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新世紀オカルト部  作者: 吉良 瞳
1章 オカルトと考古学は紙一重
8/21

7話 渡りに漁船

ブックマーク&評価有難う御座います。少し間が空きましたが、7話です。

 

「あ〜〜、くそだるい。眠い。」


「眉間に皺が出来てるよー?しののん。」


 あの体験入部から明けて翌日。酷く体が気怠く、午前の授業が終わった途端上半身を机に投げ出した。隣の席のマツリが身を乗り出して、私の眉間をごりごりと指で押してくる。


「そりゃあ皺も出来るだろ、あんだけ期待させといて収穫無しだったんだからな…というか、昨日は不快な思いさせて悪かったな」


「ううん、私もトダ君も全然気にしてないよ。体験入部、期待してたんだ?」


 あんなに嫌そうな顔をして教室を出て行ったのに、とでも言いたげな表情だ。私は思わず皺をもう一本追加させてしまった。


「…ひょっとしたらって気持ちになったのは確かだ。認めたくないけどな。流石にあれだけの情熱を向けられたら、期待せずを得ないというか。」


「ふぅん、でも、結局期待外れだったと」


「そういう事。あんだよ、全く…」


 あの後、言うまでもないと思うが船を作ろうという空気にはならなかった。せめて廃病院の玄関口に置かれたダイビングベルを潮風の当たらない扉の奥に仕舞おうとしたが、私達の力で運び出す事すら出来なかった。女四、五人で持ち上がるという話であったが、ナンジョウが「ワタクシ、箸より重い物は持ちませんの」と発言した為に一気に場の空気が最悪と化した。尤も苛立ちが頂点に達し彼女に殴りかかった私が悪いのだが…。


「まあ、そんなこんなで考古学部に入部するのは無しだ。船造り?ハッ、一人でやらせておけよ」


「…え、シノ、入部しないの…?」


 やさぐれていると、隣の席でお弁当を広げ始めていたサリが酷く悲しそうな顔をしていた。元々の垂れ目を更に下げ、頼りなさげに唇が引き結ばれる。…サリと付き合いの長い私には分かる。彼女が泣き出す一歩手前だ。


「…だ、だって結局考古学部なのに考古学してないし出来ないじゃないか。あんなの、サリだってつまらないだろ?」


「サーリプッタ…」


「水龍か…」


 彼女の心を掴んだのは古の英知や浪漫よりも水龍だった様である。確かに、あの水龍は美しかった。しかし、しかしだ。


「水龍に会いたけりゃあ会えばいい。何も入部しないと会えないわけじゃないだろ。もうヨーコ先輩に頼めば…」


「…ミツルギ、それは都合良過ぎると思うぞ…」


 そこへ、凡その話を聞いていたらしいトーマが口を挟む。「一生懸命入部して貰う為に持て成したのに一つの失敗、手違いで断られた。断った癖に、水龍を呼び出す道具として呼び付けてくる。なんて薄情で不義理な後輩なんだー!」…声色を変えて恨み言を連ねられ、ぐうの音も出ない。


「…って、女子の会話を盗み聞きするなよ」


「聞こえてきたんだから仕方ないだろ。それに、3年の先輩が言ってたぜ。体験入部まで漕ぎ着けたのに断られたって嘆いてたってな」


「ヨーコ先輩、可哀想…」


 ねっ、シノ!と目で訴えかけるサリ。私はこの目に弱い。…弱い…が、実りのない部活動をする余裕があるのなら鍛錬に励みたい。


「そ、そう言われてもな。せめて、ヨーコ先輩が船を用意するか、何らかの目処が立てば考えないでも無いが…」


「船?」


 ううんと唸り乍ら現在の妥協点を示す。サリは眉を潜ませ、考え込む様に顎に手を当てている。今は此れで納得して貰う他無い。


「急に如何した?トーマ。」


「よく分かんねーが、船が必要なのか?だったら、ウチの使ってない漁船を貸してやろうか。俺んち漁業やってるからさ」


 サリは地獄に仏とばかりにぱっと顔を輝かせた。まさかのタイミングの良さに私も目を見張る。


「なん、だと…!」


「おう、これで部活出来そうか?」


「出来る…出来るよトダくん!!」


 余程嬉しいのか、トーマの手をがしりと掴んでブンブン、と上下に振る。トーマはトーマできょとんとした面持ちでなされるがままだ。


「そんなに喜んで貰えるなら、俺も嬉しい、が…。お前、そんなスキンシップ出来たんだな…」


「ひぇっ!?…あ、ご、ごめんなさいっ!」


「い、いや良いけどよ…」


 トーマの指摘に、サリは顔をかーっと赤くさせてぱっと手を離した。学ランの余った袖をぱたぱたと振っては慌てている。私もこんな積極的なサリを見たのは初めてだ。彼女にとって、この環境は良い刺激になっているようだ。…認めたくは無いが、考古学部の件についてもだ。


「トダ君は考古学部に船を貸し出すだけで、入部しないのー?」


 マツリは何を考えているのか、にやにやと口元を緩め楽しそうだ。しかし、今の発言は私も気になるところだ。トーマが入部してくれるのならば、男手があってとても助かる。


「そうだなぁ。俺、剣道部に入ろうと思ってっからな。あと、兼部でムエタイ部もやらないかって誘われててよ。まあ、偶に助っ人としてなら構わないが、入部はなぁ」


 …脳筋一直線。剣にムエタイの足技も加わったらとても強そうだ、と想像する。私も本来ならそうしたい所だが、考古学部がきちんと成り立って、このライフルの事が何か分かるなら、考古学部も悪く無いかと考えを改めている。それが無理ならば、私も射撃部やボクシング…格闘技系の部活を探したい。もし無ければサリの興味の示す所について行ってもいい。


「そうか。まあ、船を貸して貰えるだけ有難い。ヨーコ先輩に会ったら、伝えておくから頼む。」


「りょーかい。ミツルギ、それでお前は一先ず考古学部に入部する方向なのか?」


「…それは…もう少し、体験入部の続きをしてみて考えるつもりだ」


「シノっ!」


「わっ!?」


 サリが上機嫌で私に抱き付く。…スキンシップの多い日だな、今日は。

 よっぽど、私が入部に前向きな姿勢を見せた事が嬉しいらしい。私にすりすりとくっつくサリは子犬の様で、つい頭を撫でたくなる。丁度良い位置に頭があるのが悪い、という事にしておく。


「えへへ…安心したらお腹すいてきちゃった。みんなでお弁当食べよ?」


「ああ。確かに腹は減ったな」


「しののん、お腹空いた、でしょ!」


「お母さんか」


 午後の、何気無い昼下がり。

 考古学部の活動の目処が立った所で、机を合わせて昼食に入る。

 この事を知らぬは、当の考古学部部長本人のみであった。




 ***




「ねえ、私の許可無く喋るのやめてくれません?お陰で私、周りから何て言われてるか知ってる?知らない訳、無いよね?」


「喋る前に喋って良いですかー?ってお伺い立てれば良いのかよォ!ゲハハ!それよりもよ、あの姉ちゃんのライフル、臭うぜ。凄く臭う!」


「くっさー!くさくさッ!」


「…そんな事言ってたね。何なんなの?あれ。」


「俺様も知らねえ!!」


「俺も!!」


「俺もだ」


「…脳味噌の無いあんたらに聞いたのが間違いだった。…当の本人も分からない様だし、少しずつ探ってみるよ。だから、何かあっても勝手に喋らないでね」


「結局それかよ!」


「口の煩い女だ」


「ヒャヒャ」


 学校の、とある教室。一人の女性と、複数の話し声。

 ーーしかし、その部屋に人影は一つ。


 耳障りな笑い声が、空気を振動させては消えていった。

8/13 マツリの座席が間違っていたので訂正しました。

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