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おじさまは戦慄しました。

半年も更新していなかったことに恐怖を感じ、とりあえず改稿から始めることにしました。(2020.12.29)





 私と目が合った青年は、元々ゆがんでいた顔をさらにしかめた。


「おい、何騒いでんだよこんな状況で。」


 大陸語で言ったそれは、まぁ、確かに正論だ。

多分彼もここが法に反する危ない場所だと知っている、いや、私たちよりも何か詳しいことを知っているのだろう。

教えてはくれないけれど。

 しかし、私とて穏やかに会話をしていただけではないのだがね。

とりあえず、彼になにか聞けるかな。


「こんな状況、とは?私は目覚めたらここだったものだからね。あまり理解できていないのだよ。ほら、まだ子供なものだから。」


 小首をかしげてみれば、あざとい子供の出来上がりだ。

彼に効くとは思っていないが、下手に怯えてはこの牢屋での立場が下がってしまう。

できるだけ気丈に振舞った方がいい。

彼の太い腕は怖いが、彼と同じく囚われの身である私に手を出せるのかも気になる。

彼も私も、ある意味既に“商品”なのだ。

逃げ出す機会を狙うにしろ、最悪の場合に備えてできる限り『誘拐犯』に目を付けられるような行動は起こしたくないはずだからね。


「てめぇみたいな綺麗ドコは、変態のジジィに売られて終わりだよ。精々イイトコん売られるよう大人しくしてろ、クゾガキ」


 ところどころ、汚いスラングが混じる。

大陸語は五か国の言語の綺麗なところだけを集めたものだから、本来スラングは存在しない。このスラングは……オースアイレンの隣のリウインゲ帝国のものだ。

イントネーションも帝国風のものを感じる。

あそこは実力主義、武力主義のところがあるから、粗い言葉が多い。


 というより、だ。

なんだね、変態のジジィとは。

幼児趣味か?幼児趣味ということか?

まったく、ならん。

子供は元気に健やかに育つのを見守ってこそだろう。

そういう対象に見るのもおこがましい。純粋な存在だというのに。


「…ふう。忠告ありがとう。精々大人しくしとくよ。」


 怒気を押さえて笑顔で返す。

私も大人だ。

これくらいで状況を悪くしたくはない。

それよりも今は優先したいことがあるしね。


「ん?あれ、なんて言ってたんだ?」


 キョウは涙目のまま、しかし意識が会話に向いたからか、キョトンとした顔で私を覗き込んだ。

彼は両手で自分の頭を押さえたままだが、私は両手で彼の右手を掴んだ。


…くふ。これはこれは。


「なに、騒がしくしていたのを咎められただけだよ。」


「え、ちょ、待って。なんでそんな怖い顔してるんだよ。きもっ…。」


「気持ち悪いとはなんだね。私の顔がかね?それとも…」


 遠慮気味に腕を引くが、私も離さぬよう力いっぱい掴み続ける。

そして。


「はっ!?お、お前、何してんだ⁉魔力…吸ってるのか⁉」


 ご名答。


 キョウが私の頭を撫で始めてから、違和感があった。

生暖かい空気のようなものが彼の手に纏わりついていた。

それは私が身体に取り込もうとすれば簡単に入ってきて、自由自在に体の中を異動させることができる。

彼に触れるまで感じたことのなかった感覚だ。


 私は目覚めてから、浄化魔法が無くとも体調が良いのだから、きっと私も魔力を僅かながらにでも自ら生み出せるようになったのだろう、と、魔力らしきものを探っていた。

子供たちが魔法の練習をするのを見ていたので、方法は知っている。

心臓付近の魔力を生成する器官から、体を巡らせて云々だ。

しかし、私にはそれが全く感じられなかった。

リーリウェルの時となんら変わらない。

 だが。

キョウの手にそれらしきものを見つけた。

 人の魔力を奪うことができる人間なんて聞いたこともないし、いたとしたら悪魔か、魔族かと言われても仕方のないことだと思う。

それでも私には確かな高揚感があった。


 私にも魔法や、魔術を人並みに使えるようになる可能性があるのだ。


 キョウは驚いた顔のまま、固まってしまった。

うむ。仕方がない。


「⁉」


 今までより多く吸い取った。

身体全体に巡らせることができる。

はて、これはかなりの量じゃないのか?

初めて魔力に触れたものだから、どの程度が普通かは分からないし、これでどのくらいの魔法が使えるんだろうか。

…自分ですごいと言うだけあって、キョウの魔力量が多い可能性もあるな。

貰えるようならもうちょっと貰うか?


 と、もう一度魔力を…と思ったところで手をすり抜けられた。

キョウの顔は驚きに染まっている。


「え、なに、え…。お前、悪魔かなにか?」


「さぁ?残念ながら私も私の存在がよくわかっていなくてね。これは秘密として、そっとしておいてくれないかい?」


「え?こんだけ俺の奪っといて、そっとも何もなくね?」


「拝借と言ってくれ。」


「強奪だろ。」


 ジト目で見られた。

何故だ。


「とりあえず…あれか?今ここで俺にそれを暴露…もとい実践したということは、何か解決策があるってことだな?どうにかできるのなら何も言わねーよ、今は。」


 いろいろと諦めた顔をしたキョウは、深呼吸ついでにため息を漏らした。

右手首を私の顔の前で振る、つまり解決策とは魔術具をどうにかできるのか、ということだ。

まぁ、私が普通の子供ではないと認めたのなら、ここからの脱出も頼ってくれてよいのだけどね。

私もまだ自分が何をできるのか分からないから、今のところは仕方がないか。


 さて、彼の腕を取って金属製の腕輪を良く見てみよう。

特に装飾のないその腕輪には、小さく、濁った血の色をした宝石のようなものだけが付いていた。

魔石だ。

その魔石をじっくりと見つめると、表面に溝で魔術陣が描かれているのが分かる。

ふむ、『黒い指輪』と『黄色いつむじ』か。

魔術陣ははるか古代に完成したアーティファクトに近いものであり、陣の種類は数百にも及ぶ。

陣一つ一つが複雑であり、一つを完璧に覚えるにも一般人には難しいと言われるほどだ。

世間で魔術師と呼ばれる人間は、研究者が出版する『魔術陣大集』を複写して魔道具や魔紙と呼ばれる魔力を含む媒体に描きこむことで収入を得ている。つまり、描くのは得意でも魔術陣の意味や構成まで詳しく理解しているものは少ない。


対して、私たち魔術研究者は魔術陣がどのような効果を持つのか、そして何種類もの陣を組み合わせた時どのような効果を発揮するのかを発見するのが仕事だった。

魔術陣は古代遺跡の壁に並べられており、その下には名称らしきものもある。

名称には必ず色が組み込まれており、その色がその魔術陣の属性を表している。


 白は『自由』。黒は『拘束』。赤は『刺激』。青は『浄化』。黄は『自然』。紫は『魔』だ。

この六属性が組み合わさり、相反し、魔術が発生する。

そして、魔石や魔物の素材に描きこまれることで常に、もしくは任意のタイミングに発動させることができる。

攻撃魔術は魔術陣の中でも多用されているものだが、主に戦場でのことだ。

あれらは大きな魔石に魔術陣を描きこみ、大砲のように遠方から戦場を狙ったり、小さな魔石は時限の効果を足して爆弾のように投げたり落としたりとする。


 とりあえず、この魔術陣の解除方だが…。

指先に魔力を集め、魔力で魔術陣の上に相殺する魔術陣を描けば、解除される。

一般的に魔術具の効果を消すには、陣の上に対応する魔術陣を描いた魔紙やら魔石をおいて発動させるのだが、今は紙も魔石も魔力を含んだインクもない。

こんな指で繊細に繊細を極めた魔術陣を描こうだなんて、実のところ無理がある。

結構、いやかなり、藁にもすがる思いで実行しようとした。

とはいえこれに失敗したら、私がなんとか魔法を教えてもらったらいけるんじゃないかな、と楽天的ではあったんだが。


 さて、これでも毎日のように、ペンではあったが魔術陣を書いてきた身だ。

指先なんて震える媒体であっても、どうにか解除できるレベルの陣が書けるはず、書けるかもしれない。

そう思って始めたはずだった。


 頭に魔術陣を思い浮かべた瞬間。

指先に溜まった魔力がいきなり、勝手に形を成し始め、気づいたときには魔術陣が完成していた。

『白き槍』と『紫の小箱』。

魔力制御の魔術を解除できる陣の組み合わせだ。

ちなみに解除の意味ではなく普通に使うと、体内の魔力が外へ分散して大変なことになる。

中々危ない効果があるが、これを解除する場合には今度は魔力制御の『黒い指輪』と『黄のつむじ』が必要になる。


 二つの魔術陣は重なり合い、吸い込まれるように魔石の中に消えていき――

――一瞬、パチッという音ともに瞬いた。

再び覗き込むと、そこには真っ黒に塗りつぶされた魔術陣があった。


 さてさてつまり、だ。


私は魔法より大分扱いが難しく、しかしその代わりに威力と魔力の燃費がいい魔術を、思い浮かべるだけで使えるようになってしまったようだ。


…え?






魔術は機械のようなイメージです。

魔力を流し続ければ発動し続けるし、銃のように一定量の燃料を得れば一定の効果を一度発動します。

この二種類の魔術があると設定しておきます(仮)。

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