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新世紀オカルト部  作者: 吉良 瞳
1章 オカルトと考古学は紙一重
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2話 試し撃ち

 現在日本には、12校の高等学校が存在する。かつて遠い過去には大学という高校の上の学校も存在していたらしいが、現状それだけの知恵を持ち教えられる者は数少なく、また国民にそのゆとりが無い。日々の生活で手一杯で、国民の3分の1は高等学校すら通う事が出来ない。それでも近年9割以上の国民が小学校を卒業出来る様になったのは大きな成果だ。

 主に小学校では文字の読み書き、計算を習う。授業時間は午前中のみで、午後からは自由だ。多くの家庭の子供達は家庭の仕事をやらされる事になっている。

 そして中学校では、小学校でマスターした平仮名と片仮名の他に漢字を学ばされる。計算も少し難しくなるが、中でも特に勉強させられるのは社会だ。今の国が誰の手によってどの様に守られているのか、今年はどれだけの米が穫れ、幾らで売られるのか。小学校ではこの国で生きて行く上で最低限の知識を学び、中学校では世の中の事を教わる機関として役割を担っている。

 では高等学校では何を学ぶのか。

 高校はどの学校も農業科・工業科・商業科・兵士科の四つに分けられている。生徒達はこの四つの中から自分が特に学びたいものを選択し、専門的にその分野を学ぶ事になる。

 言うまでもなく農業科を志望する生徒は実家が農業を営む者、または志す者達だ。卒業生の多くは、地主として自分の土地を耕してくれる小作人を指導したり、食品会社に就職したり、飲食店を経営したり。多岐に渡るが何も人々の「食」を守る第一人者としての将来が約束される。特に食品会社への就職は高卒である事が求めらる。土地持ちは代々家長が継ぐケースが多く、高卒でなければならない決まりは無いが、矢張り高校を卒業しているかしていないかで収穫量などに差がつく。地主が高卒である方が小作人達の信用も得られ、人手の確保もし易いという寸法だ。

 工業科は物作りをメインとした学科だ。職人達がその技術を学ぶ為集まってくる。因みに考古学者や科学者も工業科に相当する。旧日本時代の遺物の研究、その技術の再現や応用で成り立っているこの国にとって物作りと歴史は切り離せない。一番様々な種類の人間がごちゃ混ぜになっている学科といえよう。

 次に商業科では経済や経営学について学ぶ。自分の会社を立ち上げようとする者、または親の店の跡取りといった者達が多くいる。他の学科と結び付きが強い学科であり、在学中に優秀な人材をスカウトする猛者達も少なからず存在する。商売人として大成する為には、此方も高校を卒業する事が必須条件といえよう。

 最後に兵士科。腕に自信のある者は無論の事、何の後ろ盾も、学の無い者が一縷の可能性を信じて来る場所でもある。卒業後は国の治安を守る警察官、貴族や重役を守る用心棒。国が火急の際には最前線に出て戦う騎士団などの就職口がある。高校を卒業せずとも強い者も居るが、他の学科と同じく信用度が違う。○○高校兵士科卒業という肩書きがあれば、その任務を遂行するに足る人物だと認められる。無い者は只の荒くれ者として蔑まれたり、権力のある者達の近くへ行く事は出来ない。要は出世が見込めないのだ。


 そういう訳で、高校に通えるだけの資金がある者達ーー否、全てのの国民が無理をしてでも通いたい所なのである。一部、医者などはこれとは別に学校が存在し中学を卒業して通う者や、高等学校を卒業してから通う者もいる。貴族は貴族の学校があり別のカリキュラムを受けているらしい。


 私は親父が遺してくれたお金のお陰で何とか通う事が出来ている。

 ーーずしりとしたライフルの重みを感じ乍ら、振り当てられた教室へと足を運ぶ。中には既に何人もの新たなクラスメイト達が和気藹々としている風景が広がっていた。


「ねえ、隣いいかな?名前は?」


「君は何学科?俺は農業科なんだけど、」


「アンタも商業?ウチも商業科ねんけど何やええ儲け話は…」


 第一学年は、他学科と混合で授業を行う。他の学科の事も知る事で、中学で習う以上の社会の事を学ぶ事が出来る、という事だ。自分が何に向いているかを知る期間でもある。中には第二学年からの学科ごとのクラス分けで専攻を変更する者もいる。私の場合はーー。


「ねーねー、隣空いてるから、良かったら」


「ん、ああ、有難う。えっと、あんたは…」


「アズマ・マツリ。工業科。貴女は?」


「ミツルギ・シノ。兵士科。こっちはサクマ・サリ」


「…えっーと、女の子…だよね?」


 アズマ・マツリと名乗る、燃える様な赤髪をしたのんびりとした空気の少女の隣の席に私、私の後ろの席にサリが座る。サリは人見知りを発揮させ、無言でただこくりと頷いた。


「そうなんだー。宜しくね、シノちゃん、サリちゃん。私の事はマツリでいいよ」


「“ちゃん”って…呼び捨てでいーよ。私ちゃん付けって苦手でさ」


「じゃ、シノって呼ぶよー」


「おー…マツリね」


 入学式の時間になるまで、私達は自分達の事を話し合った。と言っても、中学では何の部活をしていたのか、彼氏はいるのか、など在り来たりな会話をした。…因みに私に彼氏などいない。マツリの口から彼氏という単語を聞いた途端顔を赤くしたサリを見る限り、彼女も私の知らない間につくっているという事も無いだろう。マツリは長い髪をくるくると指で弄り、照れつつも隣のクラスに幼馴染の恋人が居るのだと話してくれた。


「ところでさ、シノ。その長細い鉄?の物は何?タネガシマとは形違うよねー?それがシノの武器なの?」


 マツリは先程からチラチラと私のライフルに視線を向けており、聞かずにはいられない様子で指摘した。教室に居る生徒の何人かも気になっている様子で耳を傾けているのが分かった。


「これはライフルっていう、旧日本時代の遺物だ。考古学者だった親父のものでさ、仕組みはよく分からねえけどちゃんと使えるんだ、これが。タネガシマよりも威力があんだ」


「へえ、凄いねー!…ん?考古学者、だった…?」


「ウチ、小さい頃に親父が死んでるんだよ」


「そうだったんだ…ごめんね」


「いや、気にしてない。私も親父の事は覚えてないからさ」


「でもお父さんが考古学者なら、工業科は考えなかったのー?」


「私にはそういうのは分からないからさ」


「おい、そいつがタネガシマより強いって本当かよ?」


 マツリにライフルを見せていると、不意に近くに居た男子生徒に話しかけられた。気の強そうな金色の目に真っ青な髪、腰に差した剣。彼もまた、私と同じ兵士科なのだろう。


「本当だ。タネガシマよりも打つ手順も簡単だし、狙い易い。こいつが旧日本時代の物だって話、聞いてなかったのか?」


「いや、聞いてた。だからだ。確かに本当にそれが旧日本時代の武器で使えるのなら、そりゃあタネガシマとは桁違いだろうよ」


「…何が言いたい」


「俄かには信じらんねーって言ってんだよ。旧日本時代の物は殆どその機能を停止させてるって話だぜ。今でも使える物があるなら、もっと噂になってる筈だ。お前みたいなただの学生が持てる筈がねえ」


 …彼の言う事には一理ある。父がどういった経緯でこんな物を見つけたのか、そして私にと遺したのか。その真実は分からないままだ。だが、此処まで言われて黙っている様な性分では、無い。


「だったら、試してみるか?」


 同時に、チャイムが校内に鳴り響く。


 ミツルギ・シノ、兵士科一年生。

 入学式、ボイコット。



 ***



「…シノ、もう体育館行こ?せんせいに、怒られる」


「そーだよー。こいつの言う事なんか間に受ける事無いってー。」


「そんなんじゃない。私が今この瞬間こいつを撃ちたくなった。それだけの話だ」


「…意地っ張り」


 私とサリ、マツリ、トダ・トーマという男子生徒四人は校舎裏まで来ていた。私は虫の居所が悪いのを誤魔化す為ガムをクチャクチャと噛み乍らライフルに弾を装填した。校舎裏はだだっ広く、使われなくなって久しい体育道具が散乱している。普段この場所が使われている様には思えない。人が来ては危ないのでこの場所は好都合だ。


「その弾も、旧日本時代の物なのか?」


「いや、こいつは親父が纏めた研究ノートに書かれていた手順で、私が作ったものだ。当時のものなんか勿体無くて使えるかよ。そもそも火薬も湿気って使えねえだろうし」


「違いない」


 トーマの疑問に、愛想無く答える。彼は気にした様子は無く、きちんと事実を受け止められる性格の様で素直に頷いた。


「取り敢えず、彼処に見えるタイヤを狙う。当たらなくても笑うなよ」


「そもそも女がその銃を使いこなせるとは思ってないから安心しろよ」


「てめえ…」


 人のカンに触る言い方しか出来ないのか、こいつは。こうなったら絶対に命中させてやる、とレバーを起こし狙いをタイヤに定めた。


「…シノ」


「サリ、大丈夫だ」


「………」


 静寂。心を無にする。あのタイヤは敵だ。今は沈黙しているが、私の命を脅かす敵。撃ち漏らせば、直ぐに反撃され襲われる。殺られる前にやれ。殺せ。殺せ。

 意識を研ぎ澄ませ、脇をしっかりと締める。指を引き金に乗せーー


 ズガンッ!!!!


「うぉっ!?!?」


「きゃあっ!?!?」


「……………当たった」


 鼻腔を擽る火薬の匂い。ライフルは確かに、正常に作動した。そして驚く事に、私のお手製の弾は見事にタイヤを貫通させていた。

 …正直、素人仕事の私の弾が悪くてライフルが暴発したり、故障してしまうのではないかという恐れもあった。だが、父の書き残した通りに丁寧に作られた其れは、きちんと獲物を仕留める事が出来た。


「………って、お前も初めて撃ったのかよ!?」


「あ、当たり前だろ!!昔、私も試し射ちを見せて貰っただけで…。今までこいつを使わなきゃならない機会なんてそうそう無かったんだからな!!」


 トーマは呆れ顔で、しかし確かにその顔には笑みが乗っていた。私は満足気に、ニイッと歯を見せて笑いかけた。


「でも、私の勝ちだぞ。トーマ。」


「…勝ちって…勝負なんてしてねえし。だが、そいつが本物で実際に戦場で使えるって事は分かった。女だからって馬鹿にしちまったけど、お前はちゃんと戦える。兵士科で競い合える奴が居て、良かったぜ」


「煩え。気障野郎」


 そうやっていると、遠くから怒鳴り声が聞こえて来た。…そういえば、ライフルを撃った瞬間物凄く大きな音がしてたな。

 これはまずい。


「ず、ずらかるぞ皆!!入学式早々退学は御免だ」


「ばっ、お前、お前の所為じゃねーか!!」


「そんな事言ってる場合じゃ無いよー、早く逃げよー!」


「……」


 私達は、先生達に見つかるより前に素早くその場を後にした。だが、入学式を欠席していたのは私達だけで、後でこってりと御説教を受ける羽目となった。


「ねーねー、しののん。さっきのあの弾、どうやって作ったの?私にも作らせてー?私がもっと凄い弾作ってあげるからさー」


 …マツリだけは懲りた様子も無く、のほほんとした表情でそう宣っていた。

更新ペースはのろまですが、宜しくお願い致します。

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