<今だ変身、茸とゴブリン>
曲がりくねった道を歩いていると、道の右側の丸太の上に、茶色で疣だらけの皮膚の、がっしりした怪物が座っているのに出くわしました。彼は、革紐に吊された黒光りする棒を両手でぶらぶらさせながら、陰気な表情を浮かべています。おお、もしや、あれこそ私の探し求めている、ゴブリンの一人ではないでしょうか…?
そして、彼が持っている棒こそ、“戦鎚”の柄なのではないでしょうか…!? …って、もう柄は持ってます。という事は、彼が弄んでいるのは、全然関係ないただの黒い棒という事です。
「…フヒヒ」
黒い棒を弄ぶというフレーズに、良からぬ妄想が頭を掠めましたが、さて、どういたしましょうか…? 棒は関係ないとしても、同じゴブリンなら、何か仲間の情報を持っているかもしれません。そして、ゴブリンが、話をして素直に吐くとも思えません。どこかの本にありました。「戦士とは、まず殴ってみてから話を聞く人種です」と。そして私は、哀しい哉戦士なのです。まさに、哀・戦士。剣を抜き、勇猛果敢に襲い掛かる事にいたしましょう。
「哀! 震える哀♪ それは、別れ、う、た…?」
戦唄を歌いながら、最初の一撃を加えようとしたところ、ゴブリンの姿形が変わり始めました。背が高くなり、体色が緑に変わり、背中から大きな棘のある尻尾が生え、腕も太くなって鋭い爪が伸び…顔も、真っ赤な眼と鋭い歯の並んだ、爬虫類めいたものに変わります。唖然として見ている私の前で、ゴブリンは怪獣に変わってしまいました。
「あらまあ」
思わずおばちゃんの様な声を上げつつも、襲い掛かってきた変身怪獣の爪を軽く受け、斬り返します。
「ガァァ!?」
「ガァァじゃないです」
そこからは、ほぼワンサイドゲームでした。変身怪獣が私の攻撃を防げたのは一度だけ。並の戦士なら手強い相手でしょうが、私にかかれば多少面倒というだけの事です。呼吸さえ万全なら、防ぐ事も許さなかった事でしょう。私の剣に斬り刻まれた変身怪獣は、地面に頽れました。
「やれやれ、どっこいしょ」
とはいえ、久しぶりに歯応えのある相手ではありました。私は丸太に若々しく優雅に腰を下ろすと、一休みする事にいたしました。件の黒い棒は、変身怪獣の作り出した幻だった様ですね。影も形も見当たりません。変身怪獣は、獲物の考えている事を読み取って、その求める姿に変わるのでしょうか。ふと丸太の後ろを見ると、紫色の暈の茸が生えているのに気が付きました。…黒い棒の次は、紫の茸ですか…。何ですか、嫉妬と妬みの女神が、私の欲求不満を嘲笑ってでもいるのでしょうか?
「…そんなに、飢えてないもん」
誰言うともなく言い訳をして、茸を無視して北への旅を続ける事にしました。美味しそうな茸程、毒茸だといいますしね。
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、自動縄、捕縛網、探水棒、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草、妖精の粉、業物の剣、ドラゴンの歯、力の回復薬、手裏剣、巧みの籠手、集中力のバンダナ、毒消し
お宝:金貨14枚、銀の箱、黄金の耳飾り(金貨5枚)×二




