おじさまは悪魔になります。
またもや見直してませんお許しください。
段々展開が雑になってますねお許しください。
しばらくまたWi-Fiのない僻地に飛んできます。
「…う、うむ?ぬぁ、なんの話だろうなぁ?」
ここで負けるわけにはいかない。
というかキョウに負けるなど私のプライドに反す――
「だってさっきジャスルがリーリウェル卿が幼児趣味だって言ったときさ、」
「だから幼児が好きなわけではっ――あっ。」
「…なぁ?」
「……この程度の証拠で断定しようなど愚行だぞ。」
苦虫を噛んだ気分、いや噛んだこともないが。
苛立ち、というより拗ねたような気持ちで、自然と腕を組み口を尖らせてしまう。
大体、私がリーリウェル・シェルウェルだとキョウにばれた程度で、今後の動きが変わるわけもない。
焦るだけ無駄だ。
「くふ」と喉の奥から乾いたため息を吐くと、先ほどよりかは穏やかな気持ちでキョウの顔を覗き込むことができた。
「君の知っているリーリウェル・シェルウェルの情報はどんなのがある?」
彼もオースアイレン国民。
問題は彼が私と同じ時代にいた人間か、というところだ。
転移魔法術の発動では、確認されている限り最高300年の時間のズレが起きたことがある。
まぁ、私を知っているという事は同時代、もしくは私より先の人間だろうと思うけれど。
「んー、そうだな。確か魔術陣研究の天才で、国の防衛を司る結界の構成を考えた人、とか?あと王様の幼馴染で、その他重鎮とも仲がいい。才能豊かな養子が数人。3年前に亡くなった…うん、亡くなったはずだよなぁ?あ、あと幼児趣味←New!」
「…もう突っ込まない。というか、そうか、君は私が死んでから3年経った頃に飛ばされたのだね。」
いつか払拭してやる。
私はスレンダー美女が好きなのだ。子供は範囲外。
ふむ、3年後か。
大して重要な情報もないような気がするが、私の存在自体が元々重要機密みたいなものだから、一般人が知っているのはこの程度なのだろう。
…もしかして私庶民にも幼児趣味だとは思われていないよな?
確かに頻繁に孤児院を訪れて、外で元気に遊ぶ子供を穏やかな目で一日中眺めたりしていたものだが。
あ、あれ。
今思い返すと良く豊かな商人の子供が媚び売ってきたような…。
…考えるのを止めよう。
今更だ。リーリウェルは死んだのだ。
よかった、死んで…っていやそれは子供たちに申し訳ない。
「って、認めたな?」
「今更。どうでもいいだろう。私がリーリウェルだったことを君が知ったとして、私に何の不利益もない。ただ癪に障るから君の秘密もしっかり私に教えたまえ。私ほど口が堅い人間はいないぞ、君は軽そうだが。」
「軽くないですぅー、これでも堅実に生きてきた真面目人間なんですぅ。」
「語尾を伸ばすな。ジャスルを思い出してイライラする。」
ジト目に尖った口という余計私の苛立ちを煽るような顔に、彼の脛を思いっきり蹴り上げた。
思わず『近頃の若者は皆こんなものなのか』と、爺臭いことを言いそうになる。
私と話す機会のある若者は皆王城勤めのエリートだったからなぁ。
あ、私の子供たちには口の悪い子は何人かいたか。
親の目線だとそれさえも背伸びしているようで可愛かったのだが。
…キョウは全く可愛いと思えないのが救いだな。
それから、特に話をすることもなく村の手前まで来た。
木の柵で囲われた村と、正面に門が見える。
「いやぁ、更地だったから歩くにしても楽だったなぁ。」
「…あぁ、そうだね。飛べばもっと早く、楽に着いたのだがね。」
村の広場にはまだガルとジル、メメリと兄妹がとどまっていた。
ガルとジルは互いに微妙な距離を保ち、メメリはまた二人から離れたところで兄妹に寄り添っている。
あぁ、よかった。兄妹も起きたようで座ったまま抱き合っている。可愛い。
辺りを見回しながら広場へ進むが、村人の姿も気配もない。
「ガル、大丈夫かい。」
「…ガキ、あいつは、どうなった。」
彼はギッとこちらを睨み、視界に入ったジルを気にするような目を見せて、また反らした。
あーあ、彼女をどうしたらいいかずっと考えていたんだろうな。
それで、彼女を“人間”に戻せるかどうか、それはジャスルにかかっているとでも?
「残念だけど、逃げられてしまってね。」
「あぁ⁉てめぇらに任せればどうにかなるんじゃねぇのかよ‼」
予想通り掴みかかってきたが、予想通り、である。
私と彼との間には薄い結界を予め張っておいた。
ははは、痛いだろう勢いよく壁を殴ったようなものだものなぁ。
「そうして、すぐに手を出すのをやめてほしいものだよ。君の望む答えなどこの世のどこにもないというのに。」
「あぁ⁉」
「君の妹を“人間”に戻す方法など既に無い、と言っているんだ。」
私は微笑みながら告げ、表情を無くしていく彼を眺めた。
隣でキョウが「え、ちょ、リシルさん?なんでそんな悪魔仕様なの…」と何かつぶやいているが、知ったことは無い。
実際、彼女から魔石を取り除くことも、魔物の魔力を抜き去ることももうできない。
完全に同化したうえで、彼女の儚い命を支えているのもまた魔物の魔力なのだ。
ちらり、とジルを見ると、彼女は身体を大げさに震わせて怯えた目で私を探った。
理性はある。
魔物と同等かと言われたらそれも違う。
この世の多くの人間が見たことも聞いたこともない存在になってしまった少女だ。
なんてかわいそうなのだろうね。
「君は、どうなりたい?」
私はわざと、元々は彼女が集めたものであった魔力を漂わせ、笑顔で彼女に問いかけた。
君の兄では話にならないからね。
君が決めていいんだよ、全てを。
少女は目を地面に落としたり、私の足元まで泳がしたり、キョウやガルの顔までをもうかがって、小さな意思を零した。
「生き、たいです。死にたくないです。また、みんなと、普通に生活が、したくて…。」
意思とともに涙がこぼれる。
“みんなと”というのがもう不可能だと理解しながらの発言だね。
ただ、幼い少女の純粋な願いだ。
「ジャスルのことはどう思っている?」
「…ごめん、なさい。分からないです。私にとっては命の恩人で、でも、村の人消えちゃったのもジャスルさんのせい、って。誰が悪いのか、分からないです…。私が悪かったのかなって…。」
「私には測りかねるね、誰が悪いのかなんて。ジャスルはどう考えても悪いが。私の意見は君には関係のないことだろう。そして今も、君がどうしたいかには関係のないことだ。」
面倒な思考に陥る、幼い少女の苦悩。
確かに彼女は被害者なのだろうけど、主犯を手伝った加害者でもある。
なんの罪のない、罪を背負った少女の願い。
半分くらいは叶えて上げないでもない。
「じゃあ、私は君に呪いをかけよう。」
私は彼女に近づくと、その頭に手のひらを乗せた。
…ちょっと私の目線より高い所にあるのが気に入らないが。
「君は魔力のほとんどを捨てることになるし、扱うこともできなくなる。ただその代わり、魔力を吸う必要もなくなる。蔦が勝手に動くこともなくなる。君は、人の群れに紛れることができる。」
今、彼女を人間から遠ざけているものは、その蔦とトレントの本能だ。
感情とともに動き、人の魔力に吸い寄せられる蔦。
しかし、元々のトレントの性質からすると人の魔力は生存に必要はない。
ただ、成長し子孫を残すにあたり必要となるエネルギーを外部から搾取しなければならないだけ。
そんなトレントの魔性(?)と同化した少女は、その本能が暴走しているように思える。
今も、蔦は力なさげに地面で震えているが、その実、地面や空気中から魔力を得るだけでは飽き足らず、私やキョウの足元にまで細い蔦をそろそろと伸ばしているほどだ。
彼女の手の上に置いた私の手からも、しかり。
私はその蔦の先を足でにじり潰し、自分の手の先の魔力を出ていかないよう固めた。
「君の魔力を最小限、死にはしない程度に制限する。魔術は細かい調整が苦手だからかなり大雑把にはなるけれど。これを施して君が生きていけるかは、君の努力と君の兄の覚悟次第、だよ。」