いけ好かないねぇ
--次の日
ボルツと話し合った結果、ロニーの病気が芳しくないためしばらく店は閉めることにした。
俺は何とか金策が出来ないかと考えながら町を歩いていると広場で人だかりが出来ているのを見かけた。
「おいおい。ついに内戦だぜ」
「ああ。これは稼ぎ時だな」
何やら冒険者らしき者たちが立て札を見ながら話している。
その立て札には【傭兵募集】と書いてあった。
「お!ボルツの所のグレイじゃねぇか」
立て札を読んでいると店の常連客のベンが話しかけてきた。
40歳ぐらいのぽっちゃりおじさん。種族は恐らくホビット。
俺が知っている常連の中でも温厚で気さくな人だ。
「どうも。ベンさん」
「昨日は定休日でもないのに店が閉まってたな。何かあったのか?」
ベンにロニーの病気が原因で店をしばらく休む事を話した。
「そうか。そりゃ悪かったなぁ・・・ところでお前。傭兵になるのか?」
ベンが立て札を指さしながら聞いてきた。
「あー。いや・・・傭兵って儲かるんですかね?」
「命張る仕事だからな。町の料理人よりは儲かるのは間違いねぇ。それに敵将を討ち取れば一攫千金だぜ!」
「ほー。そんなもんですか。詳しく教えてもらっていいですか?」
ベンによるとこの街はどの国にも属してないので特別に傭兵団があるらしい。通常だったら民は国家の軍人として雇われるが、この町の傭兵は利害関係がないので全て金で動く。傭兵団は全部で3つあり、今回はベンが所属している【禿鷹】の傭兵団が募集しているようだ。
「なるほど。俺なんかでも雇ってくれるものなんですか?」
「そうだなぁ・・・盾役ぐらいだったら雇ってくれるかもしれねぇが、装備は自前だからなぁ」
装備?あぁそうか。傭兵だから国が支給してくれる訳がないか・・・俺は剣もなければ鎧もない。
盾なんて当たり前のように持ってない。
「そうですか・・・やっぱり難しそうですね」
「・・・いや待てよ。そう言えば給仕係がまだ決まってねぇって副団長が言ってたな」
「え?本当ですか!?」
「あぁ。この前の戦争で死んだからな。ラッキーだったな。ガハハ」
お。おぅ。笑い事なのか・・・。
なんとも言えない気持ちになったがこれはチャンスだ。他にアテもないので早速給仕係にしてもらうようにベンに頼んだ。
--次の日
ベンと一緒に【禿鷹】のアジトに向かった。
まさかこんな形で料理の腕が役に立つとは思わなかったが給仕係として雇って貰えるようだ。
ロニーとボルツには言ってない。引き止められても困るので出発の日に置手紙だけして行くつもりだ。
大きなアジトの門をくぐると中には大きな広場があり、色んな種族の傭兵が所狭しと300人ぐらい集まっていた。
亜人だらけだ。人族はこの町では希少なのかあまり見かけないな。
そんな事を考えていると奥の祭壇に男が登ってきた。頭には鷲をイメージした兜に羽が生えているようなマントを纏っている。遠目だが大男だというのが分かる。
「集まったな野郎共!俺は団長のホーグルだ!今回の戦は第二王子に雇われた!こいつは第一王子より気前が良い!敵将の首を上げりゃあ正規軍の部隊長にしてやるとのお達しだ!」
うおぉぉぉ!
傭兵達の歓声が響き渡る。
「占領した村や町は好きにして良いとも言ってやがるぞぉ!暴れるぜぇ!!」
うおおぉぉぉ!!
傭兵達の声が先ほどより増して地響きのような怒声になった。
本当の目的はこっちだな。略奪。傭兵だからしょうがないがこんな脳筋ばっかりで大丈夫か心配だ。
そんな心配をしていると奥の方から真っ赤なマント纏った細身の仮面の男が出てきた。
金髪だからエルフかな?
「皆の者!そうは言っても今回は内戦だ。ランルージ王国の民に恨みを買われないよう女子供には手を出すな!」
ブゥーー。
傭兵達がブーイングしている。
「ありゃ副団長のロアだ。いけ好かない野郎だがあいつが指揮を執っているお陰でウチは連戦連勝なんだ」
「へぇ」
まともな人もいるんだな。やっぱイケメンは言うことが違うな。うん。
仮面だから分からないがきっとエルフのイケメンだ。うん。いけ好かない。