悪魔の姉と天使の妹
・・・・目を開けると天井が見えた。
肌の感触からしてここはベッドの上みたいだ。どうやら助かったらしい。
「いてて」
足を動かそうとすると鈍痛が走る。崖から落ちて怪我をしたのだろう。
「あら・・・気付かれましたか?」
ふと可愛らしい声に振り向くとそこには天使がいた。
と言っても翼が生えてるわけではない。しかし天使のような可愛らしい顔と薄い桃色の長い髪の少女がこちら心配そうに見ている。15.6歳といったところか。
「あの・・ここは?」
「ここは私の家です」
辺りを見渡すと簡素なテーブルと椅子があるだけの殺風景な部屋だった。
「・・・俺はどうして?」
「家の近くで気を失っていたんですよ・・・でも気が付いて良かったです」
話を聞くと崖から物凄い音がしたので近くまで行ってみると、葉っぱまみれの俺が倒れていたのでここまで運んでくれて手当をしてくれたらしい。どうやら木に引っかかって助かったようだ。足には包帯らしき物が巻いてある。
「手当までしてくれてありがとうございます。ここまで運ぶの大変だったでしょう?」
こんな華奢な子が1人で大の男を運ぶのは大変だったに違いない。
「あっ!・・・ええ。少し重かったんですが大丈夫です!」
何故か少し戸惑った後にぐっと腕こぶしを作るように見せた彼女だったが当然出来てない。
そんな細い腕じゃ腕こぶしは無理だ。でもその仕草はとても可愛かった。
「起きたの?じゃあすぐに出て行ってちょうだい」
そんな微笑ましい彼女を見ていると部屋の奥の方から違う女性の声がした。
振り向くとそこには助けてくれた少女と同じ顔だが何処かキツイ感じの薄紫色のショートカットの女性がいる。
「姉さん。そんな言い方」
「いくら何でもお人好しが過ぎるわよ!こんな何処の馬の骨かも分からない男を拾ってきて!」
綺麗だが悪魔のような目でこっちを睨んでいる。怖い。
「あ~すいません。すぐに出ていきますので。助けてくれてありがとうございました」
冷たいように感じるがこの女性の言うことはもっともだ。俺だって何処の馬の骨かも分からない男を家に上げたくない。
「ごめんなさい。姉はいつもこんな感じで・・・。どうしてあんな所で倒れていたんですか?」
「いやぁ。気が付いたら変な緑色の小鬼に追い掛け回されて崖から真っ逆さま。お恥ずかしい限りです」
「・・・もしかしてゴブリンですか?」
「・・・たぶん?」
やはりアレはゴブリンだったのか?何処で見たことあると思った。
「この辺りの方ではないのですか?その服装も・・・」
「え?」
少女が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。自分の服装を改めて見てみるとジャージを着ている。馴染み過ぎて何も思わなかったがこの世界の人からしてみれば珍しいのかもしれない。事故死した時の服装だった。
「あ!あぁ。そうなんですよ。遠い所から来てまして」
遠いどころか世界が違うが、嘘はついていない。
「そうでしたか・・・それは大変でしたね」
「ふん!ゴブリンから逃げるなんて情けない男だわ。どうりでうまくない訳ね」
ん?うまくない?どういう意味だろう?
「ぼーっとしてないでさっさと出て行って!」
そんな事を少し疑問に思ってると銀髪の女性はそう言って奥の部屋へ戻っていった。
「じゃあ私が町の近くまで送って行きますね」
「何から何まですいません」
女の子に頼りきるのは男としては情けないが今はそれどころじゃないな。
ここはお言葉に甘えるとしよう。
□□□□
少女によるとここは町から少し離れた場所にあるらしい。
「ちょっと失礼します」
ふわっといい匂いがすると目の前が真っ暗になった。
どうやら目隠しをされたみたいだ。
「あ、あの?」
「ごめんなさい。姉にこうしろと言われて」
少女が言うには人里と離れてひっそり暮らしているので見つかりたくないとのこと。
こんな美人姉妹がこんな所で暮らしていると思うと何かと心配だが俺は大人なので野暮な事は聞かない。
でも大丈夫なのかな?盗賊とか魔物とか。まぁ人の心配をしてる場合じゃないんだが。
外に出るとふい少女が俺の手を引いた。
スベスベの少女の手は柔らかく暖かい。このまま俺の手を引いて森を抜けるようだ。
「あの・・・足は大丈夫ですか?」
「はい。まだ少し痛いですが何とか大丈夫そうです」
金髪美少女と手を繋いでドキドキしてたもんだからすっかり忘れてたが足を怪我してたんだった。
と言っても少し擦りむいた程度だったので大した事はない。包帯まで巻いてくれるなんてやはり天使か。
てか冷静に考えるとこの森って魔物とか出てくるんじゃね?
そして俺は目隠し・・・ヤバくないですか?
と、そんな杞憂をよそに魔物には遭遇することなく30分ぐらい歩いた所で立ち止まった。
「目隠し外していいですよ」
少女に促され目隠しを外した。
うっ!陽の光が眩しい。
「このまま街道をまっすぐ行けばフェルーという町があります。じゃあ私はこれで」
「あっ」
目を慣らしているうちに少女はそう言って森の奥に消えてしまった。
聞きたい事は山ほどあったが森の中では色々緊張して何もしゃべれなかったし、少女も話しかけてこなかったからしょうがないと言えばしょうがない。でも今度会う機会があったらちゃんとお礼をしよう。この目隠しの布も返さないとな。・・・いらないかもしれないけど。あー。せめて名前だけでも聞いとけばよかった。
てか普通に喋れたな。それぐらいは神様が何とかしてくれたのか?
そんなこと考ながら俺は街道を進んだ。