<和名ウデナシトビトカゲの巣でございます>
曲がりくねった道は、急に西へと曲がりました。そろそろ“石の郷”も近そうです。突然、周囲の木々で、鳥達が騒ぎ始めました。大きな羽ばたきの音に見上げると、三羽の鳥が、私に向かって急降下して来るではありませんか。嘴と爪が、刃物の刃の様に鋭そうです。これは、恐らくルブナートさんの鷲を襲った、大鷹でしょうね。取り敢えず、身を守る為に剣を抜きます。
逃げなければならない様な相手ではございません。一斉に襲ってくる様でもありませんし、全部打ち落としてしまいましょう。
ぶっちゃけ、足を滑らそうと余所見をしていようと、負ける様な相手ではございませんでした。総て叩き落とすと、一羽の足に銀色のリボンが結び付けてあるのに気付きました。何か書いてあります。
「…『死が君を待ち受ける』…ねえ…」
誰の差し金か知りませんが、回りくどい脅迫もあったものです。もし忠告だとしても、メッセンジャーの選択には気を遣っていただきたいものです。気にせずに、先を急ぎます。
分かれ道にぶつかりました。“大足”さんの地図と見比べますと、これ以上西に進むと、“石の郷”から外れてしまう様です。西への隘路は無視して、北へ向かいます。
北への道を進んでいくと、小さな開墾地に出ました。右手に小枝と草が束ねてあり、襤褸布や、どうも大型の怪物の住処らしきものも見受けられます。残骸や古びた骨が散らばる中に、何か光る物が有る様です。
例によって、調べない訳にもいかないでしょう。何となく、ここには無い様な気もしますが、多少の危険は剣の腕でどうにかなります。怪物の住処に近付くと、突然黒い影が私の上に覆い被さってきました。大きな唸り声と共に、二本足の竜の様な怪物が、どうもご自分の巣にご帰還のご様子です。そして、侵入者たるところの私目掛けて、口から稲妻の様に炎を吹き掛けてきました。
運良く炎は逸れ、私の足下で燃え上がりました。
怪物は、私の眼前に降り立ちました。ワイバーン、ですね。凡そ体長十メートル、口から炎を吐いて、私を威嚇しています。固そうな鱗は、剣で貫けるものかどうか判りません。さて、ちょっと巣を調べて、“戦鎚”の頭含む金目の物有りっ丈を頂きたいだけなのですが、お話が通じる相手でもなさそうですね…。
ふと、ザックの中から、私を呼んでいる様な気がいたします。誘われるままにザックから、いつかホブゴブリンからせしめた、真鍮のフルートを取り出します。今にも襲い掛かってきそうなワイバーンの前で、どうしてもこれを吹かなければならないという、奇妙な強迫観念に囚われてしまいました。…何でしょう、あまりに思うに任せない浮き世に、私の繊細な心は倦み疲れ果ててしまったのでしょうか? 操られる様にフルートを吹き始めると、ソフトで優しい音色が流れ、ワイバーンの顔が悪戯っぽい表情に変わります。爬虫類の顔が、どの様に悪戯っぽく変わるのか、とても言葉で表現はできませんが、とにかく変わりました。やがて炎を吹いていた口が閉じ、瞼が重そうに落ちてきます。どうやら、伝説にある「竜の子守歌」を奏でている様ですね。魔法のフルートだった様です。何でも強奪しておくものですね。私が吹き続けると、ワイバーンは暫くして蹲り、眠り込んでしまいました。
ワイバーンが目を覚まさない内に、その住処の周りを調べてみましょう。発見できた物は、鉄板で出来た籠手と手裏剣、金貨十枚と金の指輪です。金貨と手裏剣には問題がなさそうなので、ザックにしまいます。問題は、直接身につける籠手と指輪ですね…。
冒険家たる者、潔くあるべし。危険かどうか判らない物には、身に着けるか置いていくかの二択しかありません。この業界の鉄則です。…個人的には、取り敢えず持って帰って売り捌くのも手だとは思いますが、ここは先人の知恵に従っておきましょう。でも、果たしてこれ、知恵でしょうかね…。私の研ぎ澄まされた勘が、籠手の方は安全そうだと告げています。まず、籠手を填めてみる事にいたしましょう。
籠手を着けて剣を振ってみると、いつもよりずっと振りの冴えが増した気がします。どうやら今着けているのは、魔法の巧みの籠手の様ですね。
装備追加:手裏剣、巧みの籠手
お宝追加:金貨10枚
これと戦上手の腕輪、業物の剣を併せ持っていれば、竜や魔人はともかく、人型の怪物に負ける気はしませんね。呼吸困難さえ治れば、その辺りとさえ五分に渡り合える気がします。さて、残る問題は、指輪ですね…。
古来、黄金の指輪には邪悪な魔力が宿るという先例もあります。勿体ないですが、敬遠しておきましょう。
冒険記録紙
名前:カサンドラ
装備:剣、革の鎧、ザック、幸運の薬、地図、万能薬、除草剤、虫除け、聖水、光の指輪、自動縄、捕縛網、探水棒、封炎玉、真鍮のフルート、鼠の骨のネックレス、“戦鎚”の柄、戦上手の腕輪、ベラドンナ草、妖精の粉、業物の剣、ドラゴンの歯、力の回復薬、手裏剣、巧みの籠手
お宝:金貨22枚、銀の箱、黄金の耳飾り(金貨5枚)×二