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おじさまはやらかしました。

すみません忙しかったのです。

週末も投稿できるよう頑張ります。





 私たちの周りで悶えうずくまっていた蔦達は少女の傍に戻り、地面に吸収されるようにその体積を減らした。

数本だけが威嚇するように地面を打つ。

彼女自身もフラフラと立ち上がり、メメリを僅かながらに睨みつけた。


「『白き断頭台』『黒薔薇の祝福』『赤札』『青流』『黄に染まりし乙女――』


「ま、待ってください。」


 陣の上にイケニエがある限り魔術は使用可能なのだろう。

急ぎ魔術を発動させようと陣名を読み始めたジャスルを、少女――いや、きっと彼女がジルという名前なのだろう――が止める。


「…黙りなさい!今儀式を執り行わなければっ、」


「魔力が、足りないのです。あの、少年に吸われて…。」


 ばっ、と勢いよくジャスルがこちらを見返る。

その顔にもう余裕はない。


「吸われたなら吸い返せばよいでしょう!」


「そ、それが…。」


 もはや滑稽に思えてきた。

ついさっきまで私が崖っぷちまで追い詰められていたというのに。

メメリのおかげだな。

足を向けて眠れない。


 ジャスルは私が“魔力を吸った”という事に違和感を得ることもなく、気づくこともなく、ただただ喚き散らしている。

まぁ、すでに普通の人間ではないと思われているからだろうが。

そうそういない人材なのだから生け捕りにしようと思われてもおかしくないんだがね。


 ちなみに、だが。

魔力を吸ったついでとばかりにジルの蔦には“魔力抑制”の魔術陣を直接付与した。

通常の魔術陣は術者本人の魔力を必要とするものだが、彼女の蔦は彼女に与えられた魔石が魔力源であり、道具に付与するための魔術陣を蔦にすり込めばその魔石の魔力を使い発動し続ける。

彼女は現在、魔術具そのものと言っても過言ではないのだ。


 さて、天才の私はその上を行くよ。


 彼女には蔦の制御を難しくし、魔力を吸い取れなくする“魔力抑制”の魔術陣とともに、もう一つの陣をプレゼントした。

私が今さっき、瞬間でくみ上げた新作である。


「な、なんで空気中の魔力さえ吸えないの…。」


 “魔力抑制”だけでは魔力の排出を乱すだけの効果しかない。

それでは彼女が魔力を吸収することを妨げることはできないのだ。

あの蔦は彼女が魔石にため込んだ魔力の分だけ体積を増やすはず。

魔力が原動力である魔法の現象なのだから。

つまり、魔力を吸収させないようにしなければ、あの蔦はいつまでたっても消えないし、邪魔になる。

“魔力抑制”で動かしづらかろうとね。


 そこで、私がこの僅かな間に組み立てたのが“容量限定(仮)”だ。

また落ち着いてからかっこいい名前を付けてあげるから今は(仮)で我慢してくれ。

 この魔術陣はジルの魔石に蓄積できる魔力の量を制限するものだ。

彼女は一定量以上の魔力を吸収することはできないし、排出することも難しい。

身体の調子を整える魔力の流れが乱されているのだからダルささえ感じていることだろう。

 この魔術陣を人用の魔術具にでも付与しようものなら、その人は魔力の圧迫で破裂して死ぬだろう。

容量をどの程度に設定するかにも寄るが。


「さて、大人しくお縄についてもらおうか。邪神教徒のジャスル君?」


 いつでも動けるように、右手を彼に向けて脅しをかける。

まぁ、簡単に言うことを聞いてくれるとは思っていないけれど。


「くっ…なんですかぁこの展開はぁ。予想外にもぉほどがありますよねぇ。」


 悔しそうに、恨めしそうに歪んだ顔が後ずさりする。

隙を伺っているようだがそんなものは――


「――っ‼」


「ジャスルさま‼お逃げ下さい!」


 声に振り返るとガルの母、ジオが仰向けの息子の胸と、キョウの喉元に錆びたナイフを突きつけている。

震えた手は妙な力が入ってしまったのか、ガルの胸を抉る様にわずかに沈んだ。

革の胸当ての下から赤いものが滲む。

同じくキョウの首にも線が浮いた。


「…ふん。」


 ジャスルは馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、村の外へかけていく。

魔法を使っているようですぐに門を抜けた。

その背に魔術を打ち込んでしまえば早いものだが、加減も分かっていないだろう素人が人質を取ってしまっているのは痛い。


 仕方なくさて、と振り返ってみると。


「…な、なによ…手…放しなさいよ…。」


 ガルが自らの母の手を握っていた。

ゴツく、大きな手のひらが華奢な彼女のそれを包み込む。

いつの間に起きていたんだか。


「……。」


 真顔で、ピクリとも動かないガルと、手を外そう ともがく母親。

閉じた目に水分が浮かび、玉になる前に彼は瞼を開いた。


 私には、彼が何をつぶやいたのかは分からない。

母国語なのだろう。

ただ、眼が、大方を物語っていた。


「…っ!いい加減放しなさい!」


 ジオが勢いづけて手を振ると、その手は簡単に外れた。

そしてその勢いを殺せずに倒れこむ彼女の首を、ガルは――。


 数秒だった。


「クソガキ…俺は、早まったか…?」


「いいや、彼女はもう手遅れだっただろうね。よくやった、とは言わないけど、まぁ、よく決断したよ。」


 既にこと切れた彼女はダランと地面にうつ伏す。

美人だったけども、もったいないな。

 ガルは起き上がって複雑気な顔で見下ろした。

もはや私がかけられる言葉は無い。


「…さて。キョウ、ジャスルを追うぞ。きっと島を出るはずだからね。」


 振り返ると、キョウは仰向けに倒れたまま空をじっと見つめていた。

顔色は既に上々だ。


「…なぁ、リシル。」


「なんだい。」


「…すごく、首とか背中とか痛いんだけど、俺、かなり荒い扱いされてた?」


「魔法で治したまえ。」


 空気がやけに緩んでしまったではないか。

全く、緊張感のない男だね。


 そんなことを言ってる暇はない。

キョウを確認することもなくジャスルが出てった村の門の方へと走る。

ガルは…もう大丈夫だろう。

ちらりと見たジルは茫然と立ちすくんでおり、何か事を起こす余力もなく見える。

既に、この場に危機はないのだ。


「うん、足短いなぁ、少年よ。」


 …すぐにキョウが追い付き、並走してきた。

 あぁ、どうしてこんなに彼は私の癇に障ることばかり言えるのだろうね。

癇に障りすぎて、イイコトを思いついてしまったではないか。


「ちょっ、リシルさん!?」


 ゆっくりと私の隣を走る彼の背中に飛び乗った。

よじよじと登っておんぶの状態だ。


よし。


「リーリウェル式破壊陣初級『絶炎砲』」


 空気中にジルから吸い取った魔力を溢れさせ、そこに魔術陣を浮かべる。

標的ターゲットはジャスルが逃げていっただろう方向。

私が考えた破壊系魔術陣の、初級。

つまり威力としてはレベルの低い魔術のはずなのだが…。



チュォォォォォォォォォォォォッォォォッォォォォ――



「…リシルさん?」


 顔を照らす白い光が熱くて焼けそうだ。


「…はっはっは。ジャスルも…跡形もなくなってしまったかな…はは。」



 私の現在の体長ほどの魔術陣が魔力で描かれたかと思うと、その大きさの光が前方へ一直線に零れ…幅約30m、奥行き推測不能な範囲が更地と化してしまった。

キョウの頭越しに見える景色に絶句する。


「キョウ、キョウ、あれは幻影かな。海が見える…。」


「あはは、大丈夫、俺も見えてるから…多分…俺も目ぇおかしくなったのかな。はは。」


 今更、本当に今更なのだが。

“リーリウェル式”と銘打った魔術のシリーズは、表に出せない殲滅級の魔術だった。

初級だからそこまで酷い結果にはならないだろうと高を括った私の失態だ。

あんなに子供たちに『やばいやつ、本当にやばいやつだからもう開発しないでほしいくらいなんだけど』と文句を言われていたのにな。


 目を凝らすと、ボロボロになりながらもなんとか生き残り、這う這うの体でそれでも先を急ぐジャスルの姿が見えた。

どうやら魔法である程度緩和したようだ。

良かった…。

チリも残らなければ何の情報も引き出せない。

目指せ優しい拷問。


 更地になって見晴らしがよくなったとはいえ、ジャスルとの間にはかなりの距離がある。

彼はすぐに魔法で回復したのか軽く走り出したしね。

…あぁ、急いで追いかけなければいけないのだよ。

これは仕方がない。


「キョウ、君ならできる。」


「え、え、何!?そんな熱血男みたいなこと言い出して‼」


「『夕暮れの風雲』」


 私の背に集中した魔力が魔術陣を描く。

その上部がわずかに後ろへ倒れ魔術が発動し――


――勢いよく噴き出た風が私とキョウを空中へ弾き飛ばした。








ブックマーク17件ありがとうございます。

なんか黄色い四角押すとブックマークになるんですよお願いします。

あとポイント評価、っていうのがありましてね?((


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