<唄ったり濡れたり、たまに八つ裂きにしたり>
道は北へ続き、また分かれ道に差し掛かりました。
北に行ってみましょう。
北へ進んでいると、木々が疎らになってきて、日の光が差し込み始めました。普段は狭くて暗い隅っこの方とかが落ち着く私ですが、こう陰鬱な森を延々歩いていると、日の光に救われる様な気がいたします。すると、道の右側の方に、苔で覆われた樫の椅子が見付かりました。
怪しげな椅子です。良い魔法がかかっている可能性もありますが、食事を摂らなくとも、体調には問題ありません。先を急ぐとしましょう。
木は更に少なくなり、とうとう広大な草原に出ました。“闇の森”の中に、盆地の様に草原地帯がある様ですね。前方で地面がなだらかに盛り上がって、低い丘に繋がっています。道の両側は腰の高さまで草が茂り、暖かい微風に靡いています。まるで、ピクニックにでも来たかの様な陽気です。私もいつになく明るい気分になり、歌など口ずさみながら散策しておりました。
「ゲッ♪ ゲッ♪ ゲゲゲのゲー♪」
すると、道の右手から、何やらキーキー、ブーブーと獣の鳴き声が近付いて来ます。剣を抜いた私の前に、叢を掻き分けて、茶色の豚の様な動物が飛び出して参りました。野豚の君…猪ですね。頭を地面に擦り付け、どうも私に襲い掛かってくる様です。
はてさて、この野豚の君は、何故私にわざわざ襲い掛かってきたのでしょうか…? …遠くの方で、犬の吠え声がいたします。なるほど、狩り出されて、追い詰められていたのですね。彼の鼻には、金で出来た鼻輪が着けられています。
「…誰かの、飼い猪?」
そんな事、あるのかしらん…? 何故だか洒落っ気のある獣が多いのに気分を害した私は、金貨十枚の値打ちはありそうなそれを没収して、先を急ぐ事にいたしました。
お宝追加:金の鼻輪(金貨10枚)
暫く行くと、見覚えのある十字路に出ました。
ここは…! 西に行けば、辛い失恋を味わわされたフレディ様の元に続く筈です。傷心癒えぬ私には、とてもまだお顔を拝する気にはなれません。影からその筋肉をじっとり視姦したい気はいたしますが、そんな時間はありません。さりとて、東へ行っても既に探索した道を辿るばかりです。このまま直進する事にいたしましょう。
叢の丈がだんだんと短くなっていき、低い丘を登っていきます。次第に、前方で水の流れる音が大きくなってきました。やがて、道は川の畔に辿り着きました。川は東から西に流れ、目の前で滝となって流れ落ちています。そこから川は谷間の急流となって、狭まりながら西方へと流れていきます。向こう岸にも道は続いていて、北へと延びているのが見えますが、どうやって渡ったものですかね…? 見ると、滝の傍に滝壺へと続く階段がありますが、何処まで続いているのかは、水飛沫でよく見えません。また、右手の流れが穏やかな所に、木のボートが一艘舫ってあります。
「ボート…お船遊び…」
嗚呼、脳裏に、ボートを力強く漕ぐフレディ様に撓垂れ掛かる私の幻が浮かびます。
「ろまんちっくぅ~…」
ふらふらとボートの方に誘い込まれたとしても、無理からぬ事でしょう。
鼻歌を鼻ずさみながら、舫を解き、夢見心地に漕ぎ始めます。ところが、川の半分も行かない内に、私の夢浪漫は破られる事となりました。
「冷たい…?」
ボートの底に、どんどん水が溜まっていきます。よく見ると、ボートはあちこち腐り切っていて、程なく完全に沈み、私は荷物を引っ掴んで向こう岸まで泳ぐ羽目と相成りました。
「…」
身体はずぶ濡れ、心も濡れ鼠です…。ついでに、食糧も水に濡れて、全部駄目になってしまいました…。
「…」
とぼとぼと歩いていると、私の心に同調する様に、日も暮れてきました。道の右側の岩陰を塒に定め、焚き火を起こして剣を抱き、蹲ります。
「船を漕いでも、恋でなし…うふふ、うふふふふぐぅう…」
私はめそめそ泣き濡れながら、眠りに就きました。
一時間程した頃でしょうか。唸る様な大きな音で、私は目を覚ましました。
「…」
剣を掴んで立ち上がると、満月の光の中、軽い足音と低い唸り声の混ざった、荒い鼻息が聞こえてきます。そして、右手から人影が姿を現しました。人間の様ですが、全身を毛に覆われ、口から長い歯が突き出しています。狼男は私を見て、唸り声を上げ、次の瞬間黙りました。…どうしましたか? そんなに私の顔が、恐ろしいですか?
私は狼男を八つ裂きにすると、少しだけ安らかな気持ちで眠りに就きました。
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、自動縄、捕縛網、探水棒、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草、妖精の粉、業物の剣、ドラゴンの歯、力の回復薬、手裏剣、巧みの籠手、集中力のバンダナ、毒消し
お宝:金貨14枚、銀の箱、黄金の耳飾り(金貨5枚)×二、金の鼻輪(金貨10枚)




