<カサンドラ最大の危機!? 女盗賊と“闇の森”四天王>
隘路を北に進んでいると、前方で小枝を踏む音と、低い囁き声が聞こえてきました。剣を抜き、樫の木を背に身構えると、向かいの木の背後から、四人の男を引き連れた、緑色の上着の女性が出て来ました。それぞれ手に斧と剣を持ち、お世辞にも友好的な表情とは言えません。頭領らしき若い女性が進み出て、脅迫してきました。
「お前は、あたしらの領地に無断で侵入した。通行料に、持っている物を五つ差し出しな。さもないと、どんな結果になるか判らないよ」
なるほど、判り易く盗賊の様ですねえ。
…男友達が四人もいる癖に、まだ何か欲しいんですか…? 屹度見る人が見たならば、今の私の背後には、嫉妬と妬みの女神の小宇宙が立ち上っていた事でしょう。
「うふ…うふふふ…うふふふふふ…」
「…姐御、何だかこの女、気味が悪いですぜ…?」
「笑って誤魔化そうったって、そうはいかないよ。通行料を払うのか払わないのか、どうなんだい!?」
「おら、このアマ! 姐御の言う事に応えねえか!」
何て仲が良さそうなんでしょう。私の殺意は、今クライマックスです。
「ひひひひひひひひ!」
私は剣を引っ提げ、妬ましい女に向かって走り出しました。あまりの感情の昂ぶりに、口の端から涎が滴ります。あら、はしたない。
「うわあっ、何だこの女!? 凄く怖い!」
「びびるんじゃないよ! 侵入者には死を!」
腰の退けている男達の前に進み出て、女盗賊が剣を抜きました。そうです。まず、貴女に地獄に行ってもらわなければ。
女盗賊の集中力はなかなかのものでしたが、私の妄執には及びません。狂った様に攻め立てる私の剣に気圧され、次第に太刀筋に怯えが見えてきました。
「何だ、この女!? あたしに何か恨みでもあるってのかい!?」
「ひひひ、私より幸せそうな女は、総て私の敵なのですよ!」
「うわあっ、何だこいつ、話にならない!」
「お隙に、御免あそばせ♪」
遂に、私の正義の剣が、女盗賊の胸を貫きました。
「ううっ、世の女性の為に、こいつには負けちゃいけなかった気がする…」
倒れ伏した女盗賊。その上に幽鬼の様にゆらりと立つ私の勇姿を見て、手下の盗賊達に戦慄が走ります。
「あ、姐御が、何の抵抗もできずに…!?」
「あの女化け物だよ! 屹度地獄とかその辺から来たんだよう!」
「びびるんじゃねえ! 二人一組で掛かるんだ。俺達の絆で、姐御の仇を討ってみせるんだよ!」
「そうだ、諦めたらそこで試合終了だ! 最後の一人になっても、諦めるな!」
「みんな、往くぞ!」
「応!」
「ひひひ、貴男達の絆とやらがどれ程のものか、見せていただきましょうかぁ…? すぐに姐御さんとやらの後を追う事になると思いますがねぇ…」
「ほざくな! 貫け! 盗賊彗星剣!」
「えい♪」
「何だこの髪の先から頭の先までバラバラになる様な衝撃はーっ!?」
禿げるという事でしょうか。
「受けろ! “闇の森”の小川をも逆流させる盗賊最大の秘儀! その名も! ろ」
「長い」
「アヒンサー!?」
不殺生戒? 殺しますけど。
「み、みんな…! 後は恃む…!」
「俺達の屍を越えて往け…!」
「おやおやぁ…? 貴男達の絆とやらの力は、この程度なんですかぁ~…?」
「畜生! 俺達では、奴には勝てないのか…!?」
「たとえ勝てなくても、戦わなければならない時がある…! 最期の瞬間まで諦めるんじゃねえ!」
「そうだったな、相棒! 往くぜ、“闇の森”の一の太刀!」
「ええい面倒です。こうなれば、このカサンドラ最大の奥義で片を付けてあげましょう。必殺…」
省略。
「「殺られたーっ!!」」
「ふひひひひ! 所詮絆の力などこんなもの! 貴男達に足りないのは、圧倒的な筋肉の量です!」
って、独りでやっていても、虚しくなってきましたね…。えーと皆様。本編の主人公、正義の美少女剣士、カサンドラでございます。思わず、躁になり過ぎてしまいましたが、一応戦利品の金貨二枚をせしめた後、盗賊達は仲良く埋めてやる事にいたしました。
お宝追加:金貨2枚
「…友達欲しいな…」
独り虚しく呟くと、北への旅を再開します。やがて木が疎らになり、人の手の入った耕地に変わってきました。“闇の森”を抜けた様です。
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、幸運の薬、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、自動縄、捕縛網、探水棒、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草、妖精の粉、業物の剣、ドラゴンの歯、力の回復薬、手裏剣、巧みの籠手
お宝:金貨24枚、銀の箱、黄金の耳飾り(金貨5枚)×二