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新世紀オカルト部  作者: 吉良 瞳
1章 オカルトと考古学は紙一重
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4話 放課後、嵐再び。

 

「ミツルギさん!ミツルギ・シノさん!!サクマ・サリさんもいらっしゃいますかあー!?」


 放課後。過ぎ去った筈の嵐が舞い戻って来た。この騒々しい声の主は、記憶に新しいタツノ・ヨーコの声である。何事かと帰宅の準備をしていた生徒達が教室の入り口に視線を集める。


「あの人って確か…」


「在校生代表で話してた人だよね」


「うちの生徒会長らしいぜ」


「生徒会長ぉお!?!?」


 無視を決め込んでいたが、ヒソヒソ声で話す生徒の声を拾ってしまい、思わずヨーコの方へ振り返った。


「そーです!タツノ高校生徒会長、兼考古学部部長!タツノ・ヨーコです!!以後、お見知りおきを〜」


「その兼考古学部部長ってのが邪魔だな」


 はあ、と思わず溜め息を吐き乍らヨーコの元へ歩み寄る。後ろで見物を決め込んでいるマツリやトーマ達が恨めしい。


「タツノ…?」


 サリが珍しく自分から声を発する。シノもその点は気になっていたので、回答を求めヨーコの顔を見た。


「おっと、サクマさん、よく気が付きましたね。ご推察の通り名字のタツノとはタツノ高校のタツノなのです!私、校長の一人娘なもので。と、それはさておき」


「…すまない、無理だ」


「まだ何も言ってませんよ!?」


「読心術を極めてるんでな」


「まじですか!!!!」


 ショック!!とヨーコは後ろへ蹌踉めく。オーバーリアクションにも程がある先輩である。

 すると、話が進まないまま二人漫才を繰り広げられる光景に嫌気をさしたとある生徒が、廊下から声を上げた。


「ちょっと宜しいかしら、タツノ先輩。ワタクシは、一年生の皆さんと一緒に体験入部をさせて下さると聞いておりましたのに。これでは幾ら時間があっても足りませんわ。ワタクシも暇ではありませんの」


「おっと、そうだったそうだった!」


 声を上げた人物ーー色白で誰もが振り向く美貌を持ち、金色に輝く金髪を縦ロールにした凜とした女子生徒。しかしその空気は近寄り難く感じさせられる。肩に掛かった髪を後ろへと払い乍ら、睨めつけるように周囲を見渡した。


「なんだ、この女」


 友好的でない視線に、つい臨戦態勢に入る。ヨーコはそんなシノの様子を気にした風も無く、紹介を始めた。


「彼女はこの春お家の都合でヒノモト学園から転入して来た2年生、ナンジョウ・アヤメちゃん。友達作り辛そーにしてたから、我が部に誘ってみました!」


「ぶっちゃけ過ぎだろ…」


「ワタクシは、べ、別に友達作り辛そうになんて…。ワタクシのレベルについて行ける人間が居るかどうか、品定めしていただけですわっ」


「ああ…」


 お察しである。今時珍しくもない、没落貴族なのだろう。

 国政を執行するのは貴族や王族達の責務である。貴族の家の家長は政治的な役職を与えられている者が多い。家の長男が家督を引き継ぐと同時に王から役職を賜る。次男以降も議員として議会に出席したり、外交官として駆けずり回ったりする。尤も外交官となると、毎度命の危険にさらされる事になるため不人気ではあるのだがーー。

 ナンジョウ・アヤメの家長か、その兄弟達の誰かが不祥事でも起こしたのだろう。それで貴族達の子弟が通うヒノモト学園からも追放され、平民同然の身分を強いられる事となった。

 一度没落すると、余程の功績を挙げない限りはもう二度と政治に関わる事が出来ない。しかし、それ以外のペナルティは無く再就職さえ出来れば贅沢は出来ずとも生活には困らない水準を保つことが出来る。彼等は平民、国民達よりも上等な教育を受けているため、何処の企業でも優遇される。そんな現状のため、貴族間の不祥事問題の抑制にはあまりなっているとは言えない。この国が抱える問題の一つと言えるだろう。


「なんか、御愁傷様です?」


「何なんですの、急に。貴女に心配される筋合いはありませんわ」


 よく言えば、気高い。悪く言えば………こいつ、無理。

 思わず気を遣う言葉が出てしまったが、可愛くない女である。敬意が裸足で逃げ出すだろう。


「ちょっとちょっと、険悪なムードにならないの!…で、ナンジョウちゃん。彼女が期待の新人部員、ミツルギ・シノちゃん!と、そのお友達のサクマ・サリちゃん。シノちゃんね、なんと旧日本時代の武器を使いこなすスナイパーなのだッ!!!」


 ててーん!と、何かオノマトペでも付きそうな勢いで盛大に紹介してくれるヨーコ。紹介された本人である私は相当不機嫌な顔になっているであろうし、サリに至っては怯えて私の背中に張り付いている。

 予想通りというかなんというか、ナンジョウ何某ははん、と鼻で笑ってくれた。


「スナイパー、ねえ?確かにタネガシマと似た形状をしてますわね。とはいえ、本当に旧日本時代の武器かは疑わしいですわね。」


「…それなら俺も疑ったが、実際とんでもねえ威力をこの目で見たぞ。なあマツリ。」


「ええー。そうですよ。それに現代の技術で作れるものだとも思えませんしー。間違いなく旧日本時代のものだと思います。」


「…何なんですの、貴方達は。」


 遠巻きに様子を伺っていたトーマとマツリが、居ても立っても居られないという様子で会話に参加してきた。ナンジョウは不機嫌を隠そうともせず、眉を顰めた。


「ミツルギのクラスメート、言わなくてもそんくらい分かるだろ。あんただって入学式の発砲騒ぎの話くらい聞いてるだろう」


「…その話はワタクシも存じていますわ。でも、それとこれは別の話。21世紀に作られた武器が、現在でも使用出来るというのは不可解だ、と言っているのです」


「…どういう意味だよ」


「そのライフルには、何か特別な秘密があるのではなくて?ヨーコ先輩のお話だと、お父上が考古学者だったそうですわね。旧日本時代の遺物…尤も、ワタクシ達の住む島がニホンという国があった場所で、其処に眠っていたものだから旧日本時代の物と断定するのは間違っていると思うのですけれど…。まあこの話は良いですわ。その、遺物を再び使い物になる様にさせる何らかの技術が存在すると考える方が現実的。…何かご存知ではないかしら?」


 …薄々、感じてはいた。

 とても21世紀に作られ、地中深くにに眠っていたとは考えられない。ライフルのツヤ感も、手触りも、近年作られた物なのではないかと錯覚してしまうくらいだ。しかし、現在こんなものを作る技術は無い。保存状態が良く、奇跡的に見つかったものなのだと自分に言い聞かせてきた。そうでなければ、どう考えて良いか分からないからだ。


「…知るかよ、そんなもん。それに知ってたらどーなんだっつの」


 再び険悪な空気が立ち込める。不安そうに私の服を握るサリの手が、辛うじて暴力的手段に出そうになる私を引き留めていた。


「ま、まー!それも含めて、我が部で研究していけば良いでは無いですか!私もシノちゃんのライフルにはヒジョーにキョーミがありますからね!って事で、体験入部を始めますよ!さあさあ!」


 こうした空気は苦手なのであろう、ヨーコはぐいぐいと私とナンジョウの背を押して移動させようとした。これ以上の話は無駄だと悟った私は、仕方なくヨーコに従う事にする。…決して、ひょっとしたらこのライフルについて何か知る事が出来るのではないか、と思った訳ではない。


 そんな私達を、トーマとマツリは心配そうに見送ってくれた。明日、登校したら御礼でも言っておこう。


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