<樹の上はこりごりです>
弱り目に祟り目とはこの事です。落ち葉に隠された罠に気付かず、私はロープに足を捕られ、空中に逆さ吊りになりました。
しかも悪い事は重なるもので、引っ張り上げられた拍子に剣が鞘から抜け、地面に落ちてしまいました。つまり、私はこのまま蓑虫宜しく、助けが来るか餓死するまでぶら下がっていなければならない訳です。
「鬱です…」
暫く風に揺られながら世の無常を噛み締めていると、緑色の半ズボンとシャツを着た少年がやって来ました。鶏の骨らしき物をしゃぶっています。こんな森に少年? まあ、今は誰でもいいです。
「あらら、どっかの間抜けがオーガーの罠に引っ掛かってやンの」
オーガーの罠ですか、これ。という事は、あのオーガーが目を覚ましてここへ来れば、もれなく私への復讐が完了してしまうという事ですね…。
「申し訳ありませんが、そこに落ちている私の剣を、手渡してもらえませんでしょうかねえ…」
「やってもいいけど、金貨を五枚くれるかい。あんたの持っている魔法の品物でもいいけどね」
背に腹は代えられませんね。
「これでいいですか」
金貨を五枚落とすと、少年は剣を私の手に握らせてくれました。
少年は走り去り、その間に私はロープを切って地面に落下しました。服の埃を払い、ザックから食糧を取り出すと、さめざめと泣きながら食事を摂りました。
気を取り直して進んでいくと、道の左手の木から、編んだ蔦が地面まで垂れ下がっているのに気付きました。見上げると、枝の間に粗末な木の台が見えます。
ゴブリンが木の上に棲むなんて話は聞いた事がありませんが、一応調べてみるべきでしょう。
木の台まで這い上がると、葉っぱや羊歯で隠された隠れ家になっています。近付くと、覆いがはね除けられて、毛むくじゃらの猿の様な大柄な生き物が、飛び出してきました。毛皮の腰布を纏い、右手には大きな骨を持っています。猿人ですね。私を見て、にやりと嗤いました。
「うふふ…」
私は猿人に嗤い返します。ちょうど良かった。鬱をぶつける相手が欲しかったところです。
…誤算が一つありました。ここは彼のホームグラウンド。木の周りを目まぐるしく飛び交う猿人に斬り付けるのは、なかなか骨が折れそうです。せめて呼吸が楽だったら、まだ何とかなるのですが…。
「しかしまあ、落ち着いて見れば、どうという事もないですね…」
無理に深追いせず、相手が攻めてきた時に落ち着いて斬り返している内に、致命的な隙を晒しました。
「所詮お猿ですね」
私の剣に貫かれて、猿人は悲鳴を上げて地面に落ちていきました。<剣捌きの薬>の効果がまだあったのにも助けられましたね…。猿人の住処は腐った果物や動物の骨が散乱しており、そこら中に虫が這いずり回っていました。下に降りて、猿人の亡骸を検めると、手首に銅の腕輪をしている事に気付きました。
何か魔法の品物かも知れませんね…。呪いの品物でない事を祈りながら、腕輪を填めてみました。
腕輪を填めると、自分でも驚く程の力が涌き上がってきました。これは、<戦上手の腕輪>ですね。これもある上に自分のホームグラウンドだったから、あんな余裕をかましていたのかしらん…?
「まあ、相手が悪うございましたね…」
装備追加:戦上手の腕輪
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、幸運の薬、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、飛び跳ね靴、自動縄、捕縛網、探水棒、大蒜団子、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪
お宝:金貨5枚、銀の箱