<怪しいのはお互い様です>
北へ旅を続けて、間もなく木々を抜け、大きな草原へと出ました。先を見晴るかすと、地面はなだらかに起伏し、遠くで低い丘になっています。道は、東西と北に分かれています。
西へ行ってみましょう。
道は先で南北に分かれていましたが、南へ行くと森に戻ってしまうので、北へ進みます。
腰の高さまである草むらを掻き分けながら、獣道を辿ります。やがて、道は北と西に分かれていました。
西へ行ってみましょう。
何やら、犬の鳴き声が近付いてきます。突然、茶色狐が飛び出してきて、私の前を横切り東へと走り去っていきました。犬の声はどんどん近付いてきます。誰か狩りでもしているのでしょうか…?
野犬の集団なら面倒ですが、もし狩人ならゴブリンの情報が聞けるかも知れません。私は、一応剣を抜いてから、犬の集団が近付くのを待ちました。
やがて、四頭の猟犬を先導させた覆面の騎手が、砂埃を上げてやって来ました。ゆったりとしたマントをまとったその人物は、角笛を吹くと犬達を私の目の前で止まらせました。何も喋らず、こちらをじっと見ています。
いきなり襲い掛かってくる訳でもないようですね。お話で片が付くなら、それに超した事はありません。
「こんにちは~…」
私は軽く会釈をして、挨拶してみました。すると、彼も会釈を返してくれましたが、やはり何も喋りません。…大丈夫。この荒れ果てた浮き世では、この程度まだ無礼の内には入りません。鷹揚な態度から見て、もしかしたら身分の高い人なのかも知れませんね。この辺で一番近い街は“石の郷”になりますか。ドワーフには見えませんが、そこの関係者かも知れません。
「実は私、“石の郷”のドワーフの為に、非常に重大な仕事をしている最中でして…」
すると、彼は突然鞍を飛び降りて、ケープを払って握手を求めてきました。右手の指に、大きな金の指輪が見えます。
よぅし、まずは握手と見せ掛けて抜き打ちで斬り付けて、その指ごと指輪を…って、私追い剥ぎですか。取り敢えず、まだそこまでは落ちぶれていません。騙そうとしているのでなければ、荒野でこんな友好的な人に出会えるのは珍しいんですから。
「う、うへへ…」
精一杯の愛想笑いを浮かべて、握手に応じます。彼は覆面を取り、微笑を浮かべました。
「覆面なんてしているから警戒したんだろうが、こいつはただの埃除けさ。泥棒か何かと思ったかい?」
「いやあ…私も剣を抜いてましたし…」
「この森は物騒だからな、お互い様さ。俺は猟師だが、この辺の草原が北の境界線じゃ一番の狩り場なんでね。猪を追っ掛けていたんだが、犬共がどうも途中で狐の匂いと嗅ぎ損なったみたいだな」
「それはご愁傷様でした」
「女だてらに戦士の様だが、この辺は危険な野獣がうようよいるぞ。徒歩じゃあ、日のある内に森を抜けられまい」
「いやあ…まだ“闇の森”に用がありますし…」
「重大な仕事って奴かい? まあ詮索はしないが、“闇の森”で夜を過ごすつもりなら、これが必要になるだろう」
猟師さんは、私の手にベラドンナ草を握らせると、馬に飛び乗りました。
「じゃあな! 良い旅を!」
角笛を吹き鳴らし、彼は犬達と共に駆け去っていきました。しかし、ベラドンナですか…。毒草ですが、ある病気の特効薬としても知られてますね…。嫌な予感しかいたしません。しかしまあ、ありがたく頂戴して、私は西へと旅を再開しました。
装備追加:ベラドンナ草
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、幸運の薬、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、飛び跳ね靴、自動縄、捕縛網、探水棒、大蒜団子、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草
お宝:金貨5枚、銀の箱