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おじさまは動き出しました。




 現状を、纏めよう。


 魔術とは。

数百種類存在し、一つ一つが複雑な魔術陣を組み合わせると発動する現象。

魔術陣は一般人には理解不能な構造を持つため、陣を扱う魔術師でさえ十分の一も把握していない。

八割を把握し理解している私を含む研究者たちは、よく変態と言われる。

魔力を指に纏わせ空中に描くこともできるが、陣一つでも複雑なため困難だ。

ベテランの魔術師が一つの魔術陣を紙に描くのにさえ数時間を要すため、その成果である魔術具はとても高価である。

魔石や魔物の素材、魔力を含む物質が媒体として必要になる上、魔法に比べ融通は利かないが、その分燃費が良く、威力も凄まじい。

戦争では小さな時限魔術が書かれた魔石一つが百人の魔法師に相当する、とも聞く。


 その魔術が。


 私は媒体も必要なく、一瞬で発動することができる。…らしい。

いや、解除だけかもしれないが…そうではないだろう。

感覚的に魔術ならなんだろうとできると分かる。

本能に似たものだ。


魔術には媒体に常に魔力を流し、常に魔術が発動される場合と、攻撃魔術を代表に、一度に必要な一定量の魔力を流し発動させる場合がある。

私の現状、魔力で描いた魔術陣はすぐに霧散するため、攻撃魔術などの場合の魔術が簡単お手軽に使えるようだ。

まぁ、魔力を流し続ければずっと発動することは可能だろうから、ほとんどの魔術を使えるといって過言ではないだろう。


「おぉぉぉ、すげぇ。身体が軽くなった!魔力もちゃんと通ってるし!」


 と、それどころではない…か?

いや、どちらが重要なのだろう。

人間(?)兵器となりかけていることと、今ここが盗賊のやしろ…かは分からないが閉じ込められているということ。


「……ふ、ふふ。魔術陣の解除など、簡単なものだよ。さぁ、脱出するでもなんでも、やれることをやってしまおう。」


 ふふふ。


 現実逃避も含めて、今は目を反らしておこう!


 さて、自称凄腕魔法師が使えるようになったのだ。

これは脱出できる可能性も上がったのではないだろうか。


「じゃあ」


 そう言ってキョウは右手に魔力を集めると、真っ黒なネズミが数匹、溢れるように手のひらに現れた。

…なるほど。

魔力で作り出した幻のようだ。


「よしっと。これでこの洞窟内を一旦偵察と行きますか。ネズミくんたち、頼んだぞ~!」


 キョウが手を揺らすとネズミたちはピョンと飛び降りて、床をすばしっこく走り、鉄の柵の隙間をすり抜けていった。

彼はネズミのいなくなった手のひらをじっと見つめており、そこには魔力が溜まっているように感じる。多分、その魔力にネズミの見ているものが映っているのだろう。


「おい、聞いてんのかっつってんだよ‼クソガキ‼」


 はぁ。

先ほどから後ろでなにか騒いでいるなぁとは思ったものだが、さすがにうるさくなってきた。

これでキョウの集中力が切れたらどうするつもりなのか。


「なんだい、青年。」


「てめぇ、何をした?あの魔法師も魔法使えないようになっていた筈だろう。」


 未だ傍で香る臭いを厭わず、近づいてきた。

その顔は般若オーガのようである。

まったく、子供に向かってそんな顔をしてはいけないだろう。

私でなければ泣いていたぞ。


「あぁ、私はあんな腕輪されてなかったからね。彼の腕輪にかけられた魔術を解除してあげただけだよ。」


 手のひらを見つめ続けるキョウを挟んでにらみ合う。

ここで態度を崩しては負けだ。

余裕のある笑みで青年を見つめる。


「…チっ。俺のも解除しろ。そんなひょろい魔法師よりも俺がこの檻を壊せば一発だろう。」


「おやおや。君はこの洞窟らしきものの構造を知っているのかな?逃げていった先に犯人がいたら元も子もないだろう?それともなんだい、君は安全にここから逃げ出せる方法を知っているのかな?」


「犯人がいようと切り伏せればいいだろう。」


「ははは、面白いね。剣もなく切り伏せるとは。しかも君は犯人をみたことがあるのか!そうか。何人いるのかも分かるんだね?それはすごい。」


「てめぇ…!」


 どうやらこんなバカにも、私が馬鹿にしているということは伝わったようだ。

なによりだね。

まぁ、戦力は大事だから解除してあげたいのは山々なんだが。

不安も残ることだ、ギリギリの判断でも間に合う…そうか。


「よしよし、そう怒るな。なに、別に解除してあげないつもりはないよ。こんな状況だからね。」


「最初からそういえばいい!さっさとやれ!」


 なんだか、貴族が嫌いらしき空気を出す癖に、貴族よりも態度が悪いのはどうなんだろう。

人として。

 仕方がないので私の方から近づいて腕輪を見せるように言う。

「変なことするなよ。」とは言うが、あぁ、もちろん。


するよ。


『黄の鳩時計』。

私が思い浮かべると先ほどと同じように、一つの魔術陣が彼の腕輪に付いた魔石に吸い込まれていった。


「ははははは!これで出られるじゃねぇか!あぁ、別に盗賊と鉢合わせようがいいよな、俺がぶん殴ればいいんだからよ!」


 おや、彼は拳闘士だったのかな?

どちらにせよ、彼が魔力を解放されてできることと言えば身体強化くらいなはずなんだがね。

盗賊だってそれほど弱いわけじゃあないんだ。


 だから、そんな意気揚々と檻を壊そうとしないでもらおうか。


「…!?おいっ、クソガキっ!何しやがった‼」


 魔力を体に漲らせて檻に手をかけた青年は、急に力が抜けたように座り込んだ。

あれあれ、別に私は力の抜けるような魔術はかけていないんだけどね。

魔力が急に乱れて感覚がマヒしたのかな。


 ともあれ、これでまだ盗賊(仮)に気づかれずに済んだだろう。

平民の少年少女と奴隷の子二人、可哀そうだが足手まといにしかならないのだ。

彼らを守りながら犯人を殲滅するのは難しいだろうからね。

逃げるが勝ち、でいこうか。


 さて、キョウはまだかな?

そろそろ、立ち上がった青年が殴り掛かってきそうで怖いのだけど。

 ちらりと伺うと、漸く手を下ろして軽く息をついているところだった。

よし、もう平気だな。


「終わったかい?」


「ん?あぁ、なんとか大体の部屋は確認したけど…って、なんで俺にしがみつく……はぁ。何したんだよー…。」


 キョウは首だけで振り返って、青年を見ると顔を引きつらせた。

今度こそ本当に殴ってきそうなほど怒っているからね…。


「おい、魔法師。そのガキ渡せ。」


「え、彼なんて言ってるの?」


 あぁ、そうだった。

大陸語だろうとキョウは分からないんだった。

魔法師ならある程度の教養、あっておかしくないんだがね。

まぁ、私も彼以上に不思議な存在だろうから詳しくは探らないでおくが。

 とりあえずキョウに青年の言っていることを伝えると、


「やだよ。てか、解除してもらっといてそれは無いんじゃないの?」


 それをまた私が訳す。

なんだこのシステム。

私が一番面倒なのだが。


「あぁ?解除だぁ?俺が身体強化しようとしたらまた発動したじゃねぇか!失敗だろうが、愚図!」


 おっと、ひどい言い草だ。

失敗なんかじゃないんだけどね。


そして翻訳。


「リシル、どーいうことだ?」


「なに、ちょっと危険だと思ったからね、彼の魔術陣は解除というより、限定解除、みたいなものにしたんだよ。私がダメだと判断したら発動するようにね。」


「なるほど。」

 よく見れば、いや、見ても分からないものだが、青年の腕輪からは細い魔力の糸が私の指につながっている。

本来は対になる魔術具とともに使うものなのだが、どうやら私の指先がそれと認識されたらしい。

親指の爪には『黄の鳩時計』の陣が浮かんでいる。


「なに普通に会話してやがんだ、とっとと訳しやがれ‼」


 おお、怖い。

そういうところが完全解除してあげられない原因だというのに。

短気は損気。

浅慮では世は渡れないんだよ。

なによりそろそろめんどくさい。


「…はぁ。キョウ、今彼が檻を壊したとして、気づかれずに、安全に逃げ出すことはできるかい?」


「あー、可能性としては半々かな。結構深いんだよ、ここ。で、今犯人たち、やっぱり盗賊みたいなんだけど、酒盛りしてんだよね。ちょっと奴らがたむろってる方向へ行くと武器庫とか備品庫?があるから、ちょっと寄っておいた方がいいと思う。ここ、かなり山奥みたいでさ、人のいる所へ出るにも一日以上は確実かもしれないから。」


 山奥の洞窟から盗賊に追われながら逃げる、とは。

かなり厳しい状況になってきたな。

しかも戦力の一部がアレ。

簡単に言うことを聞いてくれそうにもない。


 まぁ、しかし、山奥。

野宿もあるかもしれない。


「くふ。ふふふ。」


 初体験ばかりで心が躍るなぁ!







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