字覚えるの大変でした
--次の日
正直に字が読めない事をロニーに伝えたらそういう人も珍しくないと言って笑って許してくれた。
頑張って覚えなければ。
昼になってボルツと食料の買い出しに出掛けた。町は商人と買い物客で賑わっていてとても活気がある。治安も特に悪くはないようだ。
気になっていた町の中央の塔についてボルツに聞いてみた。
「ボルツさん。あの塔ってなんなんですか?」
「・・・おめぇは本当に何も知らねぇんだな」
ボルツによるとあの塔はいわゆるダンジョン。塔を上がれば上がる程レアアイテムや強い魔物が出てくる。この町はあの塔を上る冒険者達が自然と集まって発展していったらしい。魔物から剥ぎ取れる素材は生活の上で欠かせないアイテムになるようで、一部の魔物は食材としても重宝しているみたいだ。
「へぇ~。冒険者かぁ」
「なんだグレイ。冒険者になりてぇのか?」
「い、いえ。でもせめて魔法とか使えれば便利かなぁとか思って」
「魔法?ハハハ。そりゃ無理だ」
「え?無理なんですか?」
冒険者ギルド行ったら魔法使いとかになれるんじゃないの?
「そりゃおめぇ魔法なんて覚えるのに大金がかかるからだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。しかもそいつに適正がないと覚えられねぇ」
めちゃハードル高かった。
「人族で適正があるやつなんざ滅多にいないしな。それに適正があると見なされると大変だぞ・・・色んな意味で」
「うわぁ・・・」
色んな意味で・・・軍事利用とか実験体にされたり?
そう言ってボルツは市場で買い物を始めた。
え?話終わり?どういう事だってばよ・・・
□□□□
開店時間になり結局話は聞けなかった。
剣や斧等を携えて鎧を着た人がぞろぞろ入ってくる。ボルツの店は冒険者が多い酒場みたいだ。
「いらっしゃいませー」
今日の俺はまだまともにレシピを覚えていないのでウェイターとして働くように言われた。繁盛店らしく店は大忙し。よく夫婦だけで今までやってこれたなと思いながら何とか仕事をこなしていく。
冒険者達を見ると確かに如何にも僧侶とか魔法使いって感じの人がいない。むさい鎧だらけ。
「兄ちゃん美味かったよ!ごっそさん」
「ありがとうございましたー」
俺は作ってないけどな・・・そしてようやく閉店時間になった。むさい鎧だらけだったが、冒険者達は陽気な人達ばかりだった。ここに来る冒険者の質が良いだけなのかもしれないが。
~いきなり約1年後~
ようやくこの世界に慣れてきた頃、俺はやっと字の読み書きが出来るようになった。マジで大変だった。もうほとんど象形文字。今となっては英語って本当に覚えやすくて素晴らしいと思っております。勉強せずにごめんなさい。
そしてこの世界の字をほぼ覚えた俺は酒場のレシピを完璧に作れるようになっていた。醤油とか砂糖とか普通にあるので字が読めればそんなに苦労はしなかった。
生活に少し余裕が出てきたので、物騒な世界で生きる為にトレーニングを兼ねて昼は町の周辺のスライム狩りをしている。スライム討伐クエストはないが、スライムの素材はお金になる。日本円で言うと1匹10円ぐらいにしかならないが貴重な収入源だ。
冒険者ギルドでは職業を選ぶという概念がなく魔法は今のところ使えそうにない。そして未だにチート能力は開花してないない(そうであると信じたい)
何故この世界に転移したのかも分からないままだ。意味なんてないのかもしれない。
ちなみにスライムは自前で作ったこん棒で核をぶっ叩いてます。
「こんなもんかな」
今日の成果は300円ぐらい。無理するとスライムでも殺されかねないからな。
夕方になったところで酒場に帰った。今ではロニーが下準備をして俺が料理を作りボルツがウェイターをしている。俺のオリジナル料理が評判で前より忙しくなった為だ。このまま行く貴族の専属料理人に抜擢されたりして・・・・・それはないか。
閉店間際になって余裕が出てきた頃、冒険者達の会話が聞こえてきた。
「おい。聞いたか?ランルージ王が死んだらしいぜ」
「ホントか?いよいよ内戦が起こるかもな」
「ああ。世継ぎを決める前に急死だったらしいからな」
ランルージ王とは人間の国を治めている王様だ。ランルージはフェルーより北にある国で王子が3人いる。第一王子と第二王子の仲がとても悪いという噂を聞いた事がある。
しかし内戦かぁ・・・まぁここは大丈夫だろうけど。
何故ならここフェルーの町は自由の象徴として建てられた町でもあり、どの国にも属さない完全に治外法権の町だからだ。この町を治めているのは塔を攻略したと言われている戦乙女カリアと聖女メビス。この町を侵略しようものなら2人を慕う国々を敵に回す事になるだろう。
とまぁそんな事はさておき、明日は酒場が定休日なのでスライムを討伐して貯まったお金で武器を買うつもりだ。そして場所はイマイチ分からないが1年前に助けて貰ったあの子にお礼をしに行く。
今ならゴブリンも倒せる!ハズ・・・