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おじさまは冷や汗をかきました。

すみません、Wi-Fiのないところに行っていましたもので。


文字数を稼ぐためにグダグダしてしまいました。




 私たちは蔦に運ばれるまま。

気づけば屋敷を出て村の真ん中、広場らしき場所に並べられていた。

丸く、煌々を揺らぐ松明が周辺を照らしている。


小屋一つほどの広さに、何やら細い蔦で魔術陣が描かれていた。

そしてその上に四人とともに乱雑に放り投げられる。


…なんだこの魔術陣。

私が見たことのないものが混ざっている。

重なっているのは、多分7つ。

かなり高位の魔術陣ということになる。

六つは分かった。

『白き断頭台』『黒薔薇の祝福』『赤札』『青流』『黄に染まりし乙女の紬』『紫を裂く劣情』。

すべて、素陣の中でも位が高いものだ。


 なにより、この陣の違和感の中心は。


「白、黒、赤、青、黄、紫…。全系統と組み合わせるだと…?」


 魔術陣は基本、一つ、最高でも三つの色系統で構成される。

それ以上は難しいのだ。

なにせ、魔術陣は三対三の“対”という関係が基礎にある。

“解放”の白、“拘束”の黒、“攻撃”の赤、“鎮静”の青、“自然”の黄、“魔”の紫。

白は黒と、赤は青と、黄は紫と、というような対の関係を基に、発動と解除が成り立つ。

それを無視した魔術陣は成立しない。

一つ一つの素陣の相性もあるから絶対とは言わないが、その確率はかなり低い。

私でさえ対の系統で作った魔術陣は三つほどだ。

それが、全系統。

無理に決まっている、と言いたいところだが。


 私の見たことのない素陣が一つ、全ての素陣を包括している。

下手に組み合わされた魔術陣は見た目も汚いものだが、これは綺麗に納まっている。

つまり、成功し得るものであるということだ。

なにより、ジャスルが失敗する魔術陣をわざわざ準備するとは思えない。


 冷や汗が流れた。


 全く、予想がつかないのだ。

ただ分かるのは、この魔術陣に使われている素陣――私が分かるもの――は、すべてあまりよろしくない素陣である、ということだ。

抽象的すぎるかもしれないが、そうとしかいえない。


 『白き断頭台』は死による解放を指すものであり、『黒薔薇の祝福』は死した魂を現世に縛り付けるという意味を持つ。

他のものもそういった、倫理的でない意味を持つ素陣だ。

あまり、一般的な魔術陣に使われるものではない。


 そんな素陣が六つ。

 そして対の系統構造。


 目覚めぬ四人にちらりと目をやり、脱出法を冷えた頭で何通りも考える。

が、そう簡単にうまくいく方法など見当たらなかった。


 運よく何かが起きて私が魔力を手に入れられたとして、蔦に捉えられてしまうと…いや、自分自身に魔力制御の陣を打つか。

しかしそうすると魔術は使えない。


いや、というか“これ”の正確な解決策というのはなんだ?


 私がここからどう脱出するか、ではなく。

ジャスルを殺すのか、彼がやろうとしていることを止めるのか。

何をやろうとしているのかは分かったものじゃないが。


そう、だな。

彼がこの村を制圧した理由はなんだ?

ガルの妹を“魔物”のようにしたのが彼の目的なのか。

それとも、目的の一部なのか。


 あ。


『悲願への第一歩が完成する。』、と彼は言っていなかったか?


 魔物化の研究、成功は“悲願”に至るための過程にすぎない。

いや、今私たちがここに並べられていることも同じか。


 この魔術陣に私たち――である必要はないな。多分、人であればよい――を乗せ、発動させると“悲願への第一歩”となる。


 そうか、なるほど。



 蔦、ガルの妹もこの魔術陣に不可欠なのか。


 彼女は島中の魔力を集め、ため込んでいる。

そして、この魔術陣の発動にはその“集めた魔力”を使うのだ。

六つ重ねた魔術陣は確かに魔力を多く必要とするが、こんな島丸ごとの魔力を必要とするほどじゃない。

この、私も見たことがない素陣があることで、何かが変わる。


 島丸ごとの魔力…か。


 それが必要とされる魔術陣、しかもイケニエ有り、が発動して、どんなおぞましい結果が待っているのだろうね。

これは、どうしたものか。



「どーですぅ?この魔術陣。綺麗でしょぉ~。」


 ジャスルが屋敷から出てきた。

私たちを囲むように陣の周りにいた村人数人は、彼を見ると崩れるように跪いた。

そして、そのまま地面に倒れる。

村人はピクリともしない。

この場で意識があるのは私とジャスルだけになった。


「そうだね、ここまで複雑な魔術陣はそうそう見たことがないね。」


 私は腕を巻き込んでぐるぐる巻きにされた体に力を入れて、上体を起こした。

この体は細く筋肉など見当たらないが、幼子らしい、柔軟性がそれを補う。

全く、こんな状況で考えるようなことではない気がするが、前世の身体に比べてこの身体、素晴らしい。

なんでもできそうだ。


 だからこそ、この危機をどうにか切り抜けたいものなのだけど。


「この魔術陣はですねぇ、私たちしかぁ知らない、特別なものなのですよぉ?」


 “私たち”?

今まで、ジャスルに関与しているだろう人間はいない。

村人たちは既に陥落しているものとするからね。

だとすると。

これは、この島だけで済む話では無くなってくるのかもしれない。


「特にこの素陣。他の六つは各系統の素陣だが、これだけは見たことがないし、系統さえ思いつかない。興味惹かれるね。」


「おぉ!方法は分かりませんでしたけどぉ、先ほども魔術を使ってましたものねぇ。魔術にぃ明るい人だとはぁ思いましたがぁ、そこまで詳しいとはぁ!」


 私が細い蔦をなぞるようにして素陣を示すと、彼は嬉しそうに嗤った。

胡散臭さは消えやしない。


「これはぁ、どの系統にも所属しないのですよぉ?なんせ、『始祖の遺跡』を作ったルプシス族に敵対する一族が開発した素陣ですから。」


「…!?な、んと…」


 なんということだ。


 ルプシス族といえば数百もの素陣を開発し、『始祖の遺跡』に遺した古代の一族である。遺跡からは一族の名前と素陣しか発見されていないので、魔術研究者はもちろん考古学者たちの中でも古代のロマンと名高い一族だ。

『始祖の遺跡』はオースアイレン国の北東、どこの国の領土でもない岩山の谷間にある。

岩壁に紛れるようにある巨大な、町のような遺跡。

実際街だったのではとも言われているが、それにしては生活用品らしきものが見当たらない。不思議な遺跡である。


もちろん、魔術陣研究の重要資料の塊なので、大陸条約でどの国も侵略・所有できない決まりになっているが。


まさか、彼らに敵対する一族があったとも、その一族が他の魔術陣を開発していたとも思わなかった。

存在の欠片さえ知りもしなかった。

大陸は広く、魔物が闊歩するために未だ人が入ることもできない領域もある。

だからこそ、新たに古代に関する遺跡が発見されたときにはかなりの話題になるのだ。

しかし、まったく聞いたことのない、ルプシス族に敵対する一族。

そして素陣。


「まぁ~?彼らの遺跡は『始祖の遺跡』ほど完璧に遺ってはぁいないのですがぁね?素陣の数も、完全版のぉ…半分くらいといわれていますねぇ。だからこうしてぇ、敵対するルプシス族の陣を借りることにぃなってしまいましたがぁ。ふふっ。」


 彼は地面の陣に近づいてくると、ルプシス族の素陣の一番手前の陣を描く蔦を踏んだ。

ぐり、と踏みにじる様に。

彼の薄ら歪んだ顔を見るに、“彼ら”にしても屈辱的なことだったのだろう。


しかし…これはどうしたものか。

彼の熱も上がってきたかのように思える。

時間稼ぎももうじき終わる。


 ジャスルは懐から何かをだした。


「…それ、は?」


「なに、ちょっとした素材ですよぉ、この魔術陣を完成させるための。実はぁ、彼らの魔術には“生贄”が必須なのですぅ。…知ってましたよねぇ、今からその身で体験することですしぃ。ふふ。その分ー、効果はルプシスのよりぃ、すごいんですよぉ?」


 草臥れた手のひら大の麻袋から出されたのは――かさついた茶色い髪の毛のようなものが二本。

彼が指先で摘まみ上げ、プラプラと揺らす。

一体何なのか、想像もし難いが…。



「これはぁ、君たちよりも数ぅぅ倍大事なぁイケニエです。全くぅ、この僅かな髪の毛ぇ二本手に入れるだけでもぉ、かなーりのお金と労力を無駄にしましたよぉ。ふふふ、まぁ、いいのです。これでぇ、私たちの悲願への第一歩が達成させるのです!これさえあればもう、悲願全体が達成されたかのようなものですがぁ!」


 ジャスルの高笑いが広場に響く。

その声に合わせ松明が揺れていた。


「冥土の土産?に、それが何か教えてもらってもいいかね?」


 まだ、死ぬ気はないんだがね。


「あー、これですかぁ?別に秘密じゃぁないんでいーですよぉ?ふふ。

これはー――





オースアイレン国の魔術研究の天才、リーリウェル・シェルウェルの髪の毛です。」





 


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