ぼくのお父さん
ぼくのお父さんは、昔話が大好きです。毎日毎日、ぼくにむかしむかしのお話をしてくれます。
お父さんによれば、僕たちのご先祖様は海の中からやってきたのだそうです。お魚ががんばって地上に上がって、だんだんと今の人間のすがたになってきたのだそうです。
だから、人間が海に懐かしさを感じるのは当たり前だ、とお父さんは言いました。
そんなお父さんのお仕事は漁師です。海に昔からいる、ご先祖様が拝んでいた神様がぼくたちのために泳がせているお魚を捕ってくる、大事なお仕事です。
何が大事かというと、ぼくたちがいつか神様の元にかえっていく時のためにいっぱいお魚を食べて、力をたくわえなければならないからです。おとなりのおじさんも、お向かいのおばちゃんも、そうやって神様の元にかえっていきました。ぼくのお母さんも、この前神様のところにかえると言って家を出て行きました。
ぼくがお父さんにどうしてお父さんはかえらないの? ときくと、お父さんはお魚を捕る大事なお仕事を神様からおおせつかっているから、がんばらなくちゃいけないんだよ、と言いました。神様からお仕事をもらうなんて、お父さんはすごい人だなあとぼくは思いました。
それと、お父さんにはもう一つ大事なお仕事があります。ときどき、お父さんをねらってわるい人たちがこのまちにやってきます。お父さんはそいつらをとっちめて、神様のためにはたらかせるお仕事もしています。
この間、ぼくははじめてそのお仕事を手伝いました。お父さんのいうとおりにやっていったら、神様のご飯作りっていうたいへんなお仕事だったけどちゃんとできました。
お父さんは、いつもこんなお仕事をやっていてすごいなあ。ぼくもお父さんみたいに、ちゃんとお仕事できるようになりたいなあと思いました。
以前「史上最小のクトゥルー神話賞」に投稿したものです。