考えても仕方ない
「給仕係!無事か!?」
ロアが血相を変えて部屋に入ってきた。
手練れの見張りは倒したようだ。
「ええ。なんとか倒せました」
「そうか。秘策があると言っていたが上手くいったようだな」
「はい」
素人同然の俺が勝てたのは全て少女が奴と戦った時の経験のお陰だ。こいつは過去に俺と全く同じ事を少女にやったのだ。敵を優位に立たせて勝てると思わせたところに袖の下から発射される鋭利な刃。それが当たった時の絶望の顔がたまらないらしい。どこまでもクソみたいな野郎だ。しかし予め知っていれば避ける事は容易い。俺は横に避けるのではなく、あえて前に出て奴の肩を突き刺した。そして足で動きを封じたあと首を刎ねたという具合だ。本当は一撃で仕留めるつもりだったが狙いを外したのは俺だけの秘密ということで。
「それにしても偶然とはいえ仇が敵の部隊長だったのは運が良かったな。これでしばらくは恩人の薬も心配せずに済みそうだな」
「はい。ロアさんが手伝ってくれたお陰です。内戦が終わったら是非店に来て下さい。俺のとっておきをご馳走しますよ」
「ああ。楽しみにしている」
マヨネーズを使った料理を考えないとな。ロアさん食べたそうだったし。
「じゃあ私は寝床に出来そうな家を探してくる。さすがに今から拠点に帰る訳にはいかないからな。お前はそこの拘束されている女性を解放してやれ」
ロアはそう言うと下級ポーションを渡してきた。
「了解です」
捕らわれている女性はいつの間にかまた気絶していた。
縄を解いて横に寝かしポーションをかける。苦しそうだった表情が少し和らいだようだ。
・・・さてと。こいつの首を持って帰らないと。
『ちょっと。何してるの?』
『ん?首を持って帰らないと敵将を倒した証拠がないじゃん?』
『隊長級の軍人だったら記章を持ってるはずよ』
『そうなの?』
言われた通りに部隊長の服を探ると記章を見つけた。
メニルエって書いてある。こいつそんな名前だったのか。変な名前。
『ついでにそいつの剣と袖の下に装備している暗器も貰っておけば?』
『それもそうだな。俺にも使えるかもしれんし』
袖の下を見てみると小さいフックショットのような機械が腕に装着されていた。
腕から外すと本体から目に見えないぐらいの鋼鉄の糸?が鋭利な刃に繋がっている。
『これどうやって発射するんだろ?』
どう見てもトリガーがない。しかし部隊長は手のひらをこちらに向けたまま発射していた。
『そんなことも知らないの?』
少女によるとこれは魔導器で魔力に反応して発射する仕組みらしい。
これには媒介になる道具が必要で一般的にはギルドカードがそれにあたるらしい。俺は冒険者になってないのでもちろんギルドカードは持っていない。
しかし魔導書を開けた者は魔力を感じる事が出来るのでギルドカードが無くても魔導生成士ってのに調整して貰えば普通に使えるようになるらしい。
魔力なんて感じた事ないけど・・・。
『・・・ん?』
『どうしたの?』
『たった今、俺が仇討ったよね?』
『ええ。私のお陰でね』
『・・・成仏しないの?』
『妹の安否が確認出来るまで成仏なんて出来ないわ』
『そ、そっか』
何気なしに話してたけど・・・成仏してないんかい!
まぁいいけど。マイエンジェルは妹ちゃん名前なんだな。
『そういえば君はなんて名前なんだ?』
『リリよ』
『分かった。じゃあリリ。ネネちゃんが見つかるまでよろしくな』
『ええ。よろしく。グレイ』
あんたじゃなくてグレイと初めて呼ばれた気がした。
少しは認められたってところか?
メニルエの装備一式を道具袋に詰めていたところでロアが帰ってきた。
「夜風が凌げそうな家があったぞ。そこの女性を連れてきてくれ」
「分かりました」
気絶している女性をおんぶしてロアについていく。
案内された家は壁に穴が開いてボロボロだったが野営するよりはマシだ。
ロアの提案で部屋は各々別で寝る事にした。ロアの仮面の下が見れるチャンスだと思ったが残念。
しかし久しぶりに一人で広々寝られる。傭兵のテントでむさくるしい男に囲まれて寝るのは正直しんどい。
・・・それにしても今日は大変だったな。王子の料理作りからリリの敵討ちまでするとは思わなかった。そして初めて人を殺したけど何も思わなかった。案外俺ってサイコパス?クソ野郎が相手だったからかどうか分からないけど。
そういえばどうして俺はリリだけが視えるんだろう?他にも成仏出来なさそうな霊はいっぱいいると思うんだけどな。もしかして魔導書は関係なくて実は憑りつかれてるとか?それかリリを成仏させないと他が視えないとか?うーーん?・・・まぁいいや。寝よ。