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月の裏側で会いましょう

作者: euReka

 携帯の電池は切れかかっていた。

「むうう〜んが、がんばれえええ〜っ!」

 僕は、何かの冗談みたいに明る過ぎる病室の中で点滴を受けている。

「僕さ、睡眠薬ビンごと飲んだから今すごく気分悪いんだよね」

「もしもし? たけちゃん学校に好きな女の子いるの?」

「いない……あのさあ、携帯ぜんぜん充電してないからもう電池切れちゃうよ」

「じゃあ、ゆかりんが恋人になってあげるでゴワスよ西郷どん」

「でも僕らいとこだし、ゆかりは大人だし」

「わっはっは、冗談だってバンジージャンプ!」


 次の日、ゆかりは僕の病室を訪ねてきた。

「ほれお見舞いだぞ」とゆかりは言って、白いベッドの上に表紙がヨレヨレになったエロ本を放り投げた。「アタシのお気に入りさ」

「お気に入りって?」

「ゆかりん女の子が好きなの。まあ男もいけるけどね」

 ゆかりは急に何を思ったのか、僕の頭をワシ掴みするとボーリングの玉みたいにぐりぐりと撫で回した。

「うっひっひ、元気になれよ坂本龍馬!」

 僕が手を振り払おうとするとゆかりは、僕をベッドに押し倒してキスをした。耳を舐めたり舌を入れたり。

「ぷっはー! これで充電完了ぜよ! じゃあな」


 ゆかりが帰ったあと、僕はヨレヨレのエロ本を開いてしばらく眺めた。でも気分が乗らなくて、試しにゆかりのことをオカズにして抜いてみた。2週間ぶりに。

「ヤッホー」

 携帯に出るとゆかりの声が聞こえた。

「エロ本役に立ったかニャ? じつはゆかりん今度結婚するの。ダーリンはね、エジプト人のイケメンなんだ」

「いったい何の話?」

「そんでね、エジプトの女子って超可愛くて、超萌えまくりんぼーダンス×3=村上春樹なの♪」

 つまりゆかりは結婚して、その相手とエジプトに行ってしまうという話だった。

「初耳だね」

「えっへっへっ、吉田松陰もビックリさ」

「ねえ」僕はずっとゆかりにききたいことがあった。「なんでゆかりっていつもテンション高いの? ウザいと思ってる人だっていると思うんだよね。あとさ、ついさっきゆかりのことオカズにしたから」

 ゆかりは月のウサギみたいに押し黙っていた。

「あ、あ、結婚おめでと、本ありがと」

 携帯の向こうでウサギは小さく笑った。

「エジプト人の彼ってね、チンチン起たない人なの。だからアタシ、彼と生きていくことにしたんだ」

 ウサギは涙を流していた。

「毎晩ね、月の裏側で愛し合ってるの――誰も知らない、秘密の方法でね」


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