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おじさまは理解しました。

これより先の展開に細かいブレが生じたので修正が追い付きません。

 



 無事、野宿を終えられたようだ。

私は睡眠がいらない存在なのか、と思ったが、予想外に寝られた。

3時間程度だったが、寝ようと思った瞬間意識が落ち、メメリに肩を叩かれた瞬間戻るという簡単睡眠だ。

それでスッキリとしているのだから人外かもしれないというのも中々良いものだね。


 僅かだが倉庫から拝借した保存食を摂り、また歩き出す。

水はキョウ産だよ。


 ガルを通じて、誰か道、もしくは現在地に心当たりはないかと聞いてもらったが、皆意識を刈り取られた後に牢屋にいれられたらしく、自分たちが知っている場所に近いかも分からないという。

ほとんどが町から出たことがないと言うし。

 メメリとガルは傭兵として森に入ったこともあるが、こんな深いところではどこがどこだか分からないそうだ。

まぁ、そうだろうね。


 奴隷の二人には、私は特に気を配ってきた。

ただでさえ襤褸を着てやせ細っているというのに、何時間も歩かせてしまっているのだ。

そして、私とキョウ以外にはいないものとして扱われていることも、私を心配させた。

奴隷といえばそういうものなのだとキョウは苦笑いしていたが。

 今まで、奴隷になりかけていた子供を保護したことはあったが、奴隷自体には深く関わってこなかった。

 執事兼秘書や友人が『キリがない』といって近寄らせてくれなかったし、私もそれを理解していたからね。

ただ、ここまで扱いがひどいとは思っていなかった。


「キョウ、アイレンの奴隷もあんな感じだったかい?」


「え、うーん?どうだったろ。人による、のかな。俺が見たのは建設現場でこき使われている犯罪奴隷くらいだし。王が奴隷法を厳しくしたらしくて王都じゃあ奴隷商さえ見なかったよ。」


「他の町では?」


「知らないな。だって俺ほとんど王都から離れてないし。精々交易都市のコンドヴル付近の村が一番遠かったかな。…あ、そこで見たな、あーいう子。商店で無理な荷物運びやらされてたり、傭兵が壁やおとりにするために弱そうな奴隷引きつれてたり。王都には入れられないからその場限りらしいけど。気分悪すぎて記憶から排除してたわ…。」


 むむ、陛下が制限しても、そのご威光は王都までだ…。

しかし、借金奴隷などは違法になるものもいれど、本当に借金を返せなくなってしまい奴隷しか道がない者もいるから、どうにもできない。

既に市場は確立されてしまっている。


 せめて、奴隷の扱いに関する法を、国中に通用するように定めるべきなのだろうけど…。

いや、きっと陛下も考えておられるはずだ。

もはや身元もはっきりとしない幼子が心配することではないだろう。



 昼近くになって、豚の魔物、オーク一体と遭遇した。

この森はあまり豊かではないらしく、初めて大きな生物を見た。

小動物はカサカサと木々を揺らすので存在はわかるが、大きな生物は見かけることもなく、爪痕や糞などの形跡さえない。

森とは、こういう環境もあり得るものなのだろうか。



「ブォォォォォ‼」


 目を付けられたのは列の真ん中である傭兵ではない一般人だ。

まぁ、私も含まれるのだが。

そしていくら私たちに狙いを定めようと、すぐ傍には傭兵の三人がいるのだ。


「オーク程度、慌てる必要ないぜ?」


 キョウは一人一歩前に出て、走り近づいてくるオークへ杖を向けた。


「首を落とす、風の鎌。」


 彼の杖から飛び出た魔力の塊は、鞭のようにしなりオークの首を切り落とした。

そのまま首は身体をずり落ち、切り口からは大量の血があふれ出す。

どさ、という音を立てて巨体の豚は横たわった。


「すげぇな、魔法師。」


「自称凄腕らしいからね、安心していいだろうよ。」


 ガルが感心するが、その大陸語はキョウには通じない。

訳す必要もないね。


 彼は次に水の魔法を使って血抜きをした。

ふむ、魔法師がこんなサバイバルしているところは初めて見たが、なかなか便利なのだね。

オークの肉は町でも流通している一般的なものだから、こうして狩りの場を見ることができたのはいい経験だろう。


「キョウ、試したいのだが。オークの肉を少しだけ、私に焼かせてもらえないかい?」


「お、おう?まぁ、いいけど。昼も近いし、ここらで昼飯にするか。」


 今度はガルが両手剣を上手く使って解体していく。

彼も手慣れたものだ。

傭兵とはすごいんだな、サバイバルしなれている。

私もこれくらいできるようになりたいな。


 ガルが取り分けてくれた大きな豚の一ブロックを、そこらへんに生えていた大きめの葉っぱの上に置く。

重い。

大した大きさではないはずだが、子供の身には抱えるのが精いっぱいだ。


「リシル、今の状況じゃあオークの肉さえ貴重だからな?無駄にするなよ?」


「まかせなさい。肉を焼くのに失敗もなにもないだろう?」


 心配そうにみているキョウに笑いかけ、早速魔術陣を思い浮かべる。

 火の最下級魔術、『赤の双葉』。

陣一つで発動する、最低レベルにして基礎だ。

 肉の下の地面に指を付け、魔力を流し込む。

解除の時と同じように魔力が地面に魔術陣を描き始め、発動した。


…。



ゴォォォォォォォォ




「え、ちょっ、リシル、ストップストップぅぅぅ‼火ぃ止めろって‼それか威力下げて‼焦げる、貴重な肉が消し炭にぃぃぃ!?」


「すまない、キョウ。魔術は既定の時間まで燃え続けるし、これが最低威力だ‼」


「なんで自慢気なんだよ‼あぁぁぁ、肉がぁぁぁ‼」



 結局、キョウが魔法で水をかけ続けることによって、肉は茹でだか蒸しだが、よく分からない状態にはなったが火は通った。

表面は焦げている上に水を吸ってベチャベチャとしているので、切り落とすしかない。


「おいこらクソガキ、使えると思ったらンだよ、まともに肉も焼けねぇのかよ。」


 ガルが久しぶりに蔑むような目でこちらを見るが、こればかりは私も肩を竦めるしかなかった。

まさか、これほどまで威力があるとは思わなかったんだ。

精々焚火程度かと。

流石戦争の主戦力だ。


 私が焼いた肉は思いの外旨かった。

キョウの魔法のおかげだろう。

調味料は拝借してきた塩しかなかったが、それだけでも十分だった。


「しっかし、本当に食えそうな生き物がいないなぁ。このあたり人住めんのかな…。」


 キョウが肉にかぶりつきながらそう溢すが、確かに、これでも狩りもままならないんじゃないか?

これだけ歩き回って、オークが一体のみ。

小さな村だろうと、この程度の供給では成り立たない。

こんな山奥では交通の便も悪そうだ。


「まぁ、動物がいなくとも、河か何かあれば魚は取れるだろうから、村は成り立つはずだ。…河の音など聞こえないが。」


「ダメじゃねーか。」


 段々と、全員の顔色が悪くなってきた。

食後すぐに歩き出したものの、まったくと言っていいほど人の気配がしない。

盗賊とて食事をどうにかしているわけだし、私たちを攫い、運び込むにも人の全くいない山奥である可能性は少ないはずなのだが。


「ガル、ここは、“本島”だと思うか?」


「…本島じゃあないだろ。本島ならこんな広い、人のいない山はない。なんだかんだいたるところに人がいるからな。」


 アクシィユという国は、一番大きな本島と、それに付属する数十にも及ぶ諸島から成り立つ。

もしここが小さな無人島だとしたら、希望はない。


「心当たりはあるか?」


「……知らん。」


 彼は目を反らした。

嘘、なのか。

どこか焦っているようにも思える。


 そこで漸く、私は彼の異常性に気が付いた。

彼が最初、私に対し態度が悪かったのも、私が貴族のように見えるからというだけではなく、彼の知る“何か”が既に、常に、彼を追い詰めていたからなんじゃないか…?

彼の今までの態度、顔が、走馬灯のように思い返される。

気の立った、横暴な男の姿が。


 彼だけでなく、この列の人間全員の顔が浮かび、ガルのように何か知ってそうな者はいないか、頭が勝手に捜査する。


 早く歩け、と肩を突かれて前を向くが、頭はフル回転したままだった。


 …どうやら、ただの盗賊の誘拐事件では終わりそうにないね。

この島にいる限り、いや、この島に根付く“原因”を取り除かない限り、私の安全はほど遠いのかもしれない。







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