のとき私をいじめてきたヤツで高校生になってようやく開放されたと思ったら同じ高校。正直失望してる(-_-)」
町田さんはどうやら"悪い奴"なようだ、僕はそう思うことにした。
翌日の朝、僕はいつものように教室の扉を勢いよく開けた。変わらぬ教室に一人関和さんが座っている。関和さんはこちらにふと目をやり微笑を浮かべた。確か関和さんはこんなことも言っていた。
「私いじめられてきたせいか感情がほぼ消滅してるんだよね。喜びも怒りも悲しみも楽しさも。だから私は笑えない、笑ってたとしたらそれはきっと作り笑い。」
このことから読み取るに、前の笑みは作り笑いとなる。なんとも哀しく、もどかしい。
その日の晩、彼女は再び僕にメッセージをくれた。
「このクラスの丹沢と静川、普通科の横妻と大村もいじめてきた人たち。関わらない方がいいよ。」
普通科の横妻と大村は僕がいつも話している友達である。まさか…とは思ったが流石に信じられない。横妻と大村は"悪い奴"なようだ、僕は彼たちを軽蔑しようと思う。
ある時突然、町田が話しかけてきた。
「ねえ広川、宿題ってどこまでだっけ」
町田は悪い奴、僕は彼女を軽蔑する。
「ねえ聞いてる?おーいもしもーし」
彼女は諦めたかのようにその場を後にした。心の中で得体の知れない物体がガッツポーズをした気がする、悪い奴は大嫌いだ。そういつしか思い込むようになった僕は徐々に疑心暗鬼になっていった。誰も信じられない、信じられるのは自分と。
体育の時間の前、着替えている最中であった。僕はふとあることに気付く。関和さんの右腕に何もないのだ。彼女は確か「自傷行為に走った」と言っていたが彼女の右腕にはそれに当たるものが一切ない。何故だろう、心の奥底から何かが昇ってくる。僕はそれを堪え体育館へと向かった。
晩のことである。町田からメッセージが来ていた。
「広川、何で私のこと避けるの?」
それに対して
「別に避けてないよ。」
「じゃあ何で広川のこと呼んだのに無視したり挨拶しても返さなかったりわざとらしく私の反対方向に行ったりしたの?」
「気のせいだよ」
「私、広川に何かしたっけ?」
この言葉に、僕は奮い立った。
「関和さんのこといじめてたんだろ?そんなヤツと関わりたくないよ」
「ごめん、私から言わせてもらうけど。いじめたのは私じゃなくて、関和さん側だからね?」
頭が真っ白になった瞬間だった。
「嘘だ」
「ホントだよ。きっと横妻のことも同じように言ってたでしょ?あの子ね、自己中でわがままで最低な子だよ、そっちの方こそ関わらない方がいいと思うぜ?」
「何で知ってるの」
「何でって、そりゃあ彼女が横妻のことを恨んでたからだよ。みんなにちやほやされてたからね。自分が一番って子だからそういうの余り受け付けないんだと思う」
まさかと思った。僕は彼女に弄ばれていたんだ、彼女の言いなりになってただけなんだ。
翌朝、僕はいつものように教室の扉を勢いよく開けた。これまたいつものように席にキョトンと関和さんは座っていた。
「関和さん」
「広川くんどうした?」
その言葉とともに僕は彼女の胸ぐらを掴み、右腕を晒した。
「これ、どういうこと?」
彼女は戸惑いを隠せぬ様子で一言放った。
「あぁ、バレちゃったかー」
僕は憤懣遣る方無く、懐から一本の果物ナイフを取り出し彼女の脇腹に突き出した。
「ぇ、え?」
驚いているようだ、そう無理もない。
「君は罪を犯した。町田に、横妻に、大村に、丹沢、静川、そして僕。済まないが君には消えてもらうことにする。」
彼女は目に涙を浮かべ、必死でこう伝えた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。私中学校で色々しでかして、友達いなくなって。広川くんが優しく私に声をかけてくれたのがとても嬉しくて…。つい気持ちが高ぶっちゃって。」
「嘘付き…。」
グサッ、鈍い音が僕の耳を貫いた。彼女は力尽きその場で倒れ込む。頬を濡らし死にゆく様は正に滑稽そのもの。真紅の涙が床を染めた。
【終わり】
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