第一談。主人公たるもの質問は堂々と
作中、一人称・二人称・三人称とコロコロ変わりますので、そういったのが苦手な方はご遠慮くださいませ。
また、作中の主人公の言動を真似ると痛い目で見られる可能性があるのでご注意ください。尚、そのような事態に陥っても当方は一切の責任を負いかねます。
もしも昔の人間が『飛行機』を見たらどう思うだろうか?
もしも『ライター』を見たら?
もしも『携帯電話』を見たら?
『冷蔵庫』『自動車』『電子レンジ』『テレビ』『インターネット』――と。
無数に、無尽に、小さなものまで挙げ続ければ限りがないが、これら全ては『科学』の賜物だ。
長い歴史を経て、人類は進化ではなく進歩を続けてきた。理解を超える現象を『科学』によって解明し続け、そして自らの力として利用してきた。
だからたとえ昔や今、理解を超える事柄だとしても、未来には『科学』として扱える可能性を、人間の探究心は秘めている。
さて、先ほど投げ掛けた質問に私自身の意見を述べようと思う。
『飛行機』は、自在に空を飛ぶ乗り物。
『ライター』は、手の平から火を出せる道具。
『携帯電話』は、遠くの人の声が聞こえる薄い板。
もしも、これら『科学』の賜物を、昔の人間が見たなら口々にこう言うだろう。
『魔法』のようだ、と。
そして二十一世紀初頭、人類はついに『魔法』を『科学』の一部にすることに成功した。
人類は進歩を続ける生き物だ。
だが時として、過ちを犯す生き物でもある。自ら不幸を生み出す生き物でもある。
『飛行機』は、その機動力で不毛な戦地を広げた。
『ライター』は、その手軽さで悪意の火種を生んだ。
『携帯電話』は、その利便性で人間の関係を弱めた。
だけどそんなことを望んだ科学者は、一人としていないはずだ。誰もが皆、自らの研究は人を幸せにするものであれと願ったはずだ。
しかし、不幸は生まれる。人間のみならず、それは世界を蝕む。
たとえ、不運な事故であれ――明確な人為であれ。
だから私は少しでも多くの人々が、できることなら全ての人々が、幸せでいられることを祈り続ける。
もちろん、これは私の勝手な行動による、勝手な祈りだ。
もしかしたらこれも、長い歴史の上の一つの過ちなのかもしれない。
だけど、だから、だからこそ。
私はこの世界の行く末を、見届けなければならない。
野々原市は『魔法科学』で有名な学術都市である。
高校・大学などの教育機関や、国立・民間の研究施設が市内にいくつも点在し、住民の半数以上がその関係者となっている。
そしてそんな野々原市において、名門と呼ばれる学校がある。
私立鈴ノ美山高校。
ヨーロッパ・アメリカに続いていち早く『魔法科学科』を取り入れた鈴ノ美山高校は、その圧倒的な生徒数と、各国から集めた優秀な教師陣によって国内のみならず、世界有数の『魔法科学』の名門校となった。
そして季節は桜咲き誇る春。
場所は、入学式が行われている大ホール。
普段は学園祭や式典などでしか使わないそこには、ブレザータイプの真新しい制服に身を包んだ数多くの学生が、整然と並んだパイプ椅子に静かに座っていた。さらに彼らの父母たちもその後ろに用意された椅子に座り、それを囲むように壁際に教師陣も並ぶ。
「――以上で、鈴ノ美山高校の入学式を終了とさせて頂きますが、何か質問のある方はいらっしゃいますか?」
ホール前面の舞台に設置された壇上で、スーツのよく似合う初老の女性が手元のマイクを使い、式を締め括ろうとしていた。
質問、と言っても例年誰も訊くことはない。
こんな大勢の前で堂々とそんなことができる人間など、そうそういるものではないし、人目を特に気にする高校生なら尚更だ。
だからこれは形式上。あくまでもカタチ――のはずだったが、
「はい! 質問、あります!」
今年は違った。
学生たちのちょうど真ん中辺り。ホール全体に届くほどの通る声で、一人の男子学生が手を高々と挙げた。
一瞬のざわめき。自然と式場全員の視線が彼に集まる。
しかしそれに臆することもなく、続いて彼は勢いよくパイプ椅子から立ち上がる。
「あの! 『風』の魔法を使えるには、どのくらい掛かりますか?」
そんな彼の質問に――というより、質問されたという事実にやや驚いたものの、
「……『風』……と一口に言っても色々ありますからね。扇風機程度の風だったり、気象を操れるほどの風だったり……君は、どの程度の魔法科学を使いたいのですか?」
壇上の女性は柔和な笑顔を浮かべ、すぐに丁寧に訊き返した。
そして男子学生も、それに答える。
「いえ、そんなすごいレベルじゃなくていいんです。僕はただ――」
姿勢を崩すことなく凛と立ち。
親からもらった何一つ恥じることのない顔で。
迷いのないまっすぐな瞳で。
灰色の髪の少年は続ける。
「スカートめくりができるレベルの魔法が使いたいんですっ!」
彼の名前は春壱――藤春壱。この物語の主人公の一人だ。
私は彼とこの世界の行く末を、見届けなければならない。
――正直、自信はない。




