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おじさまは追い詰められました。

分かりやすくするためにあらすじとタイトルをいじりました。

(アクセス伸ばすには大事らしいと聞いて)

 




 私が先ほど発動した魔術結界、『眠り姫の黒き茨』は“魔力制限”と“物理防御”の効果を併せ持つ魔術だ。

 “物理防御”はその名の通り。

“魔力制御”も、まぁ名前の通りなのだが。

物理防御としてできた結界を覆う形で魔力制御が発動し、一切の魔力に関わる影響を受けない結界を作ることができる。

だから魔力を吸う蔦に攻撃されても結界が消えることはなかったのだ。

もちろん、魔術だから一度発動し一定の魔力供給さえあれば、長時間同質の結界を維持できる。

ただ、これは素陣5つを重ねたかなり高位の魔術陣であり、維持にはものすごい魔力を必要とする。

おかげで魔石2個とキョウから拝借した魔力がほとんどパーだ。


「魔力を吸う…?じゃあ、あれが今回の元凶か。」


 キョウがじっ、と見極めるように蔦を見つめると、話し声が聞こえたのかジャスルの眼が蔦からこちらに向いた。


「へぇへぇへぇ、もぅそこまで気が付いたんですかぁ!ふふふ、そぉですねぇ?“この子”は魔力をご飯にしているんですよぉ!ちょっと堪え性が無いんですけどぉ、ね?」


 蔦が舐め上げるようにジャスルの頬を掠る。

まるで慕うかのように。

 気づくと玄関ホールは私たちがいるところを除いて、蔦に溢れかえっていた。

ちら、と後ろを見ると、重そうな扉には細かい蔦が絡みつき、開きそうにもない。

視界の端に震えながら抱き合う兄妹が見えた。


「おやおや、君とその蔦は仲が良いみたいだね。君は魔力を吸われないのかい?」


 あの蔦は生き物だけでなく空気中の魔力さえ吸っているようだ。

よく吸えるなあんなまずい魔力。

そんな見境ないというのに、僅かでさえ彼の魔力を吸う様子はない。


「この子はぁ、私がだぁーい好きですからねぇ。私が言い聞かせればぁ、なぁんでもいう事を聞いてくれるのですよぉー!」


 なるほど。


 とりあえず、あの蔦は意思のある生命体である、ということだ。

そしてつまり、その中心となる“脳”、もしくは“核”に当たるものがどこかに存在するはず。

今私の視界一杯にあるのは蔦だけではあるが。


「ならば、その蔦と私も話してみたいものだ。仲良くなれるかもしれない。」


「え、リシルまじで言ってんの?」


「キョウ、黙れるね?」


「…はい。」


 話せるかどうかは分からないが、狙うは核だ。

核を潰せばこの蔦は動かなくなり、魔力の吸収もしなくなるだろう。


 あれ、違和感があるな。


「残念ですがぁ、ね、この子は私のことだけを愛して、尽くしてくれているのだから、君にナビくことは無いのですよ、ねぇ。ほんと、残念ながらぁ。」


 蔦が、威嚇するかのように絨毯をバシリ、と打った。

鈍く、重い音がした。

当たったら痛いんだろうな、あれ。

物理的にも、魔力的にも。


「…キョウ。」


「う?もう喋っていーの?」


「燃やせ。」


「え、だってあれ魔力吸い取るんだろ?魔法じゃ無理じゃね?」


「そのとぉーり。聞こえてますよぉ、しょーねんたちぃ。魔法は無駄でーす。剣ならいけるかもしれませんけどぉ、剣を持ってるのはそこのガラクタ一人でしょぉ?」


 私たちの小声での作戦会議に、わざわざ口を挟んできた。

ガラクタ呼ばわりされたガルがジャスルを睨むが、すまない。否定できない。

現にガルの手は震えて、握りこんだ剣が今にもずり落ちそうだ。


 まぁ、解決策はあるんだ。


「私を信じろ。やりようはある。」


「えぇー…。まぁ、どうにも他に手はないけどさぁ。」


「ふふふふふ、楽しみですねぇ。どうやって切り抜けるおつもりなのかぁ。」


 ぐい、とキョウの手を握りこんで魔力を吸う。

これから頑張るのは彼だからね、余裕を感じられるくらいには残しておいてあげよう。


 波打つ蔦が私たちを迎え撃つようだ。



「キョウ、いいぞ。」


「『業火よ踊れ!』」


 キョウがやけくそのように、私の知らない言葉で魔法を放った。

彼の魔力が一気に空気中を支配し、燃え、その端から蔦に吸い込まれていくが――


「『黒き墓標』‼」


 彼の魔力に這わせるように、私も魔力を空気中に流し、彼のに魔術陣を付与する。


はっきり言おう。


 私は天才か。


 まぁ、といってもこの世界初の魔術が発動できるのは、私が使った魔力が、元々彼の物であるという大前提が必要だったのだが。

親和性、大事。


 『黒き墓標』は『眠り姫の黒き茨』にも含まれる、魔力制御の効果がある。

つまり、結界に付与したように、一切の魔力の干渉を受けない魔法が完成したのだ。

私が魔力供給を止めたら、多分蔦に吸い込まれてしまうが。

もうほとんどの魔力が残っていないが、私には生命維持のための魔力は必要ないのだから、空っぽになるまでつぎ込むことができる。

…そう長くは持たないな。


 さて、蔦が吸い込むことのできなくなった燃え盛る炎は、驚き混乱し、のたうち回る蔦を焼いていく。

さすが植物、まだ生きていようと火の広がりはまぁまぁ早い。


驚いた顔のジャスルは一転、楽しそうな顔で手を叩いた。


「なんですかそれぇ‼素晴らしいですねぇ‼私の知らない現象が起きていますよーぉ‼」


 全く危機を感じていないような彼の顔に不穏な空気を感じる。

違和感しかないそれに身構えた瞬間、彼が手を徐に前に突き出した。


「水で満たしましょう。」


 キョウの魔力を飲み込むように膨大な魔力がジャスルの手のひらから溢れ、水へと変わり、キョウの炎を消していく。

魔力の量では負けていないが、やはり火と水では相性が悪いな。

キョウが「くっ」と声を漏らすのに対し、蔦は気持ちよさそうに、生き生きとうねりこちらへ襲い掛かってくる。


「リシル、結界――ぅおわっ‼」


「キョウっ!悪い、魔力が…。」


 私が拝借した魔力はすでに僅かでさえ無くなってしまった。

そして、とうとう完全に消火されてしまったがために、蔦がキョウを絡めとり、ガルを、兄妹を、私を拘束する。


「うぅっ…くそ…。」


「くっ…魔力が…。」


 四人とも魔力を吸い取られてしまっているらしい。

顔を青白く、紙のようにしながら、その身体から力を失っていく。

私からも吸い取ろうとしているのだろうけど、何も吸い取ることができず首を傾げるかのように先っぽをくねらせた。


 え、と言う間もなく彼らは気絶してしまい、とうとう玄関ホールを完全に埋め尽くした蔦の中で、やけに元気な私だけが異様だ。

彼にとっても予想外だったのか、面白そうに眼を見開き、細めた後、なにやら蔦に命を下した。

 蔦は四人を拘束したままその部分だけを切り離したようで、彼らは拘束されたまま絨毯に下ろされ、出荷待ちの家畜のように並べられる。

 どうやら魔力を吸われたものの、死なないギリギリのようだ。

彼らの荒い息がその場に響いている。

なんだか、平然としている自分が申し訳なくなってくるな。




「…さて?私たちをどうするつもりなのかな。」


 小さな私は蔦に空中に浮いてしまっているから、足元が不安で思わず足を揺らしてしまう。

なかなか、ピンチだ。

蔦から魔力を奪えるかと思ったが、やはり魔物。

少しは吸えるが、やはり不味くて難しい。

その上すぐに取り返される。

いたちごっこだ。


「んー、ほんとはぁ、このまま魔力を吸いきって殺すんですけどぉ、ね。君、死にそーにもないですしぃ、なにより、ちょーどいいんです。」


「ちょーど?」


「ちょーど。君たちで、完成ぇするのです。私たちのぉ悲願への第一歩が。」


 ジャスルは意味ありげにニヤリと笑うと、また、蔦にクイ、と手で指示をだした。

以心伝心?それとも何か蔦に意思を伝える手段があるのか。


 蔦は私や四人を持ち上げると、そのまま玄関ホールを出てすぐの扉から地下牢に運んだ。

まるで洞窟にあった牢屋のような部屋にポイ、と投げられ、地面に身体を打ち付けた。

痛い。

子供の身体は繊細なのだぞ、丁寧に扱え。

まぁ、全員同じように投げられ、無意識下でも呻いてしまっているのだけれど。


 ふむ、切り離されているからと言って全くの別物になっているわけではないようだ。

拘束している蔦も私たちから魔力を吸い取る力を持っているようで、キョウも回復する先から吸い取られてしまっている。

牢屋の中でも蔦が至る所に絡みついており、その蔦に魔力が流れているようだ。

こんな状態では私がキョウから拝借するわけにはいかない。

本当にギリギリなのだ。

この今維持されている量以下に魔力が減ったら、空気中にある有害な魔力に侵されて命が脅かされる。

他の三人も同じく。



 かなり、万事休すと言えるのだが――いや。


 一つだけ、希望がある。






 

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