6話 別れ
あれ?そういえばエアの場所は?
俺は頭が悪そうなガイの顔に魔法で水をかけて起こす。
「ごふっ!がほっ、はっ」
起きたみたいだ。
「こんにちは。エアはどこにいるんだ?」
声を低くして脅してみる。
「い、言わねぇ!」
知らないじゃなくて言わないってことは知っているはずだ。
ガイを起して正解だったな。
でもどうやって聞き出すか。
「つぐみぃ!皿を割ったなぁ!」
俺が考えていると女将さんが帰ってきたようだ。
怒鳴り声をあげながら階段をあがる音が聞こえる。
「女将さん!エアがさらわれました!」
そんな女将さんに簡潔に起きたことを伝える。
「な!?本当か!詳しく話を聞かせろ。」
女将さんは俺が真実を言っているのか確かめるように目を見てきた。
「これが証拠です。犯人グループの一人だと思います。
そう言ってガイ達を指さす。
「・・・なんで二人とも亀甲縛りをしているんだ。」
女将さんがじと目でこっちを見る。
「いや、僕が知っている拘束のしかたで一番確実なやりかたですから。」
特に意味はない。
「やっぱりこいつ変態だろ・・・。」
こらガイ君。
誘拐している君たちには言われたくないって。
「まぁいい。つぐみよくやった。あとはまかせな。」
俺は女将さんにそう言われて部屋を出た。
その数分後、ガイの悲鳴が聞こえてきて、女将さんがこっちに来た。
「エアの場所は聞き出せた。つぐみ。お前は宿に残っとけ。」
そう言った女将さんの両手は血に染まっている。
何をしたのかは聞かないでおこう。
「俺もついて行っていいですか?・・・いえ、ついていきます。ついて行かせてください。」
俺はエアが心配だ。
このまま何もしないで待っているのは心に来る。
「・・・まぁいいが遅れをとるなよ。」
そういって同行が許された。
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「ここの奥でエアを誘拐しているんですか。」
女将さんに付いて行くので精一杯だった俺は息を切らしながらぼろい扉を見る。
「あいつによればここだそうだ。」
俺とは逆に女将さんは息を全く乱していない。
──いくぞ。
そういい女将さんは突入する。
中には一人の男とエアが天井から紐をつるしてそれで手首を縛られて座っている。
その男までは距離があり、道は狭い。
「・・・ガイとドスはどうしたんだ。」
男がそうつぶやいた。
堀の深い男はドスというのか。
そう思い男をじっと見つめる。
その時女将さんが動いた。
ダッシュで距離を詰めようとしたのだろうか。
しかしその時。
「うごくなぁ!!」
エアの首に剣をあて男が叫んだ。
これをみた女将さんは動きを止める。
「お前らがこっちの要件を飲んだらこの娘を返す。変な動きでもしてみろ。まぁ想像つくわな。」
金を用意しろか。
男の要件は想像つく。
あれ?その前に女将さんは?横にいたはずなのにいない。
バキィ!!そんな音がして男の方を見てみると。
「エア!大丈夫か!怪我はないか!?」
男は奥の方で倒れており、エアの拘束具を女将さんは力任せに解いていた。
「大丈夫だよ。怪我はないよ。安心して。」
怖かったのだろうか。
涙声でそう言った。
そうして親子で互いの無事を確かめるように抱き合っている。
・・・女将さん強すぎない?俺いらなくね?
そうして無言のまま俺は宿に戻る。
この時、俺はエアの視線に気づいていなかった。
それから数日がたって、この町のことはだいたいわかってきたと思う。
まぁ、それはそうと魔法を練習していてわかったことがある。
強くなるためにはここ、ゲートで暮らしていては魔法を極めるビジョンが見えない。
ここを出よう。
そう決意した。
「女将さん。少しお時間いいですか?」
洗い物をしている女将さんに言う。
「なんだ?」
女将さんはこっちを向かずに答えた。
「ここを出ようを思います。」
女将さんは一瞬手を止めたがそのまま洗い物をする。
「・・・魔法の鍛錬か?」
あれ?
「何で分かったんですか?」
誰にも言ってないはず。
「お前が毎日何かしら気でも狂ったように魔法を使ってるのは知っている。それとあの誘拐犯を魔法で動きを封じ込めたことも。床がぬれてアイツの腕に凍傷のあとがあった。」
洗い物が終わったのかこっちの方を向く。
「知っていたんですね。」
流石名を轟かしているらしい冒険者さん。
「ドアが壊されていたことは大目に見たが・・・。まぁそれよりも。ここを出て冒険者になるのか?」
あ、ドアを壊して怒られないと思っていたら目をつむってくれたのか。
「はい。冒険者になって俺を助けてくれた人を探す旅に出ようかと。」
旅の目的は魔法を極めることだけど、それならあいまいだからひとまずは助けてくれた人を探す旅にしよう。
「なるほど。それと、このとこはエアに言ってあるのか?」
腕を組みながら女将さんは言う。
「いえ、まだ言っていないです。」
もちろんこの後言いに行くつもりだ。
「エアには言わずにこのまま去れ。」
どいうことだ?
突然の言葉に思考が止まる。
「お前が出ていくって言ったらエアはきっと引き止める。そうしたらここに留まるだろう?」
失礼な。
そこまで俺の意思は弱くない。
そこで俺はシュミレーションをする。
エアに引き止められる・・・。
女の子に引き止められる・・・。
「留まりますね。」
即答する。
「というわけだ。エアには私から伝えといてやる。」
少し待っとけ──そういい女将さんはこの場所を離れる。
少し待ったら女将さんが小袋を持ってきた。
「ほら!これがお前の給料だ。・・・あと中にはパンとギルド登録がしやすいように招待状を書いておいた。」
そう言って袋を投げ渡してきた。
中を見ると銀貨が20枚ほど入っている。
まったくこの人は。
見ず知らずの俺を助けてくれて。
住む場所がないからって商売道具である部屋を提供してくれて。
そのうえ働いてるっていえたくさん失敗して、物を色々壊した俺に給料を渡すのか。
「・・・ありがとうございます。」
俺は後ろを向き女将さんに顔を見られないように、声を震わせながら言った。
「では、女将さん。色々ありがとうございました。」
そう言って速足で出ようとする。
そしたら、
「つぐみ。行ってらっしゃい。」
と、今までに女将さんから聞いたことのない安心感を覚える声でそう言ってくれた。
行ってらっしゃいってことはここに帰ってきていいんだろうか。
俺はここを出ていく理由の一つに自分が邪魔になっているのでは?
そう思って出ようとしていた。
だけど、そんな俺でも本当にここに帰ってきていいんだろうか。
心が温かいもので埋まっていくのがわかる。
──ただいま。
ここに戻ってきたときはそう言おう。
そう決意して、
「行ってきます。お世話になりました!」
後ろを向いたまま、視界をぼやけさせながらここ、『ゲート』を出た。
最後に俺はゲートの床に数滴のシミを作っていた。
書きたいことを描くってこんなにも難しいのですか・・・・・。