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新世紀オカルト部  作者: 吉良 瞳
1章 オカルトと考古学は紙一重
12/21

11話 研究対象1:林檎の板

 

 ーー頭部にじんわりと殴られた痛みを感じる。これはたん瘤が出来たな、と思い乍ら考古学部の部室に訪れた。

 …すると夕陽の差す部屋の奥では、ヨーコが頭にキノコを生やして本の海に沈んでいた。私とサリの来訪にのろのろと顔を上げたかと思うと、カッと目を見開いて「き、来て下さったんですかあ!?!?」と悲鳴に近い声色で叫んだ。動いた拍子に山積みの本が雪崩を起こし、部屋に散乱する。ーー先日訪れた際とはえらい違いだ。本の他にも様々な書類が散乱としており、控えめに言って、汚い。


「……大丈夫……?」


「は、はい。なんとか。有難う御座いますサクマさん。…あっと、お手数ですがこのキノコ、抜いて貰えますか?」


 スポンと良い音がして、キノコが抜ける。サリはすんすんとそのキノコの匂いを嗅いでいる…おいやめろ、人体に生える毒々しい色合いのキノコなんて食べられる訳無いだろう。ポイしなさい、ポイ!

 …そうしてサリにキノコを捨てさせている間に、ヨーコはバサバサと紙類をソファの上から退かし、私達が座れるスペースを作ってくれていた。そう長居はするつもりは無いが、紅茶でも持てなさんばかりの彼女の様子を見ていると何だか逆に申し訳なくなって腰を落ち着かせた。


「…いやあ、お見苦しい所を。実は未だ船の目処が立っていなくて…この件が何とかなれば、もう一度皆さんをお迎えに行こうと思って居たんですが、いやはや難しい」


 少し草臥れた様子のヨーコ。部室に散らばる本や書類をよく見ると、それは船に関するものばかりであった。…彼女が本気で、この部活動に向き合っているのが良く分かる。


「実はその件で此処へ来たんだ。朗報だ先輩、知り合いから漁船を貸して貰える事になった。これで、活動出来るんじゃないか?」


「な、何ですってシノさん!!」


 先日伝えられなかった要件を、漸く伝える事が出来た。この驚き様を見ると、もっと早く伝えられたら良かった様に思う。その位彼女は動揺しーーそして満面の笑みを浮かべた。


「漁船なら重い物を乗せる事を前提で設計されて居ますし…ダイビングベルを乗せるスペースさえ取れるなら問題ありません!活動、出来ます!!」


 ヨーコは有難う御座います!シノさんは命の恩人です!!と言って私の手を取った。ぶんぶんと振り回され、腕が少し痛いが我慢する範疇だ。ただ少しばかり居心地が悪いのは、本当は私の功績では無いからだろう。

 あの戦闘狂の優男の顔が脳に過る。彼は私の能力をきちんと見てくれたし、漁船も貸してくれた。今日あんな模擬試合の後、またやろうと言ってくれさえした。良い奴には違いないのだが、如何にも素直に礼が出来ない。デリカシーの無い彼の顔を見ると、つい腹が立ってしまうのだ。…と、今はあいつの事など如何でもいい。


「…後はナンジョウちゃんに如何やって力仕事して貰うか、ですね。三人では流石にダイビングベルを運び出すのは難しいですし。」


「他の部員を探す方が現実的じゃないか?あのお嬢様は生まれてこの方肉体労働なんてした事無さそうだしさ」


「うーん、でもそれは私も散々したんですよ。でもなかなか入部してくれそうな人が居なくて…」


 …問題は、今この場に居ないナンジョウの事だ。発掘調査ともなると、重い物を運び出す場面も多々あるだろう。元貴族だからと言って、何もしないで許される筈は無い。


「新入部員が増えるのはそりゃあ大歓迎ですよ。でも折角考古学部に興味を持ってくれたんだから、彼女には入部してちゃんと活動して欲しいというか…」


 確かに、彼女は考古学に詳しそうな雰囲気があった。関心があるのは間違い無い。


「…ボクは、みんなが楽しそうにしてたら、自分もやってみたくなるんじゃないかなって、思うよ。………ナンジョウさん、怖いけど仲良くなれたらって思うし……」


 サリが、ぼそぼそとした声だが小さく手を挙げて自分の意見を述べる。ヨーコもそうですよねえ、と頷く。


「…もう少し、様子を見てみましょうか。今は発掘調査に出ずとも研究対象が手元にある事ですし」


「…え?如何いう事だ?」


 私の問い掛けに、ヨーコはフッフッフと意味深な笑い声を漏らし、良くぞ聞いてくれましたとばかりに此方を見た。


「ぱんぱかぱーん!見よ!この取り出したるは旧日本時代の遺物!!その名も謎の板〜〜!!!」


 …その名も何も無い。ヨーコの手には、手の平サイズの金属の板があった。


「…なんだ、偶に海辺に落ちてるやつじゃないか」


「そ、そうなんですけどね!!この間第一回の体験入部をして貰った時に、サーリプッタが持って来てくれた物なんです。…寂しかったんですよ、皆さんが帰った後一人で待つのは」


 グズッ、と涙声になるヨーコ。先程まで不敵な笑みを浮かべていたと言うのに、器用な人だ。サリがオロオロしだすが、間違い無く嘘泣きだ。


「あの時は悪かった悪かった。で、それで?」


「シノさん冷たい!!まあ、旧日本時代の遺物にしてはよく見かけられる物ですけど。未だ此れが何か解明されてませんし、私達の初めての研究対象にするのも面白いかなって。他に類を見ない個体数があるにも関わらずその正体は謎だなんて、ワクワクしませんか?」


「そりゃ、この板が何か分かったら世紀の大発見だろうが…」


 ヨーコから受け取って、まじまじと板を見る。板の一番下には丸いボタン?凹みの様なものがあり、側面にも幾つか凹凸がついている。板の裏側ーー此方が表なのかもしれないが、反対側には何故か林檎のマークが描かれていた。


「最初の活動にしては地味かもしれませんが、肉体労働の人員が足りない事ですし。それにこの板なら所持している人も割と居るでしょうし、集めて比較してみるのも良いかもしれません」


「成る程、知的好奇心を擽って働かせようって訳だな」


「策略って程の事でも無いですけど。これしかやる事が無いとも言えますし…。分からないなりに、自分達の結論を出してみませんか」


 以前ならただ集まって議論するだけだなんて…と思ったが、いざ現物を目にすると面白そうに見えるから不思議だ。答えの出ない事について考える行為が、無駄と捉える人も居るだろう。しかしそれではこの国の考古学は進展しなかったし、今の私達では考え付かない何かが、起こるかもしれない。


「良いんじゃないか。やってみよう」


「!本当ですか、シノさん!!」


「ああ、でも、つまらなかったら辞めるからな」


「ええ、ええ!それで結構です!有難う御座います!!俄然、燃えてきました…!!」


 うおおお、と側に居ることすら憚られる程の熱気を彼女から感じる。サリも嬉しそうにしている事だし、もう暫くはこの先輩に付き合ってみよう、と頷いた。




 ***




 先ずは、この板と同様の物を所持している人が居ないか探す事になった。と言っても、用途不明な謎の板を所持している人なんて限られてくる。そう、ヨーコと同類の人間、考古学マニア、骨董オタクくらいのものだろう。居なければ、近隣の海岸を捜索すればもう一つくらいは見つかるかもしれない。

 今後は放課後にコレクター探しと海岸探索をするという事で本日は解散となった。サーリプッタにも手伝って貰おうという話になって、これはなかなかに心強い。

 ナンジョウへは、ヨーコが直接伝えてくれるらしい。私が伝えるよりはマシだろう。


「…良かったね、ヨーコ先輩、元気になって」


「そうだな。あのまま辞めてたら先輩が卒業するまで一年間ずっと恨まれそうな勢いだった」


「シノってば…」


 帰り道、サリはご機嫌そうに話をしてくれた。あの板が一体何なのか彼女も気になるらしく、ああでも無いこうでも無いと呟いている。


「林檎の絵が描いてあったから、果物や野菜を育てる時に使う物だったのかな?でもその使い方がさっぱり…ううん、シノは何だと思う…?」


「さあ…でも他の遺物に比べて遥かに出回ってる物なんだろ。だとしたら、旧日本時代の人達の生活必需品だったとか…。兎に角、日常で欠かせない物だったんだろうな」


 漠然とした回答しか出来ない。生活必需品だとしたら、現在でも代わりになっている物があると考えるのが必然だが…。この板に合致する様な物など思い浮かばない。早々分かる物では無いからこそ、解明されていない訳なのだが。


 そうして話している内に、分かれ道に出る。サリとは此処でお別れだ。また明日、と言葉を交わし自宅へ向かう。また考え事をしている間に盗まれない様、ライフルを担ぎ直す。


「もし、あの板の事で何かほんの少しでも分かったなら。きっとこのライフルの事もーー」


 そう考えるのは早計だろうか。私は背中に確かな重みを感じて、ベルトを握り締めた。

やっと考古学部らしい活動が出来ます。しかし未だ正式に入部していないという。

林檎の板に関しては皆さんよくご存知の事と思います。

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