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おじさまは見限りました。




「え……はぁ…?お、おい…、どういうことだよ‼ま、魔物⁉

ふっざけんなクソガキ‼だってついこないだまで‼普通に人として…‼」



 私の言葉に取り乱したガルは、やはり私の肩を掴もうとしてきたが…今度は軽々と避ける。

そう何度も揺すられてたまるものか。


「落ち着き給え。魔物そのものになったわけではないだろう。ただ、魔力の感じからすると、魔物もどき、と言える。」


「わかんねぇよ、もどきってなんだよ……!」


 まぁ、普通の人間には分からない感覚だろうな。

 私はキョウの魔力を取り込んでから、その他の人の魔力も注意して感じ取るようにした。

個人差があるのか、触らずとも吸い取れるのか、空気中に流れ出てくる魔力だけで判断できる情報は。


そして、人の魔力と魔物の魔力に違いはあるのか。


 オークやゴブリンの肉に、魔力に触れて、感じ取れるものすべてを読み取った。

やはり、魔物の種類、個体差あるものの、人とは根本的に違う“風味”があった。

言葉では言い表せない…まるで水の味の違いを探すようなものである。

しかし、私が“人の魔力”を吸い取ることに長けているからか、魔物の魔力は少し濁った水のように感じた。

清らかな水と濁った水。

これが私の中での人間と魔物の魔力の違いである。

さらに言えば、空気中にもとより含まれる自然の魔力は人のものより苦い。

かなり、苦い。

空気中の魔力を吸い取れれば最強じゃないかと思ったが、吐き出したくなるほど苦いので無理だ。

しかも吸い取った魔力をどうにか排出しても、苦みは身体に残ってしまう。

体中が舌になったように、体中に苦みを感じるのだ。

耐えられない。


 さて、味を知ってしまえば早かった。


 この島に溢れる魔力は、村に近づくほど濁り、泥臭くなる。

魔物の味だ。

そして、あの村の門番も、魔物の味が漂っていた。

その中に微かに人の魔力があった。

本当に微かにではあったが。


つまり、私の考えた仮説にすぎないのだが――


「全員、乗っ取られている、と考えるのが妥当ではないかね?君は、違和感はあったものの村人らを直接的に疑おうとはしなかった。魔物がゼロから人のフリをするのは無理があるが、人の身体を乗っ取って、その記憶さえ手中に収めてしまったのなら…唯一正気の君をだますくらい容易いことだろう?」


「乗っ取る…だと…?」


 具体的な原因はさすがにまだ分からない。

だが、自分でもなかなか的を射た推測であり、これからの鍵となるものだと思うぞ。


「そんなことできるのか?村人全員…いや、多分この島の村全部堕ちてるんだろうけどさ。」


 未だ顎を摘まんだままのキョウも、冷静に推測を続ける。

うむ、思ったよりかは使えそうだな。


「堕ちている…ね、いい表現だ。さて、それができるかどうかは分からないが、既に実際に確認できている、島中の魔力を一か所に吸い寄せるなんてことは今まで聞いたことのない事態だ。この島で起きている他の事件もすべて、未聞な上にあり得ないと思ってしまうようなものである可能性が高い。」


 私たちが既存の概念に囚われていたのでは、事件を把握し、理解することはできない。

ヒントになるものなどとうに出尽くした。

もう村に入るか、島を出るかしか選択肢はないと言える。


 と、今まで空気だった、奴隷の兄妹が何か不安そうに言葉を発した。

う、うむ?ずっと私の後ろにいたぞ?

なぜそんな驚いた顔をするのだキョウ。


ガルが聞き取り、そういえばと言いながらこちらを睨む。


「平民のやつらは大丈夫なのか、とよ。確かに、あいつらはもう…。お前らなら止められたんじゃねぇのかよ。」


「止めようとしたけれど間に合わなかったんだよ。それに、言葉の通じない私たちよりも、君の方が適任だったんじゃないかい?」


「…それは…とにかく‼てめぇなら力づくでもどうにかなったろ‼手ぇ抜いたろ‼」


「君も今助けてもらおうとしているくせにその言い草とは…遺憾だね。大体、君が今感じている怒りはただの罪悪感だろう。自分が取り乱して、村に入りたくなくて私が立ち止まったのをいいことに一緒に座り込んだのだから。まぁ、私たちにとってもいい情報を得たのだからいいのだが。」


「…チっ、うるせぇな。質問に答えろよ!」


「ふぅ…、君は弱い所を突かれるとすぐに取り乱すね。

まぁいい。そうだね、先に言っておこう。大口叩いて言えることじゃあないが、私たちにもできることとできないことがある。

私が村の怪しさに気づいたころには彼らは門番に見つかってしまっていた。私たちまで見つかるわけにはいかなかったのだから、もう、どうしようもないだろう?」


 さて、これも全部訳したまえよ。


「私自身も、生きてここを出られるか危ういところなのだ。戦闘能力はもちろん、魔力さえも少ない彼らがこの島を抜け出せるかは元より難しかった。この島が普通の島であったのなら話は別だったが、盗賊からしておかしな気配はしていたし、今となっては確実に危険な状況にある。はっきりと言ってしまうと、彼らをあの時引き留めることができたとしても彼らは足手まといにしかならない上に、なった上で全滅したはずだ。君の話を聞いて猶更そう思ったよ。

今、彼らがどうなっているかは分からないが、もし無事でいたとしたら助け出すくらいの気持ちでいた方がいいだろうね。

なにより事実、彼らは列を乱して自己中心的な考えで村へ自ら入っていった。私に止める術はなかったよ。


――私は慈善活動をしているわけではないのだ。

彼らが私の家族でもない限り自分の命を懸けてまで助けることは無い。」


 私が真剣な顔でそう、言い切ったのを、キョウもまた真顔で聞いていた。

ガルは不服そうにしながら地面を拳で殴り、静かに兄妹に訳し始めた。


キョウもまた、傭兵としてそのあたりは理解しているのだろう。

他人のために命を投げ出せるような聖人はここにはいないのだ。

…村に入って“彼らだったもの”がいたら、確かに私は後悔するし罪悪感に苛まれるとはおもうけれど。


魔力が少なく、魔法も魔術も使えないというのは、こういった危険溢れる場所では捨てられて当然となってしまう。

――家族でもない限り。

魔力もなく、魔法や魔術陣なんて使えるはずもない私を、様々な危機から助けてくれたのは可愛い“子供たち”だった。

守られ、逃げることしかできない私を、いつも命がけで救ってくれた。


 命は大切だということを、私は誰よりも理解しているつもりだ。

たとえ私が、自分で自分の命を投げ出した人間だったとしても。


 今、少年少女が怖い思いをし、助けを求めているのかもしれない。

まだまだ若い、未来ある命が消えかかっているのかもしれない。

既に手遅れかもしれない。

私とて、悲しく、悔しく思うし残念に思う。


だとしても。


「私は私の命が一番大切なんだ。私の大事な家族が守ってくれた命を、二度と(・・・)無駄にしはしない。そのためには、ある程度のものは諦めなくてはならないんだよ?」


「てめぇ…クソガキ…。」


 ガルは何か言いたげに唸ったが、何も言えずにまた俯いた。


 彼らを、助けたいと思ってしまったのだろう。

そして、自分ではどうにもできないという事も察してしまった。


私だって、悪魔ではない。

ついこの間まで公爵として民の命を最優先に――それこそ自分よりも優先して――考えてきた人間だ。

孤児院も作ったし、放浪者の救済も多く行った。

だが、その枷はすでに外されてしまったのだ。


 生きる。


これが今の私の最優先事項だ。


「まぁ、足手まといとか色々は良く分かったけど、別に他に情報とか得ようもないんだから、もう急いで村に突撃してもいいと思うんだけどそこらへんどー?あと、だとしたらその奴隷たち連れてるのは矛盾してねぇ?って思うんだけど。まぁ、置いとくのもあれだけどさ。」


 丁度いいと思ったのか、キョウの質問が継いだ。提案のつもりもあっただろう。

といっても大した裏があるわけでもなく、気になったから聞いてみた、というものだが。


「そう、だね。そろそろ動き出そうか。最低限の情報は得たし、確かにこれ以上はどうしようもない。あとは突撃するだけだね。心の準備もできた。

…ん?魔力を吸い寄せている“何か”だぞ?怖いじゃないか。元々魔力の無い私はそれに関して特に気にしてはいけない気もするが…。


で、この兄妹、か。別に大した理由ではないね。可愛いとは確かに思ったが。普通に、突き放すタイミングがどこにもなかったからだよ。何も言わずについてきてるし。列を乱すことなく、勝手に行動することなく、ね。

もし村に入ってこの二人に何かあったとしても、私は何も……うん、多分、何もしないよ。」


「多分が入りましたね。あと長い間が。」


「魔が差したんだ。」


「うまくないからなソレ。」


 ジト目を向けられて、思わず目を反らした。

別に、悪いことは言っていないだろう?

私は少し呆れているのだからね?あの平民の子らに。

列をなしている訳も考えずに、村があると知るや否や勝手に走り出したのだから。

それで自ら敵陣に招待されようと、もはや救いようがないとも思うのだけどね。

…まぁ、若い子らだ。

思慮の深さを求めるには教育体制から批判しなければならないな。


「じゃ、じゃあ!もう突撃すんぞ!今ならまだ間に合うかも知れねぇし!」


 ガルが名案、とばかりに立ち上がる。

ほんと、それは正義感でもなんでもなく、ただの罪悪感なのだろうけどね。


しかし。


「残念。突撃する必要はなくなったようだね。」


 私が後ろの魔石に触れ解除の魔術陣を浮かべると、魔力の壁は一気に霧散し消えた。


「やぁ、お使いかい?」


「いえいえ、島に帰ってきた家族を、迎えにきただけでございます。」




 既に、私たちの周りは、村人(仮)に囲まれていた。






主人公は冷たいわけではなく、しっかり悔しく思っています。

ただ生き延びることだけを考えた時に『切り捨て』が最善策になってしまっただけです。

基本的にはお人よしを目指します。

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