不思議な本
--3日後
それから道中に何度か魔物と対峙した。
そのおかげと言ってはなんだが、俺は休みながら歩けたので何とか皆に遅れず目的地の村まで辿り着いた。
「全員止まれ!」
団長の号令で皆立ち止まる。
「チッ!遅かったか」
村の中に入ると家のあちこちが壊されていて煙が上がっている。この傭兵団の目的はまずこの村の護衛だったが間に合わなかったみたいだ。恐らく第一王子の部隊が襲撃したのだろう。
「グァー。アー」
奇妙な声をする方を見ると至る所の肉が剥げて灰色の顔した人型の何かが徘徊していた。
「霧が濃い・・・アンデッド化しているな。この村はもうダメだ!先を急ぐぞ!」
「待て!このアンデット達を私は浄化しなければならない」
副団長のロアが団長のホーグルに訴えた。
「何言ってやがる!そんな暇はねぇ!村の護衛に失敗した上に戦場に遅れたとなったら俺の顔が立たねぇ」
「聖女メビス様にアンデッドを発見したら浄化せよ。との命を受けていると言ってもか?」
「・・・それならお前の部隊だけでやれ。いくら命令とは言えそんな金にならねぇ仕事はしたくねぇ。俺達は先に行かせて貰うぜ」
そう言ってホールグが兵を半数程連れて歩きだしたので俺も後ろを追った。
さすがファンタジー。アンデッドとかになるんだな。こわー。世知辛いなぁ。
この世界に慣れてしまっている為か、そんなに感傷的になれない自分がいた事に驚いた。
「待て給仕係。お前は私の部隊だ」
・・・ですよねー。
「皆の者よく聞け!アンデッドは首を刎ねれば浄化する!奴らの動きは遅い。臆せず対処せよ!」
「おー!」
ロアの部隊は掛け声と共に村の中に飛び出した。
勇敢だなぁ。この部隊は聖女信者なのかな?
「おい。給仕係。何してる?お前も行け!」
え?俺も?
「あ・・・俺武器持ってないんですけど」
「なんだと?・・・まぁいい。これを使え」
そう言うとロアは手のひらサイズの杭を取り出した。
見た目は普通の杭だが淡く光っている。
「これは聖女メビス様から預かった聖なる杭だ。これを突き刺せば奴らは浄化する。動きは遅いが油断はするな!」
「は、はい!」
リーチ的な事を考えると剣の方が嬉しかったんだが。
てかそんな聖なる杭をたかが給仕係に渡していいのか?
「モタモタするな給仕係!お前は向こうの丘の上にある離れの家を調べて来い!」
「りょ、了解です」
・・・マジかよこのイケメン。簡単に言ってくれるじゃないか。
ロアの指さした方を見ると薄気味悪い家が丘の上に立っている。
近くまで寄ってみると月明りに照らされて更に不気味さが増している。
・・・めっちゃ怖いんですけど!これなんのホラゲーなんだよ!!
と文句を言っても仕方ないので扉の取っ手に手を伸ばした。
「おっ。開いた」
ギィー。っとお決まりの扉の音がする。
「ごめんくださーい」
はーい。って返事されたら怖いけど一応ね。
部屋の中は戦闘が起こった後のようでかなり荒らされていた。
天窓があるせいか部屋の中は薄っすら明るい。
ギシッ ギシッ
家がかなり古いのか床の音が更に恐怖を煽る。
部屋の中を警戒しながら探索していると本棚に目が止まった。
「これは・・・レシピ本か?」
手に取った本には食べれないと思っていたキノコや野草の調理方法が載っている。
しかし少し変わっている部分があった。これに載っている調理方法は少量だが亜人や人間の血を混ぜて作るらしい。
少し気味が悪かったが今まで食べれないと思っていた物が食べれるようになるのは大きい。
家主には申し訳ないが頂いておこう。恐らく死んでるしな。
「ん?」
レシピ本を取り出した場所の更に奥に黒い本がある。
不思議な感覚に捕らわれた俺は吸い寄せられるようにその本を手に取った。
「死を・・・?」
タイトルの部分。死を。のその後が読めない。
日本人の感覚で言うと中国語で書いてある感じだ。古代文字?なのかもしれない。
中を開くと何も書いていない。
不思議に思ったが何も書いてないのでページを閉じようとしたその瞬間!
本が眩く光った。
「うわっ!」
思わず声を上げて本を放り出した。
放り出された本は光とともに消えていった。マジでビビった。
「なんだったんだ?」
良く分からんが取り合えず怖くなったので外に出よう。そう思って玄関に向かった。
玄関付近まで辿り着くと入った時に気づかなかった小さな扉があった。
「あれ?こんな扉あったっけ?」
恐る恐る扉を開けると薄紫色の髪をした少女が倒れていた。