<情けは人の為になりません>
再び、昼尚暗い“闇の森”へと入り込んでいきます。見覚えのある巨木の前で、道は東西に分かれています。
以前は確か、東へ向かったんでしたっけ。では、今度は西へ向かってみましょう。
狭くて草が密生した道が、深い森の中を曲がりくねって続いています。奇妙な動物達の声が、木々の間に谺しています。やがて、分かれ道に出ました。
まずは森の西端から、虱潰しにまだ行っていない場所を探していきましょう。
道は突然北に折れ、その先には密生した叢が待ち受けています。
突然、道の左手から助けを求める悲鳴が聞こえてきました。
突然というのが引っ掛かりますねえ…。本当に助けを求めているなら、何故もっと早い段階から、声が聞こえなかったのでしょう? 如何にも、誰か近付いてくるのに気付いてから、声を上げた様にも思えます。まあ、危険な森ですから、闇雲に叫ぶより人が近付いてくるのを確認してから助けを求める事にしたとも考えられますが…。まあ、見るだけは見てみてから、助けるかどうか決めましょうか…。
老木のうねった根を踏み越えて、悲鳴のした方へ向かいますと、二,三分程で兎の罠に足を挟まれた、黒い長ローブの男性を見付けました。彼はローブで顔まで覆っていて、焦げ茶色の眼だけが見えています。
…ひょろいですね。興味半減です。
「こんな所で、何をなさっているんですかぁ~…?」
剣の鞘で挟まれた足をつつきながら、彼に訊いてみます。
「痛えっ! 足をつつくな! 見たら解るだろう、うっかり誰かの仕掛けた兎罠に嵌っちまったんだ。助けてくれ!」
「助けたら、何か私にしてくださるんですかぁ~…?」
「痛えって! だから、足をつつくなっ! 助けてくれたら、充分に礼はする! だから頼むよ、助けてくれ!」
「…」
「いってえ! 無言でつつくなぁっ!」
どうも胡散臭い気がしますねえ…。顔を隠した善人にはもう会いました。顔を隠した胡散臭い人が、両方とも善人。そんな可能性は、この業界では殆どありません。ひょろいですし。
「あっ、おい、何処へ行く!? 助けてくれ! 見捨てるのか、この人でなし!」
「…」
「いででででえっ!!」
踵を返して挟まれた足を鞘でぐりぐりしてから、私は北への道に戻る事にしました。…ええ、どうせ人でなしの、バンシー女ですよ~だ。
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、自動縄、捕縛網、探水棒、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草、妖精の粉、業物の剣、ドラゴンの歯、力の回復薬、手裏剣、巧みの籠手、集中力のバンダナ、毒消し
お宝:金貨14枚、銀の箱、黄金の耳飾り(金貨5枚)×二