<振り出しに戻ります>
道は野原を抜け、綺麗な川に架かった石の橋まで続いています。橋の向こうには、小さな屋敷と木造の小屋が幾つか見えます。橋の傍らの道標には、「石の郷」と刻まれています。橋を渡ると、白い髭を蓄えたドワーフが二人、屋敷の傍から私をじっと見ていました。
残念ながら、まだ“戦鎚”の頭の部分が見付かっていません。私は、じろじろと眺めるドワーフの視線から目を逸らし、こそこそと通り過ぎました。ううっ、やめて、そんな目で私を見ないで…っ。どうせこのゴミとか屑とかトンデモデレデノテッチョーブクロとか思っているんでしょう…!? …さて、どうしましょう…? もう諦めて、東の方で疲れを癒せる場所でも探しましょうか…? でも、折角柄の部分は見付けておいてこのまま諦めるのも、業腹ですね…。私は、“闇の森”の森を迂回して塔に戻り、アモルツァイ氏から魔法を買い足す事にいたしました。
長い迂回路の途上、武装した山男共の大集団と遭遇してしまいました。“石の郷”に攻め込む途次の、トロール達でしょうか…? 勿論、一人でどうにかできる人数ではありません。彼等は私を認めると、矢を番え始めました。私は森の方へと走りながら、急いで幸運の薬の口を開け、一気に飲み干しました。森に逃げ込むまでに、弓矢の一斉射は免れられないでしょう。射殺されるか否かは、全くの運です。ここで飲まねば、宝の持ち腐れというもの…!
幸運の薬の御陰か、矢は総て私を逸れて地面に突き刺さり、無事森の中に逃げ込む事ができました。さて、今一度探索のやり直しです。
それから更に一日半かけて、私はアモルツァイ氏の塔まで戻って参りました。再び真鍮の鐘を鳴らすと、例の如く扉の小窓が開き、二つの目が覗きました。
「誰だ…何だ、またお前さんか」
「助けてくださぁい、助けてくださぁい」
私は、哀れな声をひしり上げて、魔法使いに助力を願いました。
「解った解った、取り敢えず泣くのはやめて中に入れ、怖いから」
階段を上がっていく無防備な背中に、一瞬剣を抜き付けたい様な気が…いやいや、だから、殺人鬼じゃないんですから。それは、今までの行状を見ていただければ、理解していただける筈………過去は過去です。資金はそれなりにありますし、大人しく魔法使いから魔法を買いましょう。
「で、一体全体どうしたというのだね? “石の郷”には行かなかったのか? “戦鎚”は?」
再び塔の天辺の部屋に通された私は、彼に涙なしには語れぬこれまでの経緯を話しました。
「…なるほど。柄の部分だけは見付けたのか。ふむ、確かに…。まあ、“闇の森”は広い。一通り探して見付けられなかったとしても、無理はなかろう。柄の部分を見付けられただけでも、良くやったと言うべきだろう。…だから、そう泣きなさんな。部屋にバンシーが迷い込んだみたいで辛気臭いから」
まあ酷い。
「魔法の品が必要なら、また売ってやろう。ほれ、値段表」
「疲れ果てた私を哀れに思って、一通りタダで譲ってはいただけませんかねぇ…?」
「強突張りな事言いなさんな。森を一通り廻って、お前さんにも大体何が必要かは見当は付いただろう…?」
そう言うと、アモルツァイ氏は金縁眼鏡の奥の小さな眼で、私を覗き込みました。まあ、確かに…。これからの道行きを考えて、まだ持っていなくて必要そうな物は限られています。
「じゃあ、これと、これと…」
装備追加:集中力のバンダナ、毒消し
「まあ、そう気を落とさん事だ。目的の半分は達成したんだから、もう一踏ん張りだぞ。だがまあ、なるべく急いでやってくれ。お前さんの話だと、トロールの軍勢が“石の郷”に攻め込むのも、そう遠い話じゃなさそうだ」
「はあ、まあ、なるべくやってみます~…」
本当は屋根のある所で一眠りさせていただきたいところでしたが、彼の口振りだとそんな暇はなさそうです。私はふかふかのベッドを欲する身体に鞭打って、よろよろと塔を降りました。
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、自動縄、捕縛網、探水棒、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草、妖精の粉、業物の剣、ドラゴンの歯、力の回復薬、手裏剣、巧みの籠手、集中力のバンダナ、毒消し
お宝:金貨14枚、銀の箱、黄金の耳飾り(金貨5枚)×二